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高校受験当日はとても寒くて、ほんの少しだけ指先がかじかんでいたのだと思う。緊張感の漂う暖房の効いた教室の中、つまんだはずの消しゴムが、コロリと転がって床に落ちた。もちろん受験生である俺が、それを拾えるはずもなく、そっと手をあげようとしたタイミングで机の上に戻された。その対応をしてくれたのは制服を着た在校生で、私語はできないから頭を下げる。
瞬間、ともすれば冷たい感じを与えてしまいそうな切れ長の瞳が、口元に浮かんだ笑みでふわりと和む。
「がんばって」
多分俺だけにしか聞こえなかったはずの、少し低くて優しい声が届いた時、その気持ちが心の隅に生まれてきた。
ほんの少しだけ、出会ったまなざしに。
--世界の色さえ、変わった気がした。
気のせいでなければ、教室の後ろで試験監督の先生の補佐をしていたその人の視線を、試験の間、俺はずっと感じていた。集中力が途切れなかったのは、奇跡だと思う。何度も解いてきた過去問よりもずっと試験問題が簡単に思えたのも、驚くほどに増したその集中力のおかげなのかもしれない。
四月、新しい制服に身を包んだ俺は、淡い期待を胸に私立青蘭学院高等部の正門前にいた。




