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夢のかけら  作者: 高原 涼子
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  バーベキューの準備は調っているということで、買出しは夜の花火とおやつ。

 本当は誰か二人くらいで出掛けてもいいのだけれど、ついでにお土産を買いたいという主張もあって、結局全員で出かけることになった。

 こういう時って、それぞれの服の趣味とかもわかるなって思う。俺と俊は似た感じで、襟のついていないシャツの上に薄手のカーディガンにクロップドパンツ。弘幸さんと弘夢は兄弟というのもあるのかやっぱり似てるらしくサマーニットのセーターにジーンズ。和己はこの前と同じでロールアップした開襟シャツにチノパンで、高槻さんは似たような感じだけど半袖なのが和己との違いだった。悠さんはきちんとしてる。襟のついた長袖シャツのボタンをきっちりとめていて、ネクタイしたらそのまま社会人といわれても納得してしまうかもしれない感じ。見た目からハーフの綺麗な女の子が男装してるようにも見えるけどね。

 街へ向かって歩きながら観察していたら、いつの間にか最後尾になっていた。気づいた和己が歩調を合わせて隣に並ぶ。

「観察終わった?」

 冗談めかして声をかけられる。わかりやすくしてたつもりではないのだけど、と返事をする。

 耳元でちいさくささやかれるのには、なかなか慣れない。

「悠さんが美少女にしかみえない」

 周りに聞こえないように和己に返すと、肩を震わせて笑いをこらえているのが伝わってきた。

「性格はオトコマエだけどなー」

 返してくる和己の声に、隠しようのない笑いが混ざっている。

 外見と物柔らかな話し方でごまかされる人も多いけど、ここにいる中のラスボスは悠さんだ。にっこり笑顔でしっかりと周囲の気持ちを忖度した上で爆弾発言を投下する。でも投下される発言って、その人に対して背中を押すことだったりする。昨日の俺に対して言われたこともそうだしね。

「昔からあんな感じなの?」

「性格はほとんど変わらないけど、中等部の時は諸事情あってしょっちゅう泣いてた。解決してからラスボス感が強くなったのはもう笑うしかない」

 そんな話をしながら悠さんを見る和己の瞳が優しく和む。……あれ、なんだろう。ちょっとだけ胸の奥がもやもやする。俺が知らなくて当たり前の過去にヤキモチを妬いているのに気づいてしまった。

 そのタイミングで、不意に悠さんが振り返る。

「和己ちゃん、あんまり余計な事言わないでね」

 聞こえる距離ではないと思ってた俺はびっくりしてたんだけど、和己はそれに対して適当に手を振って

「地獄耳」

 ぼそっと呟いている。

 それが聞こえたわけではないのだろうけど、もう一度俺たちを振り返った悠さんが何か思いついたかのように隣を歩く高槻さんに声をかけて、少しだけ頭を傾けたその耳元に何かをささやく。首を振る高槻さんは嫌そうな表情をしているのに楽しげな笑顔を見せる悠さんが、ダメ押しのように言葉を続けると、空を見上げた後、諦めたように頷いた。

 ごく自然に見える動きで手を繋ぐ二人に驚く。寸前まで嫌そうだったのに、高槻さんが本当に優しい表情をしていて、悠さんのことがか好きな気持ちがこちらにまで伝わって来る気がした。

「……高槻も悠ちゃんもお互いに独占欲の塊みたいなものだから、気にするなよ。あんなのは視界から消えたことにしておけばいいから」

 俺以外は平然としてるのに戸惑っていると、苦笑いした和己がそんな風に言う。

「恒が慣れてないから今まで遠慮してただけだよ。高槻が受け入れたならこれからはあんなの日常になる」

 和己の言葉を受けて、少しだけ離れて歩いていた弘幸さんが俺たちに並びながら話しかけてきた。

 なんで急にその遠慮がなくなったのかわからなくて、和己に説明を求める。

「恒、気づいてないんだ」

 いつの間にか弘夢と俊もいて、驚いたように話しかけてくる。気づいてないの意味もわからなくて困ってしまった。

「ユキ、説明終わるまで離れてて」

 珍しく和己が弘幸さんのことを愛称で呼んだ。高等部に入ってからは呼ばなくなったと聞いていたけど、気が緩むとつい呼んでしまうと言っていたな、なんて考えていると、

「……それがいいだろうね。弘夢と俊もおいで」

 先に行ってるよと俺たちに声をかけて先を行く高槻さんたちを追いかける。俺たちは日影に移動して、立ち止まる。それから和己が話しにくそうに口を開いた。

「昨日の夜、悠ちゃんの言葉を恒が受け入れただろう」

「先輩呼びやめるっていうあれ?」

 思い当たるのはそれしかないけど、念のために確認してみる。それに頷いた和己がなぜか申し訳なさそうに続けた言葉には、とんでもない破壊力があった。

「夏休みに入ってから、恒が学校で俺のこと呼び捨てそうになってたり、話し方がくだけてきたりしてたことなんてしょっちゅうあったのに、今までは何も言ってこなかっただろう?」

