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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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「今日は何匹捕まえるのか分かってるか?」

「ちゃんと聞いてきたから大丈夫ー。とーさんとパパが二匹ずつで僕も二匹でダディーはえっと何匹だったっけ?」


川辺の砂利石の上を歩きづらそうにするでもなくスイスイと移動するシャルに、満足そうに頷きながらエルムは答える。


(いい感じだ。さすが俺!)


「俺は今夜は三匹食べたいな」

「えっと、じゃあ全部で九匹だね」

「おお、正解だ。まぁ頑張って捕まえろ。俺は今日は釣りで大物狙いだ」

「見てて、ダディーより早く捕まえるからね!」


シャルは膝の深さまで川に入り、鮎ほどの大きさの川魚を探し追い詰めては手掴みで獲っていく。

一般の五歳児には普通だったらかなり難しい作業だが、シャルは慣れたもので危なげなく捕まえては川辺に置いたバケツへと運ぶ。


体幹に筋力やバランス機能に瞬発力といった運動能力だけでなく、動体視力と思考速度までもこの魚捕りでシャルは鍛えられていた。

体術や剣術を教えるのは本人が望んだ時で良い。子供は元気よく体を動かす事で運動能力を鍛えれば基礎は十分で、後は何をやらせても万能に熟すだろうとエルムは本気で考えていた。


それはレヴィアスとキラルも似たような考えで、知ろう考えようとする学ぶ基礎を付けることでシャルの未来の選択肢をできる限り広げてやりたいと日々勤めていた。

そういった意味ではこの森はシャルにとって本当に良い勉強の場と言えるだろう。


「ダディー、もう九匹獲ったけどもっといる?」

「おぅ十分だ。それよりシャルはどこか行きたいところはないのか? 冬になる前に引っ越しだ。しばらくこの森へは戻って来ないからな。行きたい所があれば今のうちだぞ」


シャルもいよいよ五歳になり生活の基盤を築く街も決まったので、冬が来る前に引っ越す事にした。

別にその気になれば今すぐにでも引っ越せるのだが、何故かレヴィアスがまだ人間に対して懐疑的でグズグズしている感じだった。

それにキラルも森の恵みをもう少し集めておきたいらしい。


「じゃぁ友達に会いに行ってもいい?」

「友達?」

「うん、この奥でとっても美しい動物が怪我をしてたから薬草を潰して湿布してあげたの。そしたら仲良くなれたんだ。僕の一番の友達だよ」


エルムはそれはいつの事だと頭を捻る。シャルが森に出かける時は大概はエルムが一緒だ。それにこの森で一時たりともシャルから目を離した覚えもない。


「それ俺知らないぞ。いつの事だ?」

「この前とーさんと薬草摘みに来た時だよ。ほらパパがお願いって言って。時々木陰から僕の様子を見てるけどダディーが一緒だと出て来ないから」

「なっ、な、何だとぉ-」


レヴィアスと出かけた時にそんなイベントがあったことに嫉妬する気持ちが湧いたが、それよりもエルムは気配探知には人一倍自信があった。

それなのにエルムの気配探知で探知できない動物がいるというのもショックだし、その動物の気配をシャルが感じ取っているという事実にも愕然とする。


(俺が気付かないのにシャルが気付いているだと? まさかシャルは俺より優れた気配探知を使っているのか? いったいいつの間に習得した?)


それにその動物がエルムが一緒だと出てこないという事実も何気にショックで、エルムはすべてを認めることができずに頭を振った。


「ねぇねぇダディーってば、行ってもいいの?」

「あぁ、悪かった。俺にもシャルの友達を是非紹介してくれ」

「でもぉ、ダディーと一緒だと出て来てくれないかも・・・」

「そ、それは、シャルから呼びかければきっと出てきてくれるんじゃないか」

「ああ、そっかー。そだねー。僕、考えてもみなかったよ」


(今日はいやにシャルの純真さが心に刺さるぜ・・・)


何気にダメージを負った心を隠し、無理矢理笑顔を作るとエルムはシャルの隣を一緒に歩く。勿論いつもどおりバケツを持ってやる事はしない。

意地悪でそうしているのでは断じてない。自分の事は自分でするという基本の考えもあるが、エルムも荷物を持っている。


それにバケツが重くて運ぶのが大変ならどうしたら良いか、まずは自ずと気付かせ考えさせる事にしている。

そしてどうしたらいいか聞いてくれば、一緒に考えながら知恵を与えるとエルムは決めていた。

学ぶ気があれば何からでも学べるし、そうして学ぶ癖を付けてくれたらと深い父の愛で願っていた。


しかしバケツの持ち方を変えてみたり、重そうにヨタヨタされるとつい手を貸したくなるがグッと我慢をする。だがしばらくすればやはりどうしても黙って見ていられなくなる。


「重そうだな。バケツの中身を俺の方に移すか?」

「いい。僕、今どうしたら元気なまま持って帰れるかちょっと考えてるところー」

「そうなのか? じゃあどうしたらいいか一緒に考えるか」

「だからいいよぉ。もうちょっと自分で考えてみる。邪魔しないで!」

「そ、そっか。無理するなよ」

「あっ、おーい、出て来てよぉー。ダディーは怖くないよ~」


エルムはいきなり話が変わった事に何事かと目をパチクリさせるが、木陰に向かって手を振っているところを見ると多分そこにエルムが気配探知できないシャルの友達が居るのだろう。


(参った~。本当に探知できないよ・・・)


その動物が居るとされる場所にその気配はまったく感じ取れなかった。

それにイマイチ信じられない思いから、シャルの幻覚じゃないかとちょっとだけ疑っていた。


「だから大丈夫だってば、おいでよ-」


シャルの森に向かって手を振るその様子はとても演技には思えない。


(まさか俺本当に拒否られてるのか? ショックだな・・・。だがしかしもしかしたら幻覚という可能性も捨てきれない。ここはシャルに合わせた方がいいのか?)


エルムが揺れる乙男心であれこれ悩んでいると、ガサゴソと葉擦れの音がしてそこに確かに何かが居るのを証明した。


(ま、負けた・・・)


何に負けたのかは知らないがエルムがガックリと肩を落とし脱力すると、木陰からゆっくりと用心深くシャルの友達が姿を現すのだった。



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