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夢のかけら  作者: 高原 涼子
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 和己、とちいさく声をかけられて、顔を上げる。珍しく人が出払っている部屋の中には恒と二人きりだ。

「ん〜?」

 間延びした返事をするとコの字に並べた隣の机から恒が覗きこむ。

「和己たちは悠さんからどんな風な衣装になるとか聞いてるの?」

「聞いてない」

 気にならないといえば嘘になるけれど、担当する者以外は事前に知らない方が秘密は守られるので知らない方がいいと思っている。

「興味はあるけど、当日堪能すればいいと思ってるから、知らない方がいい」

 堪能という言葉に恒が若干ひいているのも自覚しつつ、更にひかせてしまいそうな台詞を告げるべきか悩んでいると人が戻ってくる気配がした。

「あんまりかわいいこと言ってるとセクハラされるよ」

 どこからか話を聞いていたのかもしくは聞いていなかったにもかかわらず、部屋に戻ってきたときの空気を読んだのか、相変わらず的確な言葉が悠から放たれる。

「……」

 和己が否定しなかったから恒が更にひいたのが伝わってくるけれど、無言のまま笑顔を向けると、やがて警戒したような表情がふにゃりと崩れて無防備になる。

 和己の向かい側にいる悠が呆れたように頭を振って、手にした書類を和己に手渡しに近づいてきた。

「……和己ちゃん、これ」

 受け取ったそれに目を通してわずかに眉を寄せた和己は立ち上がり椅子に座った悠の隣にしゃがみこむ。

「悠さん、この項目なんですけど……」

 和己が指した箇所には〈生徒会長によるミスコン衣装一式買い取り〉と記載がある。続く二行にも別の似たような文言があるのだが、そこに触れる予定は和己にはない。

 普段とは異なる呼びかけに、恒が不思議そうに視線を向けるが、それにさえ気付かない和己の表情は真剣なような、困っているようなどちらともつかないもので、僅かに首を傾げてから手元の作業に意識を戻している。それを確認した上で主語を省いた会話を悠が続けていく。

「必要かなと思って記載したんだけど?」

 話しながら紙にペンを走らせる。

『君が買い取りすれば、いつでも恒ちゃんに着せ放題だよ』

「必要ないなら項目削除して清書し直してくるよ」

 和己がしばらく無言でいるのは、まだ見てもいない恒の姿を思い浮かべているからだろうか。

「……いや、このままでいいや」

 頷いて書類を手にしたまま立ち上がる。そのままの流れで処理済と記載されたボックスに入れたら恒が分類してしまって内容を確認されてしまうため、和己は処理の終わった用紙を生徒会長専用のファイルに綴じてしまう。いずれ恒の目につかないタイミングで該当するファイルに綴じ直す予定にした。


 ◇◇◇


 講堂のステージに様々な趣向をこらした衣装を着た一年生たちが出てくると会場内から感嘆の声や笑いがおこる。

 その中で一番目立っているのは何故か司会者なのだが、そう仕向けた張本人はあまり意識しているような雰囲気はない。

「あいかわらず悠ちゃんは美少女に仕上がってるなあ」

 和己からすればかなり感心しているのだが、口調が軽すぎて褒めているのかからかっているのかわからないというのが周囲の意見である。

 黒のミニスカートのメイド服にヘッドドレスはお揃いなのがわかっている分、妄想が膨らむ。

「顔にしまりがなさすぎる」

 主催者側である生徒会の役員は舞台のすぐ下に席を置いているため、並んで座らざるをえない。和己の表情が崩れるたびに、なんとかしろと高槻が嫌そうに言うのを無視して、時折意識を飛ばしていると、ようやく最後のエントリーとして恒と俊が呼び込まれた。

「……空気変わりすぎだろ」

 高槻が思わず舌打ちしてしまう程度に熱気が伝わってくる。

 お揃いの服を着た三人が並んでいると倒錯的な気分になるのもわからなくはないが、悠だけが目立っていた時よりも目立つ。

「目くらましのはずがうまく二人を引き立てたねぇ」

 弘夢が感心したように呟いて、隣の弘幸が苦笑いしている。少しだけ心配そうに弟を見る視線に気づいたのか「大丈夫だよ」と弘幸にしか聞こえない声でささやいた。

 ささやかな違いがあるとすれば、恒が白のリボン付きのオーバーニーソックス、俊が黒のタイツ、悠は白のタイツを穿いている所と、なぜか恒だけ被っている肩までの長さの緩いウエーブのかかったウィッグくらいなのだ。

 その場で弘夢は冷静だと判断した弘幸がその奥にチラリと視線を移すと、悶えている和己の後頭部を高槻が小突いている姿が目に入った。

「絶対領域とかヤバすぎるだろ!」

「ヤバいのはお前だよ……」

 とりあえずそのやり取りは見なかったことにしようと固く誓って、二人に声をかける。

「集計が終わるまで着替えなかったら自由に動いていいっていうの、二人はなしにした方がいいだろうから、和己が責任持って生徒会室に監禁して。悠は高槻と僕が一緒に集計するから大丈夫だろうと思う」

 そうだなと頷いた二人が席を立って舞台袖に向かうのを確認した後に弘夢に告げる。

「弘夢は全校生徒が講堂から出たのを確認してから生徒会室に合流。それまでは和己に任せているといいよ」

 まだ知られてないなら慌てて合流するよりはいいと思うよと言われて弘夢も頷く。

「別にいつ話しても構わないからいいんだけど、一気に役員が姿を消すのも怪しいからそうするよ。……ありがとう」

 まさかそれまでの短い時間に俊によってバラされているとは夢にも思っていなかったというのが、後日の弘夢の言葉だった。

あと2話くらいかなと思っていたのですがちょうど区切れたので文化祭のお話はここまでにします。

ちなみに人格崩壊してるように感じる方もいらっしゃるとは思いますが、作者の中の和己ってこんな人です。

次はクリスマスまで飛ばす予定です。


今回はムーンも同時に更新です。

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