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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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8/39


教会には子供達の世話をする教会職員の他に、掃除や洗濯や調理などを手伝う一般の使用人も多く、治療院で治療を施す回復職が特別扱いされているようだった。


そのすべてを管理するはずの責任者は年に何度か本部から姿を現すだけの存在なので、実質的な責任者はこの土地出身の牧師だった。

見るからに人が良さそうな雰囲気ではあるが、痩せ細った体型がどこか頼りなさを感じさせる。


「ようこそおいでくださいました」

「本日はお時間をいただきありがとうございます」


いつも通りビシッと決めたレヴィアスが牧師に挨拶をするとキラルがそれに続き頭を下げる。

エルムは教会職員(特に女性)の熱い視線に答えるように笑顔を振りまくので、さっきから辺りの雰囲気が落ち着かない事に牧師は困り顔になる。


エルムは他人の前ではあまり言葉を発せず、その笑顔と繊細な仕草で本性を隠し大抵の事を切り抜けていた。

言い方を変えると(俺に近づくんじゃねぇよ)オーラを振りまいているのだがその効果は結構絶大で、それでも近づいてくる者には容赦なく目にも留まらぬ素早い攻撃を入れ気絶させた。

その様子が端から見るとエルムの美しさに気絶したように見えるので、いつの間にかエルムに近づきすぎるのは危険という噂が立つのだ。


もっともその噂を妬み絡んでくる輩には容赦なくやり返していて、実は三人のパパの中では一番の戦闘好きなところがレヴィアスに脳筋と呼ばれる所以だったりする。


事対人戦ではキラルなら癒やしの効果を持つ笑顔で相手の戦闘意識を無力化させるし、レヴィアスは状態異常で無力化させるか精神攻撃で根本から支配してしまう。

だから傍目には争い事に無縁に見える二人はエルムのことを本気で戦闘好きだと思っていて、辺りの空気がざわめく度にレヴィアスもキラルもまたかと溜息を吐くしかなかった。


しかしエルムにしてみれば他に手段を知らないだけで、平和的解決のための行為だと自信を持っていて、その考えはシャルにもしっかり教えているつもりだった。


「エルムパパやり過ぎよくない」

「そ、そうか・・・」


まさかシャルに指摘を受けるとは思っていなかったエルムは途端に表情を崩す。


「お前の場合余計な争いをわざわざ招いているようにしか思えんな」

「そんな事ないよ。エルムパパが平和的な解決を望んでいるのは僕には分かってるよ。ただやり過ぎるきらいはあるけどね」


レヴィアスの指摘にキラルがエルムを庇うように見せて同じく指摘を入れる。


「いっそのことその顔を隠したらどうだ」

「俺の場合全身を纏う美しさだからな。顔だけ隠しても意味ないさ」


エルムが言うようにエルムはスタイルも抜群で、たとえそれが後ろ姿だったとしても人はエルムに見蕩れてしまう場合が多い。だからけしてエルムの自惚れとは言い切れなかった。


「お前だけ永遠に森にでも籠もってろ」

「おや、レヴィアスパパも俺に嫉妬か?」


神父が居るというのに本性を露わにするエルムをレヴィアスも隠す気もなく冷たい視線で睨む。


「エルムパパもレヴィアスパパも今日は神父様にお話があるんじゃないの」

「そうだよ、シャルの前で恥ずかしいよ二人とも」

「ハハハハハ・・・」


乾いた笑い声を漏らす神父に三人のパパ達は反省の色を示す。

久しぶりに人間の居る世界に戻って勝手が掴めないのか、それとも意気込みすぎた反動か、いつもとは三人とも微妙にペースが違っていることを自覚した。

それに教えているはずのシャルに窘められるなど不覚にもほどがある。


「これは恥ずかしいところを本当に申し訳ない」

「すみませんでした」

「いえいえ、私共の方こそ職員の教育が行き届いていませんで申し訳ありません。応接室へとご案内いたします。そこでお話を伺いましょう」


シャルと三人のパパ達は神父に応接室へと案内され話し始める。自分達の家族関係が特別であることを。それによってシャルが不利益を被ることのないようにしたいと。

しかし話を聞き終わった神父は笑顔で頷いた。


「何も特別な事などありません。シャル君には素敵なパパが三人も居て寧ろ羨ましいですね」

「うん!」

「シャル、うんじゃない返事はハイだ」


シャルも少し浮かれているのか、最近はちゃんと返事ができていたはずなのにすっかり忘れていた。


「この教会では身寄りのない子を何人か預かっています。彼らも別に特別ではありません。ただの環境の違いです。環境の違いは言い出したらキリがありません。私共はその環境の違いを羨んだり妬む時間を他の事に使うように教えています。シャル君もこれからは自分のためになる時間の使い方を私と一緒に考えましょうね」

「はい!」


パパ達三人は神父の曇りのない目を見て、取り敢えずこの教会にシャルを預けても大丈夫だと思う。

そうして午前中の三時間、パパ達が開店準備をしている間シャルを教会へ通わせることを決める。


「これからどうぞよろしくお願いします」


レヴィアスが寄付ですと差し出した金貨の詰まった革袋に神父は目を丸くする。


「こ、こんなに・・・」

「教会のためにお使いください」

「では、お、お預かりします」


レヴィアスはその受け取り方に少なくとも神父が私腹を肥やす事はないと確信していた。

もっとも私腹を肥やす事になったとしてもそれはそれでレヴィアスはどうでも良かった。

この金貨で人生が狂う様ならそれまでの事だと割り切っている。そうなったらシャルに悪い影響がないように手を打つだけだと。


「何か準備するものはありますか?」

「特別な物は何もいりません。元気で通ってくれれば十分です」

「はい!」


こうしてシャルは無事(?)教会に通い、パパ達では教えられない何かを学ぶ事が決まったのだった。



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