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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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30 幕間SS 愛のかたち


今日は店を休みにしてキラルとシャルは街の中央へ出かけて来ていた。

キラル達は取り立てて店の定休日を決めていなかった。

休みたくなったら休むという何ともお客にとっては不親切なスタンスだが、それでお客が離れるならそれでも構わないと思っているところが何ともやる気のなさを感じる。

しかしキラル達にとって店の経営はあくまでもシャルのためなので、優先すべきはいつもシャルの事だった。


「まだ出会った事の無い美味しいものを探そすぞ~」

「おぉーー!」

「どこから行く? やっぱり市場を覗いてから何処かの店へ入ろうか」

「僕ここまで来たの初めてで良く分からないよ」

「そっか、じゃぁ今日はシャルと二人で冒険だ」

「冒険!?」


シャルは冒険という言葉に過剰に反応し嬉しそうに飛び上がって喜んだ。

キラルの手をしっかりと握り、先導するように街中を張り切って歩くシャルにキラルの顔は綻びっぱなしだった。

そしてまた、いつだったか契約している少女と二人でこうして市を見て回った日を思い出し懐かしんでいた。


「なんかいい匂いがするよ」

「屋台があるね。覗いてみようか」

「さんせー!」


そうしてひとしきり屋台や市場の散策を楽しみ一軒のカフェへと入る。

キラルはメニューを眺めながらそういえばあの時もパフェを食べたっけと思い出しながらマンゴーパフェに決める。


「シャルは何にするか決まった? 僕はこのマンゴーパフェにするよ」

「パフェって何?」

「そっかシャルはパフェを知らなかったか。パフェってね愛と夢が詰まった幸せな食べ物だよ」

「なにそれ。良く分かんないよ」

「試しにこのフルーツパフェを食べてみなよ。きっととっても幸せな気分になるよ」

「じゃあそれにする」


キラルは店員にマンゴーパフェとフルーツパフェを頼み、目の前に座るシャルに視線を戻す。

今日のキラルはシャルととことん話をするつもりでいた。


最近のシャルは何かというと誰かの力になりたいと言うが、そう思う本当の理由を探りたかった。

もしかしてシャルも何かに悩み何か物足りなさを感じ、その心の隙間を埋めるために誰かの力になろうとしているのではないかと考えての事だった。


「シャルは教会で仲の良い子はできたの?」


キラルの問いにシャルは元気なく黙って顔を左右に振る。


「そっか、難しいよね」

「デイリーちゃんが僕に意地悪ばかりするんだ。でもシスターは我慢してあげてって。いつもデイリーちゃんばかり心配してる。なのにデイリーちゃんは僕ばかりシスターに優しくして貰ってズルいって言うんだ。デイリーちゃんは叱られてばかりなのにズルいって。だから僕は神父様とお話しするんだ。そうするとみんなは側に来ないから」


堰を切ったように話すシャルの言葉にキラルはなるほどと合点がいく。シャルも妬みや嫉妬と闘い始めたのだと。


「ねぇシャル。愛情の形って人によって違うのを知ってる?」

「愛情の形?」

「そう、愛ってね色んな形があってそれぞれ重さも大きさも違うんだよ。はっきりと目に見えないから分かりづらいんだけどね」

「目に見えないなら分かる訳ないじゃん」


突然何の話を始めたのか分からないシャルは少し投げやりに言うと俯いてしまう。


「じゃあシャルは僕がシャルの事を大好きだっていうのをどうやって知るの? もしかして僕がいつもシャルの事を大好きだって言ってるから? そうだとしたらその判断は危険だよ。簡単に言葉にする人の中には嘘を吐く人もいるからね。それにレヴィアスやエルムはシャルの事を大好きだなんていつもは言わないけどあの二人の事はどう思うの?」

「えっ、う~ん・・・」


キラルはシャルにはまだ難しい言い回しかとも思うが構わずに話す。


「ねっ、愛の形が違うのを理解できた?」

「ちょっとだけ・・・」

「それにね、もっと難しいのが欲しい愛の形も人それぞれ違うって事だよ。例えば僕がシャルにあげる愛の形とシャルが僕に望む愛の形がちょっとでも違うとシャルは不満を抱いたり不振に思うんじゃないかな。本当に愛されてるのかなって」

「キラルパパは僕のことホントは嫌いなの?」


シャルにはたとえが悪すぎたかと慌てるシャルを見てキラルも慌て出す。


「ああ、違う違う。そんな事を言いたいんじゃないんだ。僕は間違いなくシャルの事大好きだよ。そうじゃなくてシャルもデイリーちゃんもシスターもちゃんと愛情を投げているのに、それぞれが欲しい愛の形じゃないから不満ばかり抱いてるって言いたいんだ。ちょっと難しかったよね」

「うん」

「みんな自分が欲しい愛の形じゃないときっと他の人と比べちゃうんだ」


「お待たせしました」


注文していたマンゴーパフェとフルーツパフェが提供された事でキラルは一度話を区切る。


「食べようか」

「うん、いただきま~す」


シャルは目を輝かせると、アイスの上に乗ったクリームでも美味しそうにカットされたメロンでもなく、迷い無く容器の縁からこぼれ落ちそうなイチゴを手で摘まんで食べる。


「シャルはそのパフェの中で何が一番好き?」

「え~、選べないよ。どれもみんな美味しそうだよ」

「でも今イチゴを一番に口に入れたけどそれはどうして?」

「それはなんとなく落ちそうだったから、落ちたら嫌だなって思って」


キラルはシャルから丁度いい返事が来たことでさっきの話を再開させる。


「そのパフェは教会のみんなだよ。シスターは今のシャルと一緒でみんな大好きで誰が一番かは選べない。でもちょっとした理由があって誰かが優先されてしまう場合もあるんだ。なのにデイリーちゃんは優しくされたいって思っていて、シャルはもっと構われたいと思ってるから行き違っちゃう。二人ともきっとシスターが大好きなんだね。だからつい意識して争っちゃうのかな」

「そっか僕はシスターのことも好きなんだ」


もっと慌てて否定するかと思っていたキラルは、シャルがあっさりと認めたことに驚いた。


「きっとそうだよ。それでちょっと独り占めしたいって思ってるんじゃないかな。だからデイジーちゃんがシスターを独り占めしているみたいでシャルは面白くないのかも」

「でも一番じゃないよ!」


シャルからまたまた意外な返事が返ってきた事で、キラルはちょっとだけシャルを揶揄いたくなってしまう。


「じゃあ一番は誰なの?」

「一番って?」

「僕とレヴィアスとエルムとシスターの中で誰が一番好き?」

「えっ、えっとぉ・・・」

「フフフッ」


困り顔でオロオロし始めるシャルを眺めながらキラルは思う。もしかしたらこれがシャルの初恋なのかも知れないと。



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