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二十五話 別れと暗殺者集団


グラール伯爵家の屋敷を訪れてから二日後の早朝、出発の準備を整えたアルレルトはヴィヴィアンを連れて、妖精の宿り木亭の前にいた。


「シネアさん、しばしの別れですね」

「はい、宿屋が直ってまたこの街に来たら泊まっててください」

「勿論、喜んで泊まりに来ます」


アルレルトは頷き、シネアの頭の上に座る妖精に目を向けた。


「ニコ様も短い間でしたがありがとうございました」

「お主とイデアの夢は途方もなく大きい、それでも挫けず前に進み続けるのじゃ。これは妖精()からの助言なのじゃ」

「ありがたく頂戴致します、お二人共どうか息災で」


二人に手を振り、アルレルトは歩き出した。


二人との別れは寂しい、いつまでもあの宿屋にいたらずっと泊まっていたくなってしまう、それほどまでにあの宿屋は居心地が良かった。


「俺は案外寂しがり屋なのかも知れませんね」


そんなことを呟くと、無性にイデアに会いたくなってきた。


「アーネ、ヴィヴィアン、バーバラに着いたら俺の仲間を紹介します」

「(《双杖》のイデア、どんな人間か気になる)」

「バーバラに行けばすぐに会えますよ」

「グルルゥ!」


元気に吠えたヴィヴィアンに笑みを向けてアルレルトは北門に向かって走り出すのだった。



早朝の為、人が少なかったので全速力で駆けたアルレルトにアーネとヴィヴィアンはしっかりと付いてきた。


亜竜のヴィヴィアンは街中なので竜翼は使わず四足歩行で走り、アーネも人獣の姿になって四足歩行でアルレルトに並走していた。


「アーネの身体は獣と混ざっているようですがそれも魔術なのですか?」


走りながらふと気になったことを聞いてみた。


「うん、人獣魔術という魔術、身体の一部を獣に変える魔術」

「一部と言いましたがアーネの身体はほとんど獣に変わっているように見えますが?」

「私は特別、人獣魔術をさらに深化させることで狼獣と融合した。だから私の身体は人間の知能を持ちながら狼獣の力を振るえる」


自分の身体を狼のような獣に変える魔術、聞いただけでも凄まじい魔術だと分かるがアーネは自分のその魔術の完成形だと言った。


「俺には未知の世界です、魔術にも様々なものがあるのですね」

「アル様の考えは正しい、魔術の種類はたくさんある。私が知らない魔術も数多くある筈」


そんな会話をアーネとしていると北門が見えてきた。


「アーネ、戻ってください」

「うん」


トビリスの姿に戻ったアーネは左肩に着地、アルレルトも速度を落として後ろを走るヴィヴィアンと並び、やがて馬車とそれを囲む騎士たちが見えてきた。


中級(ミドルクラス)冒険者アルレルトと申します」


アルレルトは警戒心を露にした騎士たちに対して、ドッグタグを見せた。


「君が旦那様から聞いた冒険者だな、私はクリムト・ボードウィン。第三騎士隊の隊長を務めている者だ」

「よろしくお願いします」


握手を求めたアルレルトに馬から降りたクリムト騎士長は笑顔で応じ、握手してくれた。


アルレルトが加わったことで馬車と護衛の一団は街を出発し、アルレルトはグラールに別れを告げるのだった。。


◆◆◆◆


辺境都市グラールから迷宮都市バーバラまでの道のりは比較的安全だった。


時折街道にはぐれの魔獣が現れるが貴族に仕える騎士の実力は確かなもので大した苦戦もせず、討伐する為アルレルトの出番はなかった。


しかし異変が起きたのは道のりを半ばまで進んだ時だった。


ヴィヴィアンの背に乗り列の最後尾にいたアルレルトは一団が止まったことに気付いた。


「何かあったのですか?」

「うむ、折れた木が街道を塞いでいたのだ。今騎士たちが撤去しているから十分もあれば再出発できるだろう」


近くにいたクリムト騎士長に話しかけると、そう答えてくれた。


少し気になったアルレルトが前に行こうとすると、アルレルトの耳に風切り音が聞こえた。


「"神風流 天刃”!」


半ば反射的に身体が動き、抜刀と共に放たれた斬撃が突如飛来した弓矢を斬った。


騎士たちが驚く暇もなく、斬られた弓矢が爆発した。


「うわぁ!?」

「何が起こった!」


急な爆発で馬が混乱し、騎士たちが必死に宥めていると、アルレルトは急速に近づいてくる無数の気配を感じた。


「騎士の皆様、敵襲です!」

「敵襲だ!、お嬢様をお守りしろ!」


アルレルトとほとんど同時にクリムト騎士長が檄を飛ばすと、森から十数人の黒い影が現れた。


騎士たちがそれぞれ応戦する中、アルレルトにも一人の剣士が斬りかかってきた。


難なく受け止めたアルレルトは猛然と振るわれる剣戟を冷静に捌ききった。


「なっ!?」

「"神風流 斬風”」


驚く剣士の隙をつき、振り下ろした袈裟斬りが防御した得物ごと剣士を斬り捨てた。