 言われてみれば思い当たることがいくつもある。頷くと更に言いにくそうに和己が言葉を続けてきた。

「そこも踏まえておいてほしいんだけど、悠ちゃんには昨日のアレコレがバレたと思う」

 昨日のアレコレって、アレだよな。スキンシップというか……。

「な……なんで」

 狼狽して、上手く言葉が出てこない。

「落ち着け。別にキスしたとかそんなことまで知られてるわけじゃないから。

 ただ、恒が今まで以上に俺に対する壁がなくなったこととか、俺が恒に対していい人ばかり演じなくなったこととか、そんなことに気づいていて、昨日の夕飯前の雰囲気とかからの予測で何かしら変化があったことがバレてる」

 なんだその超能力。

「悠ちゃんは人当たりが柔らかいから忘れがちだけど、学校法人の理事長で、大きな企業グループの会長が父親だろう。確か恒のお父さんの経営している会社もグループ企業の一つじゃなかったか?」

 そんな話をしたことはなかったと思うんだけど、間違ってはいないので頷いておく。うちの学校に入るには学力もだけど経済力も必要だから、調べたらすぐにわかることだし。

 話が逸れかけたことに気づいて、和己が戻す。

「彼は正真正銘のおぼっちゃまで、性格はおっとりしているけど、ちいさな頃から経営者になる為の勉強もしてる。他人ひとを観る眼も養っているんだよ。

 自分の懐に入れた人間に対しては徹底的に甘いけど、その分しっかり観察もしてるから、ほんの些細な心の動きにも敏感なんだ」

 ちいさくため息をついた和己がもう少しだけ続けてもいいかと尋ねてくるので、頷く。

「それで俺と恒の雰囲気の違いとか空気感とかで、あのタイミングだったら断られないって察しての発言があれ。もともと入学式の時点で悠ちゃんが恒のことを気に入っていたのはわかってるんだ。新入生の案内係をするときに自分から声かけたのなんて一人だけだから。俺のことがなくても今くらいの関係は築いていたと思う」

 一気にいろんな情報が入ってきて、ちょっとだけ混乱する。

「それとさっきの行動の繋がりが見えないんだけど」

「まあ普通そうだよな。要はあの二人も恒に対していい先輩を演じていたってこと。被っていたネコーー悠ちゃんに関してはネコっていうよりはライオンかもなーーを取ってしまえば、あいつらただのバカップルだから、恒が全員とのフランクな関係を受け入れた時点で解禁したんだよ」

 納得いくような、いかないような複雑な気分になってしまった。

「あの二人は今みたいなのが素の状態で、高槻さんが本気で嫌がらない限りはあんなものだと思っていたらいいってこと?」

「そういうこと」

 自分なりの解釈をしめすと、それを肯定された。

 要するに俺のことを完全に身内として扱うようになったってことなんだと思う。最初は驚いたけど、彼らが恋人同士なのはわかっていたことだし、それなら相手に触れていたい気持ちは俺にだってわかる。

「最初はびっくりしたけど、気にしないようにするね」

「そうしてもらえるとありがたいよ」

 いろんな意味を込めてそう伝えると、安心したように和己が笑う。説明してくれている間、和己も緊張していたんだなと今更ながらに気がついた。

 そろそろ歩こうかと促されて歩きだす。持ち歩いていた凍らせたペットボトルの氷がかなりとけて、ゴロンと容器にぶつかった。それに口をつけて伸びをした和己が少し話が前後するけど、と続ける。

「恒にとっての特別が俺だけでいいと思ってて、だからいろんな変化があってもできる限り悟らせないように気をつけて動いていたつもりなんだけど、昨日は浮かれて隠しきれなかった。恒の雰囲気だけが変わってたならなんとか誤魔化しきれたと思うんだけど、ごめん」

 本当に申し訳なさそうに謝られて首を振る。だってそれ、独占欲だよね。俺だけが一方的に持っている感情じゃなかったことを知ることができたのが嬉しい。

「それよりも、俺、そんなにわかりやすい?」

 あからさまな態度をとっていたとは思わなかったので、念のために確認してみる。

「俺が自分のことに手一杯の時は気づかなかったけど、恒は感情が顔に出やすいタイプだと思う。正直、こんなに好かれてるの、なんで俺わからなかったんだろうレベル」

 きっぱりはっきり断言されて軽くへこんだ。

「……で、悠ちゃんの態度が変わったことで、あいつらにも何事かあったことはバレてる。

 昨夜は弘夢が上手くフォローしてたけど、どこまでの関係になったとかはわからないまでも、俺たちの距離がここ数日で近くなったことには気づいてるよ」

 ちょっと遠くを見つめたくなった。

「なんか一生懸命がんばってたのがバカらしくなった」

 ぼやくと和己が笑いだす。

「俺にとってはその一生懸命がかわいいんだからいいんだよ」

 行こうと手を差し出されて無意識にそれを握り返す。並んで歩く横顔が優しいなと思う。

「……和己」

「んー?」

 普段は恥ずかしくてなかなか言えないけど。

「好きだよ」

 繋いだ手に力がこもる。

 顔が朱くなっているのは夏の陽射しの所為にして、俺たちは前方を歩く友人たちに追いつくべく走ることにした。

ラスボス降臨(笑)の感じを出したかったけどなんか上手くいかず…。

次回はみんなでワイワイしてるシーンが書けるといいな。予定は未定です。

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