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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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遙か昔レヴィアスは大賢者と呼ばれた者と契約していた。毎日が刺激的で興味深く知識が増える中人間と契約する事はけして悪い事ばかりじゃないと日々感じていた。


そんな時大賢者はその力の強さ故に他の人間から恐れられ疎まれ追われる事になる。

レヴィアスは大賢者とダンジョンの深層に隠れ住みながら、煩わしい人間の居ない二人っきりの生活は存外心地良いと思っていた。


だが月日が流れるにつれ大賢者は精神を病み始める。原因が何かはレヴィアスにははっきりとは分からなかった。

それでもレヴィアスは大賢者を守ろうと必死になるが、今まで付き従う事しかできなかったレヴィアスには大賢者が朽ち果てアンデッドとなるのを止められなかった。

その結果人間に対する怒りと恨みそして後悔と喪失感といった負の感情が渦巻き、アンデッドとなった大賢者に憑依したまま自分も悪霊のようになってしまう。


しかし長い年月我を失っていたレヴィアスを正気に戻した少女がいた。

大賢者を思わせる力を持ちながら純粋でどこか危なっかしい少女。大賢者を守れなかった後悔から今度こそはこの少女を守ろうと陰に日向に力を尽くし、少女の願いを叶える事を優先し全世界を股に掛けた商会を作り上げる。幹部はレヴィアスの意を汲む隠密達で、少女には聞かせられないような悪事にも手を染めた。


そうしてやがて大賢者との思いを吹っ切り少女と正式に契約をする事に。だがその直後少女は姿を消した。まるでその存在が始めから無かったかのように。


レヴィアスは悲嘆に暮れ、自分と契約をした者には災いが起こるのではないかとさえ考え苦しんだ。

なのでシャルを育てる事になった時とても怖かった。自分と関わる事でこのとても小さな人間をも不幸にしてしまうのではないかと。


しかし実際育児を始めてみればそんな不安に浸っていられるほどの余裕はなく、忙しく悩んでいる以上に癒やされていくのを日々感じていた。

そしてレヴィアスは決意する。今度は付き従うのではなく、また尽くすだけでもなく、ただ見守り必要な時に力になろうと。

シャルの笑顔が続く平穏な日々を送る事が今のレヴィアスの心からの願いだった。


だから聖獣の子供が突然目の前に現れた時には正直驚くより悩んだ。シャルと聖獣の子供を関わらせて良いものかと。

しかしレヴィアスが思い悩んでいる間にシャルは手際良く聖獣の子供の怪我の手当を始めていた。


「大丈夫怖がらないで。傷を治すための手当なの。僕を信じて大人しくして」

「ク、クゥ・・・」

「すぐ終わるからね。そのままじっとしてて」

「クゥ~」


まさかそんな知識まで持ち合わせているとは思ってもいなかった。器用に薬草を手で揉み潰し手当している様子はとても五歳児には思えない。


「シャル、お前いったいいつの間にそんな事を覚えた?」

「えっ、だってパパがいつもこうしてくれるよ」


シャルは特別に誰かに教わった訳ではなく、キラルの行為を見て覚え自分の知識にしていたのだと知り、レヴィアスはとても機嫌が良くなる。


(教えても覚えられないヤツも多いのに教えられてもいないのに見て覚えるなんてこの子は天才じゃないか?)


そうしてシャルは日々色んな知識を生活の中から自然と蓄えているのだと思うと心が躍るようだった。この子はどこまで伸びどんな大人になるのかと。

レヴィアスは所謂完全なる親馬鹿思考に陥っているとは気付かずに、聖獣の子供と関わった事で起きるだろう面倒事の解決策を考え始めていた。


(親が何か言ってきたらどうやって黙らせるかだが、こちらは怪我の手当てをしただけだ文句を言われる筋合いはない。姿を見せたのも怪我をした動揺からだろうからこちらに落ち度は何はない。ただ問題があるとすれば・・・)


「はい、終わったよ」

「クゥ」

「痛いの痛いの飛んで行け~」

「ク、クゥゥ」

「偉かったね。頑張ったご褒美をあげるね」


シャルはポケットから黄金ドロップを取り出すと聖獣の子の口に放り込んだ。

黄金ドロップとはキラルが作る特別なあめ玉で、とっても美味しくて少しの癒やし効果もあった。


「クゥ、クゥ、クゥゥーー」

「美味しいでしょうそれ。えっ喜んでくれるの。僕も嬉しい」


そう、問題があるとすればシャルも聖獣の子供も知らず知らずに魂を繋げ契約準備を整えてしまった事だ。

しかし今無理に断ち切ろうとすれば相手は子供だどんな悪影響が及ぶか想定できないことが恐ろしい。


かといって街に出る事が決まっているシャルと契約させるという事は、聖獣の子供をこの森から連れ出すことになる。この森を住処にしている聖獣にとっては許しがたい事態だろう。


(どう説得するかだな・・・)


「クックルクゥ」

「うん、僕たちもう友達だね」

「クッククゥ」

「えっ、どうして?」

「クゥクゥクゥ」

「そっか、分かったみんなには内緒だね」

「その子は何だと言っているんだ」

「人間に姿を見せちゃダメなんだって。だから内緒にしてって」

「そうか」


レヴィアスはそっとほくそ笑む。契約も言わば聖獣の子供が望んだことだと。だとしたら説得の方法もいくつか思いつく。

これでどうにかシャルの笑顔は守れそうだと一人納得しその時を待つ事にした。

チャンスは親が怒って牙を剥いた時だ。冷静に理詰めで追い詰め子供の自立を促せばいいだろう。既に契約してしまったのだから仕方ないだろうと。


(後は二人に契約を意識させることだが、今説明しても無理だろうな。それにここで私が手順を教え契約を完了させるのはマズい。相手に隙を見せる事になる。さてどうするか・・・)


そうしてレヴィアスは取り敢えず事態が動くのを待つ事にしたのだった。



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