「アーネ、ヴィヴィアンと騎士たちの援護を!」


血飛沫を上げながら吹き飛んだ剣士を追撃する前にアーネに指示を出した。


「分かった!」


一瞬で人獣になったアーネは四足歩行で接近し襲撃者の一人を攻撃した。


そんなアーネを様子を見ながら、吹き飛ばした剣士にトドメを刺すと背筋を悪寒が襲った。


咄嗟にしゃがみながら、振り向くと剣を握る黒づくめの剣士と目が合う。


両者共に最速の突きを放った。


「"瞬突(しゅんとつ)”」「"突風”」


二人の突き技が正面から衝突し、一瞬の均衡を経てアルレルトの突きが勝ち、相手の剣士の脇腹を抉った。


「ぐふっ」

「"神風流 荒風”」


後退した隙を見逃さず、踏み込んだアルレルトの連撃が剣士の頭と胸を切り裂き、絶命させた。


少し周囲を見回す余裕ができたアルレルトは騎士たちが思いのほか苦戦していることに気づいた。


(騎士たちが苦戦するほどの敵、やはりただの野盗などでは…)


アルレルトの思考の決着を待たずして、二人の黒づくめに襲われた。


後ろに下がったアルレルトは冷静に中段を構えた。


「シャリスとナハスの二人をこの短時間で斬るとはな、上級(ハイクラス)の冒険者か?」

「ーーー」


饒舌に話すのは二本の剣を持つ茶髪の剣士、逆に一言も話さないのは二本の短槍を握る小躯の槍使い、どちらも気配と構えからして強者だ。


「戦えば分かるか、"天明流 刃破(じんは)”!」


一瞬で差を詰めてきた二剣使いの刃が、迫ってきた。


見たこともない剣技だが手数を生かした連撃と判断したアルレルトは正面から迎え撃つ選択を取った。


黒鬼を流れるように鞘に納め、間合いに入った瞬間アルレルトは抜刀術を放つ。


「"神風流 鳳凰剣”」

「うぉ!?、抜刀術か!」


アルレルトに弾かれた二剣使いは最低限の動きで体勢を立て直したが、アルレルトは既に次の技を放っていた。


「"神風流 薙風”」

「ぐぉ!」


アルレルトの薙ぎ払いを受けた二剣使いは横にかっ飛んだ。


二剣使いを気にする前に、先程まで沈黙していた小躯の槍使いの槍が目の前に迫っていた。


無論黒鬼で受けたが、すかさずもう一方の槍が顔面に迫る。


首を捻って、何とか躱すも首の皮一枚斬られた感覚が走り、即座に槍使いを押し返したが暖簾に腕押しが如く槍使いが独楽(こま)のように回って、正面に着地した。


(小躯を活かした体術!、子供がこれ程の動きをするのか!?)


再び迫る槍の連撃を捌きながらアルレルトは目の前の槍使いの動きに驚愕した。


「俺の事を忘れるなよ!」


斜め後方から吹き飛ばした筈の二剣使いの剣撃が迫るが、当然察知していたアルレルトは目の前の槍使いを弾き飛ばす。


「"天明流 連破(れんぱ)”!」

「"神風流 辻風”」


先程の連撃より斬撃の数が多いと判断したアルレルトは手数重視の"辻風”で全ての斬撃を受け切った。


「やるじゃねぇか!」


二剣使いはさらに前に踏み込み、剣を振るかと思えば蹴りを放ってきた。


瞬間的に黒鬼で防いだが衝撃までは殺せず、僅かに体勢が崩れた。


「終わりだ!」

「いいえ」


二剣使いの言葉を否定したアルレルトは崩れた姿勢を立て直さず後転、背中側に回した黒鬼で二剣使いの追撃を防ぎながら見事着地した。


「曲芸かよ!」

「"神風流 天風(あまかぜ)”」


二剣使いの戯言には答えず、防御を打ち破る怒涛の連撃で二剣使いを物言わぬ死体に変えた。


不意打ち気味に短槍が飛んできたが、アルレルトは振り向きもせず黒鬼を振って弾いた。


ゆっくりと振り向き、弾き飛ばされた短槍を拾った槍使いと対峙した。


「ーーー」


二本の短槍を持つ小躯の槍使いは相変わらずの無言、その表情すら黒衣の覆面によって見ることすら叶わない。


「「ーーー」」


二人はジリジリと距離を詰め合い、少しずつ接近しあった。


アルレルトに見えていた、速さに任せて切りかかれば先程見た奇妙な体術でいなされ反撃を食らいかねない。


二槍使いとてそれは同じ、小躯な身体を見るに膂力は明らかにアルレルトの方が上で正面から打ち合えば勝ち目は薄いはずだ。


「アルレルト!、襲撃者はあらかた倒した!、お嬢様も無事だ!」


二人の均衡を打ち破ったのはクリムト騎士長の言葉で、意識を後方に向けると襲撃者の気配をほとんど感じなかった。


(流石は騎士、最初は不意打ちのせいもあって苦戦していましたが無事切り抜けましたか)


アルレルトが一瞬胸を撫で下ろした隙を突いて、二槍使いは跳躍、隣接する森に飛び込んだ。


「追うな!、お嬢様の安全が最優先だ、すぐさま移動するぞ」

「………承知致しました」


追おうとしたアルレルトはクリムト騎士長に止められて、不満を残しつつも血振りをして黒鬼を鞘に納めるのだった。


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