53話花火見温泉
目隠しをされているから方向は分からない。ただ、不戦湯の外に連れ出されたことは確かだ。
「リンファまだ?ひょっ!肩になんか乗った!」
「俺だ!」
「なんだラーちゃんか……」
「もういいじゃろう」
目隠しが取られる。もうすっかり辺りは夜だ。
「え……皆集まってどうしたの?」
私を取り囲むのは不戦湯メンバーだけでなく天空の剣パーティやグライス君たちルイス家、冒険者たち、神獣達と様々。
「ナツ。今日が貴方の誕生日だと聞きました」
「えっなんでそんなこと」
「ギルド登録の時に書いてたじゃねぇか」
あぁ……ラーちゃん貰う前に書類書いたっけ
「貴方は人間と魔族を繋ぎこの世界に平和をもたらすという快挙を成し遂げました。本当にありがとう」
ウィラに両手を握られる。周囲の者たちも揃って頭を下げてきた。
「そ、そんなに大したことしてないよ!ほとんど成り行きだし、皆に守ってらわなかったらとっくに死んじゃってるしさ!」
「いいえナツ。貴方にしか成せないことだった。貴方の温泉しか成せないことでした。ですからナツ。私達も、私達にしかできない方法で誕生日をお祝いします」
「打ち上げじゃ!!」
ヒュゥッ
光が空へと立ち上り夜空に咲く、大輪の花火。美しく散っていく一瞬の花火が私の瞳に焼き付いた。
そして続けざまに三発。次々と打ち上がる。
「はな、び……」
「リンファ特性のな?綺麗じゃろう」
ハッとして集まってくれた皆の顔を見る。
「この世界に転生してから、大好きな温泉が皆を繋いでくれた……温泉のせいで危険に巻き込まれたりしたけど、でもやっぱり……会えてよかった、皆と!」
「あぁ!そりゃあ俺らもだぜ!」
「貴方と食べたマケの味も、浸かった温泉の心地良さも忘れません!」
「いい冥土の土産になるくらいはのぅ」
「ゲルガーさん、ユンベルさん、グランツさん……」
「俺っちも感謝してるぜ!ユラの命の恩人だ!」
「はい。私もナツさんと知り合ってから楽しいことばかりです」
「俺も最初は驚かされた。女神と旅が出来たことは俺の誇りだ」
「ドラコさん……ですから私は女神では……」
「私も長らく生きてきましたが、ナツ。君の温泉は天から与えられしギフトです。この私すらも虜とする、ね」
「あぁ。憎たらしいが貴様の温泉は素晴らしい。特に新しい登別と有馬の湯!あれに入ると力が漲るぞ!」
「あはは……」
神獣魔獣コンビの言葉に背後にいるあらゆる魔獣達も頷く。
「グレイトだよナツ君。君の温泉なら大盛況間違いなしと予想したアリスはやはり天才だな!」
「シュタイン様、撫でないでください」
「ナツ様に仕えられて光栄です。今後とも貴方をお守りします」
「キラはお堅いなぁ〜お仕事楽だしいろんな人くるからおもしろいよね〜僕もこれからもナツちゃんと居たいよ〜」
「う……皆私を泣かせに来てる……?」
「皆アンタに感謝してるんスよ。アタイも、ただのコソ泥から料理人の仕事が出来るようになった。人生変えてくれたんスから」
シャルナにコーヒー牛乳を手渡されまた目頭が熱くなる。
「お前は危なっかしいのに、なにかしでかしてくれると期待もしてしまう。不思議な奴じゃ。次はお主が話していたじぇっとばすとやらを作りたいのぅ」
「ぅ、うぅ……もう無理」
ダバダバと涙が溢れる。これが嬉し泣きせずにいられるか。
「何が悲しくて泣いてらいるんだい?人間とは相変わらず不思議だね」
「ネオ……様。いや、これ嬉し泣きなんで」
「嬉しくて泣くのかい?やっぱり人間はおもしろい。君のおかげでこれからも退屈せずにすみそうだよ」
「おぃナツ」
目の前に飛び上がるラーウェル。
「ネオの前で泣く予言。これだったな?」
「あ……いやでも、ひとりぼっちじゃないし」
「温泉が変えたんじゃね?ナツのスキルはそれくらいの力ありそうだもんな」
「適当だなぁ……でも、そうかもね。温泉は万国共通。浸かれば心も体も温まる」
「おうよ相棒!次はどうする?」
「どうしよっか……」
「おぃおぃ」
「温泉に入りながら考えようかな」
「!……名案だなぁっ!最高だぜ、温泉!」
「うんっ温泉は最高!」
◇◇◇
花火を見ながら露天風呂。
静かに流れる温泉の湯。立ち上る煙。体を芯から包み込む温もり。夜空に咲く大輪の花を見つめながら小さく呟いた。
「いい湯だなぁ」




