十七話 アルレルトの作戦と偵察
「諦めるのはまだ早いですよ、レイシア」
レイシアの肩に手を置いたアルレルトを冒険者たちは疑念に満ちた視線で見ていた。
強いということしか分からない灰色のローブを着た正体すら分からないアルレルトを全く信じられないからである。
「先に言いましょう、俺の名はアルレルト。下級の冒険者です」
「「「「なっ!!??」」」」
フードを取って灰色のローブを脱ぎ捨てたアルレルトが見せた下級のドッグタグに冒険者たちは目を剥いた。
「どうして下級の奴がここにいるんだよ!」
「理由は説明されたはずです、俺はレイシアに助っ人として呼ばれたのです」
アルレルトの言葉で冒険者たちの視線が一斉にレイシアに向いた。
「下級の冒険者が助っ人とは俺たちを舐めてるのか!?」
「いくら上級とはいえ許されないぞ!」
怒声を上げて怒る冒険者にレイシアはあくまで冷静に答えた。
「負傷した冒険者に聞けばいい、アルレルトが二匹のハイゴブリンを討伐したことを証明してくれる」
レイシアの言葉で他の冒険者の目配せを受けた冒険者が負傷者が居るテントに向かった。
「彼を待っている時間はありません、俺の腹案を現実のものにするにはあなた方の力が必要です、だから俺も正体を明かしたのです」
正体すら分からない奴の言うことは信用出来ない、そんな冒険者たちの心情を汲んだ誠実なアルレルトの考えを一部の冒険者は察した。
「俺はお前が上級の助っ人だって言われても驚かねぇぜ」
「ベイジン!?」
「お前らだって見てただろ?、こいつはあの《双杖》が連れてきた男だ」
ベイジンの言葉に彼のパーティーメンバーだけではなく、他の冒険者たちも呻き声を上げた。
「それに俺は模擬戦でこいつに手も足も出ずに負けた」
「「「!?」」」
「嘘だろ!、ベイジン!、お前負けたのか!?」
パーティーメンバーの問いにベイジンは頷いた。
「だからよ、腹案とやらがあるなら聞かせろや」
「ーーーありがとうございます、ベイジンさん」
丁寧に頭を下げたアルレルトにベイジンは顔を背けた。
「か、確認してきました!、ソイツが二匹のハイゴブリンをいとも簡単に討伐したって言ってました」
「これでアルレルトを疑う理由が無くなった」
レイシアのつぶやきにアルレルトは頷き、冒険者たちを見回したが、もう疑いの視線を向けてくる冒険者はいなかった。
「では改めて小鬼の砦での詳細な地図はありますか?」
「ああ、さっき行った時に貰ったぜ」
「ありがとうございます」
羊皮紙に書かれた地図を受け取ったアルレルトは地面に落ちていた小石をいくつか拾うと、地面に地図を書き始めた。
「俺の考える作戦は単純です、俺とレイシアが小鬼を引き付けてその隙にあなた方が連れ去られた冒険者を助ける。ただそれだけですが…」
完全に地図を書き終えたアルレルトが顔を上げた。
「この作戦を完遂させるにはより多くの情報が必要です、俺は偵察に出ます」
そのまま回れ右をして森に入ろうとしたアルレルトをレイシアが止めた。
「目は多い方がいい、五人連れていく。あとは任せる」
「ありがとうございます、レイシア」
レイシアの指示で五人の冒険者と共にアルレルトは偵察に赴くのだった。
◆◆◆◆
五人の冒険者と森に踏み込んだアルレルトは慎重に隠密行動を取りつつ、小鬼の足跡を追って砦に近付いていた。
「お分かりかと思いますが相手をたかが小鬼と侮らずに、統率者がいる可能性もありますのでどんな罠があるか分かりません」
行動と同様に慎重なアルレルトの発言に冒険者たちは曖昧に頷き、一人の冒険者が声を出した。
