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夢のかけら  作者: 高原 涼子
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 疲労困憊って、きっとこんなときに使うんだろうな。でもまだ動く元気があるから使えないのかな。……精神的に疲れきってるから使っていいことにしよう、そうしよう。

 朝から結構疲れたんだよね。俺にとっては衝撃的なバレてる発言を聞いたり、なぜかバーベキューしてるだけなのに構いたおされたり。

 嫌じゃなかったからうっかり受け入れたら、二人からオモチャにされすぎた。思ってた以上に疲れたけど、先輩たちも俺もこれからは猫かぶりできないくらい、本性出ちゃったんだなと思えば、これからの付き合いもあまり気を遣わなくてよくなったと前向きに考えることにした。

 あ、ちなみにデザートは大変美味しくいただきました。




 ーーというわけで、しっかり食べた後は思う存分遊ぼうと、海に入ることになったのだけど。

 昨日風呂場ではなんともなかったのに、明るいところだからなのか、上半身裸の和己の方を見るのが恥ずかしい。同性の見慣れたものだし、他の人のはどうってこともないのに、だ。泳がない間はパーカー羽織ってくれないかななんて考えていると、頭の上に何かが降ってきた。

「……っ!」

 驚いてそれを手に取ると、なぜか和己のパーカーで。

「まだ海に入らないなら着て」

 困ったように笑う和己になんとなく逆らえなくて、言われるままに袖を通す。

「なんなら着たまま海に入ってもいいからな」

 ごく真面目な表情で念を押されて、うっかり頷いてしまった。俺の反応に満足そうに笑って背を向けた。

「独占欲、強いねぇ」

「和己兄って、こんなタイプなんだ」

 横で一部始終を見ていた悠さんと弘夢が頷きあっている。なんだかいたたまれない気分になってきた。

「悠さんは泳がないの?」

 俺のことから話題を逸らしたくて、水着に着替えることもなく、朝と同じ服装の悠さんに問いかける。

「僕ね、運動神経を生まれてくるときにどこかに忘れてきたんだよねぇ」

 なんでもないような台詞なのに、高槻さんと弘幸さんが肩を震わせる。和己は隠すことなくお腹を抱えて笑っているし、弘夢と俊に至っては目に涙を浮かべて笑いを堪えている。

「野球をすればボールの代わりにバットが飛ぶだろ、バレーボールが前に飛んだのは見たことがないし、バスケなんて恐ろしくてコートに入れるの躊躇うレベルだな」

 和己の言葉に嘘がないのは、みんなはもちろん何故か言われてる本人まで神妙な顔で頷いているので分かる。

「持久力も瞬発力もないからとにかく運動には不向きで、水泳は危なすぎるんだ」

 弘幸さんが何かを思い出して震えている。

「……クロールでも、平泳ぎでも前進せずにただ沈むんだ。俺は悠が浮き輪つけてても水に入らせたくない」

 高槻さんからの悠さんの運動に対して信頼がなさすぎる。

「全部、本当の話だから」

 仕方ないよねと、明るく笑い飛ばした悠さんが

「僕はここで読書でもしてるから、みんな楽しんできて」

 ヒラヒラと手を振って俺たちをビーチパラソルから追い出した。結局パーカーを返しそびれた俺は、濡らすのも汚すのも気が引けたので、なんとなくパラソルの下に戻って悠さんと隣り合わせに座ってみんなが遊んでいるのを見ることにした。

「和己ちゃんが、あんな風に牽制するとは思わなかったよ」

 居心地の悪くない沈黙を破って、不意になんでもないことのように話しかけられる。

「牽制?」

 何のことか理解できずに首をかしげると、これだよと着たままのパーカーを軽く引っ張られた。

「ここにいる全員が、君と和己ちゃんがお付き合いをしているって知っているのに、それでも嫉妬してるんだよ」

 俺もまさか上着を着ろって言われるとは思っていなかったけど、それが嫉妬なのかな。

 何となく暗黙の了解という感じで、気を遣ってもらっているのはわかっていた。付き合い始めてから、今考えると、お互いに意識しているだけの時から見守るように、焦って暴走しないように、穏やかに。

「今だって僕と話してるのに気が気じゃないみたいだよ。……僕に嫉妬する意味なんてないのにね」

 くすくす笑って高槻さんに手を振っている。

「僕はね、幼稚園に入ってからずっと高槻のことしか見てないんだ。それを知っているのに、君と話すだけで和己ちゃんが不安そうな顔をするんだよ。そんな風に弱るから、いたずらしたくなる」

「いたずら、ですか?」

 嫌がらせではなくていたずら。

「そう。本当は二人の雰囲気が変わっても知らないふりをしているのが正解なんだと思うけど、そこをあえてつついてみたり、後はこんな風に……」

 言いながら立ち上がって俺の前に回り込んだ悠さんが、俺の肩に両手をかけて顔を近づけてくる。絶妙な角度で、遠目から見たらキスされてるように見えるんじゃないかなってことに気付いて焦ってしまった。

「悠ちゃん!」

 強めの声が響いて、和己が悠さんを俺から引き離す。乱暴にしたわけではないのだろうと分かるのは、そこに高槻さんがいて、悠さんを抱きとめたまま申し訳なさそうに俺を見ていたから。

 何もないよと言おうとした俺を強い瞳が制する。脱力したように和己が俺の肩に触れて、引き寄せられた。頭を抱え込まれてちいさなため息が聞こえる。

「悠ちゃんが高槻以外のヤツに何かするわけはないって、頭では分かってるんだ。……でもダメだ」

 和己の裸の胸に押しつけられて、その鼓動がとても速いことに気づく。俺はといえば、急な展開についていけないと思いながら、つい笑ってしまった。

「恒?」

 頭は和己に抱きこまれたまま、おかしい訳でもないのに笑いの衝動が抑えられない。

 ヤキモチを妬かれて、独占欲を出してみんなを牽制するなんて、そんな風にされた自分がそれを嬉しいと思ってしまったことが、なんだかとてもおかしくて。

 どうすれば和己がそんな心配しなくても良くなるのかなんて、考えなくても分かる。その答えが正解だとは限らないけど。

 内と外で態度を変えてしまっていた俺が思っていた以上に和己は淋しかったのかなと思う。きっとここにいる人たちは見て見ぬ振りをしてくれるから、それに甘えようと思う。

「……和己」

 呼びかけて目線を合わせる。そうして首に腕を回した俺は、そのまま和己を引き寄せて軽く唇を触れ合わせる。

「和己のことが大好き」

 硬直してしまった和己にだけ聞こえるように囁いた。

糖度高めなお話を目指してみたのですが、ボスのキャラが濃くですぎたかも。

高槻と悠の話もあたためてます。こっちが一段落ついたらこの二人の話も書きはじめたいなと思っています。

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