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夢のかけら  作者: 高原 涼子
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 満天の星空の下、手持ち花火の爆ぜる音。

 昼間とは違う暑さの中、海の香りに火薬の匂いが混ざる。

 夜空に盛大に打ち上がる花火もいいけど、手持ち花火の小さな炎も綺麗だなと思う。真っ暗な中、そこだけがいろんな色に変わる。色が混ざって明るくなる。

 最初のうちは結構騒がしく点けていた火も、途中からはなんとなく静かな空気になってきて、最後の線香花火の頃には、静寂が支配している。

 それにしてもなんで線香花火の時ってみんなしゃがんで火をつけるんだろう。そんなことを考えている俺もご多分にもれずしゃがんでいるわけだけど。

 まあ、この状態になるまでには色々あったわけだけど。……花火は人に向けてはいけませんとかね。テンション高い間の花火って、異様に楽しいんだよね。はしゃぎすぎて疲れるんだけど。

「恒ちゃんは花火大会とか行くの?」

 それまでは所々で誰かが話していたのに、不意にそれも途切れた瞬間に、悠さんの声が響く。新しい花火を物色していた俺はその手を止めて悠さんを振り返った。

「昨年は塾通いしてたから観てないけど、それまでは近所の花火大会は行ってましたよ。家族とだったり友達とだったり」

 今年は和己が一緒だといいなと思っている。他に誰が一緒でもきっと楽しいだろうけど、そこに和己がいなかったら、楽しめそうにないから。

 和己が俺の隣に来る。多分、悠さんがなにを言いたいのかわかってるんだろうな。話の流れからさすがの俺でも見当はつくしね。

「じゃあ今年は僕たちと行こうよ」

 そう言って告げられたのは地域の中でも特に打ち上げ数の多いことで有名な花火大会だった。

「行きたいです。また両親の許可取ってきますね」

 それにしてもあのものすごい人混みの中落ち合うのも大変そうだななんで考えてると、それを見越したかのように悠さんが続けてくる。

「毎年うちのクルーザーでご飯食べながら観るんだよ。うちの双子の姉弟きょうだいとか、そのお友達も来るから、ちょっとした子守もあるけどね」

 聞くと、悠さんの下に小学一年生の双子がいたり、高槻さんの弟もそこと同い年だったりするらしく、その他にも何人か小学生の子たちも来るらしい。

 それにしてもクルーザーかぁ。初めて乗るからドキドキする。夏休みの楽しみがまた一つ増えたことがとても嬉しい。




 最後の一本が燃え尽きて、後片付けをした。別荘に戻ろうと踵を返した俺に和己が声をかけてくる。

「恒、散歩しよう」

 誘ってくる言葉にすぐに頷いて和己の隣に並ぶ。一時間くらいで戻るからと悠さんに声をかけた和己が、行こうと俺の背中に手を回した。

 少しだけゆっくりとした歩調で歩きながら、和己が俺の手を握る。今日だけで何度も繋いだてのひらの熱にまた、ドキドキする。

 しばらく歩いて立ち止まった和己に合わせて俺も立ち止まる。座ろうと促されて隣に並んで砂浜の上に腰を下ろそうとすると、ちょっと待ってと止められた。

「ここに座って」

 指定されたのは和己の脚の間。

「俺に凭れかかっていいから」

「なんか、恥ずかしいよ」

 つかの間の抵抗もあっさり躱されて、俺が和己に凭れるようにして座り込むと、そのままお腹に腕をまわされた。手のやり場に困った俺は、自然と和己の手の甲を包むように置くことになる。

「昼間はごめん」

 耳元に囁かれる声がくすぐったい。身体が密着しているから、全身に響いているみたいに聞こえる。

「悠ちゃんに煽られて余計な嫉妬して、恒にあんな事までさせた。

 後で冷静になったら、悠ちゃんが高槻以外に目移りするはずがないって分かってたのに」

 声にも反省って書いているみたいだ。

「……あれね、恥ずかしかったけど、なんとなくスッキリしたんだ。みんなが俺たちが付き合ってるって知ってる中で、行動の仕方もよく分からなくてテンパってたから。

 午前中の悠さんたちの手繋ぎデートっぽいのも、自分たちの前でだったらそんな風に振舞っていいよってことだと分かったし」

 それでも和己は俺が無理やり和己のことを意識するように仕向けたと思ってたのかもしれない。入学式のあの日に急に生徒会に指名して、放課後はずっと側にいることができるようにしたのは和己だから。それがなければ俺はきっと和己のことが好きだって気づかなかったから。

「俺ね、和己のことが好きだって自覚してから、色々思い出したんだけど」

 和己の肩に頭を預ける。

「入試の時に消しゴム拾ってもらったあの瞬間から、和己のことを意識してた」

 お腹にまわる腕の力がほんの少しだけ強くなる。

「入学式の時は、和己の姿が見たいなって見つけてくれるまでキョロキョロしながら探してた」

「……いないと思わなかった?」

 今までで一番穏やかな声が届く。

「入試の時も生徒会の腕章してたし、入学式も色々動いてたのは同じ腕章してる人だったからいないとは思わなかったな」

 入れ替わりで卒業してるかもとすら思っていなかった。

「無自覚なまま好きになって、和己のことを好きになってたことに気がついたら、それを知られて嫌がられたらどうしようと思って、必要以上に距離を取ろうとしてみたりしたけど、できなくて。

 和己が俺に好きだって言ってくれなかったら、俺から言う勇気はなかったから、感謝してる」

 背中から和己の鼓動が伝わってくる。抱きしめられたまま、こめかみにキスをされて、物足りなく感じてしまった。できるだけ首を傾けてキスをねだると、少し体勢を変えて、唇を合わせてくる。

 最初は触れるだけだったのに、イタズラするように舌で唇を舐められたりして、気がついたら貪るようなそれに変化していた。頭の芯がぼぅっとして、息苦しくて、和己の腕を掴んだ手に力が入る。宥めるように背中を撫でられて、全身から力が抜けた。

「毎年行ってる花火大会は仕方ないけど、他のお祭りか花火大会に二人だけで行こうか?」

 どれくらい時間が経ったのか、和己に身体を預けていると、掠れた声で和己が言う。

「みんなで行くのも楽しいけど、俺も和己と二人だけでいきたいと思ってた」

 二人だけの約束をして、手を繋いで戻ることにした。

ここ数話のフォロー回という感じになりました。

夏の旅行の話はほぼ終わりです。

でも旅行はおうちに帰るまでが旅行なのです(笑)

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