「その口振りだと随分森に慣れてるんだな」
「はい、俺は森育ちですので森の魔獣には慣れています」
アルレルトの何気ない一言に冒険者たちは驚愕した。
何故なら森とは魔獣の世界であり、とても人間が住めるような場所ではないというのが常識だからだ。
アルレルトの知らぬうちに冒険者たちがアルレルトの凄さに感心していると、先頭を歩くアルレルトが止まった。
「小鬼の砦です、皆様も方々に散らばって偵察を敵の数に位置など見たもの全てを持ち帰って下さい」
冒険者たちはすぐさま散らばり、アルレルト自身も目の前の小鬼の砦を目を皿にして観察した。
(入口は二つ、木製の壁は硬そうですが俺とレイシアなら乗り越えられそうですね。問題は小鬼の数ですが…)
アルレルトは一度アーネを懐から出して肩の上に乗せると近くの樹木にしがみついて、よじ登った。
森育ちのアルレルトにとって木登りは必須の技能と言って過言ではなく、木に登ることで命の危機を脱したのも一度は二度ではない。
「ーーー小鬼は二百匹程、ハイゴブリンは十匹ですか」
樹木の上に辿り着き、ざっと目を通して砦の中にいる小鬼の数を数え、ハイゴブリンの数も確認すると明らかに他の小鬼と風体が違う小鬼を見つけた。
恐らく指揮個体であろうと当たりをつけたアルレルトの視界には残虐な笑みを浮かべる小鬼に囚われた冒険者たちが嬲られている光景も映った。
「キュウ」
「そんな心配そうな声を出さなくても無策で突っ込んだりはしませんよ」
無意識に剣を握っていたのか、か細い鳴き声を上げたアーネにアルレルトは笑いかけた。
深呼吸して高ぶる気分を落ち着けたアルレルトは必ず救出すると心に誓って木から降りるのだった。
◆◆◆◆
木から降りたアルレルトは五人の冒険者と合流して野営地に戻り、レイシアを含めた他の冒険者たちを集めて作戦を煮詰めた。
「砦の入口は二つ、中には二百匹程の小鬼と十匹のハイゴブリンがいます」
「その数なら私とアルレルトなら大丈夫」
「俺も同意します」
レイシアの太鼓判を得て陽動作戦を完成させ、次に人質を救出する冒険者たちの侵入路を模索した。
「人質は全身に怪我を負っているので全員を救出するには最低でも十五分の時間が必要ですね」
「この入口を使うのはどうだ?」
「見張りの小鬼を隠密で殺す必要がありますが、より多くの冒険者を砦の中に入れるにはそれが確実ですね」
「でもこの入口は外側からじゃビクともしなさそうだったぞ」
アルレルトと偵察に行った冒険者の一人が手を上げて発言し、他の冒険者たちは頭を抱えた。
「確かに入口そのものを破るのは至難の業ですがそれならば小鬼共に開けさせれば良いのです」
柔和な微笑みと共に投じられたのは、まるで絵空事のような意見だったが言った本人は真面目そのものだ。
「そ、そんなことできるのか?」
「はい、恐らく。逃げるのが得意な囮の冒険者が数人いれば可能です、彼らを使って…」
アルレルトが告げた作戦案は冒険者たちを驚かせたが、成功する可能性は高いように感じられた。
あらかたの意見がまとまり、陽動救出作戦案が完成しつつあるのを見計らってレイシアは佇まいを正した。
「この作戦の目的は人質の救出、そして砦にいる小鬼を殲滅する、もし不測事態が起きた場合、直ぐに人質を連れてグラールに撤退する。質問は?」
真剣な表情の冒険者たちからは誰も質問の声は上がらず、レイシアは静かに呟いた。
「ん、質問がないなら小鬼共の砦を襲う」
奴らが野営地を襲撃してきたように、言外の言葉を皆が共有しカリジャ森林へと踏み込むのだった。




