ルシアとラモンは離別する。
ラモンと話をしてからはもうあっという間で、気付けば王都まで来ていた。初めて乗ったはずの辻馬車のことすら覚えていない。
ただ、イルゼも医者もそこまで抵抗はせずにここまで来ていた。
背後で辻馬車がゆっくりと動き出す。ルシアの前では既にラモンが歩き出していて、後ろからもイルゼ達がついてくる。歩き出すしかなかった。
見下げる足の先からラモンが門番と話す声が聞こえる。どうしよう、この役割はルシアがやるものだとずっと思っていたのに。
「——陛下、危険です!」
遠くから王の護衛騎士の声が聞こえる。
のろのろと顔を上げると、見慣れた王の姿があった。そこまで長く離れていたわけでもないのに随分と懐かしく感じる。
「どうしたルシア、何があった。」
王が騎士達の人垣を乗り越えてこちらにやって来る。けれど、ルシアが何か言うより先に、ちらりとこちらを一瞥してラモンが何かを告げる。
すると王もいくらか真剣な眼差しになってそれに頷いた。
「わかった。ではルシアとラモンは玉座の間に通そう。話が聞きたい。後ろの奴らは——お前たち、地下牢に連れて行け。」
王の言葉に人垣となっていた兵士達が一斉に動き出す。ルシアの後ろに回り込み二人を連れて行く。なぜだろう、あんなに躍起になって望んでいた結果なのに心躍らない。笑いたいのに、笑えない。
* * *
「——それでお前たち、一体何があった。」
王は玉座の間に着いて開口一番、そう言った。道中、イルゼや医者から聞いた話を伝える。
「イルゼ夫人の存在は、陛下もご存知でしょうから割愛します。
体制を変えて程なくして、この状況に嫌気のさした夫人の娘が家を出、そのまま行方不明になったそうです。その後のある日、娘の居場所を大まかに掴んだあの医者が夫人に取引を持ちかけました。情報提供と娘の捜索に協力する代わりに、彼の作る麻薬の売り先を増やしてほしい、と。——私が知っているのはここまでです。」
ラモンの報告を受け、王が静かに頷く。
「うむ、誠に大義であった。が、そうじゃなくて……いやそれもそうなのだが。——何故、二人は別れる事となったのだ。」
彼にはルシアと別れる事にした経緯についてあらかた説明している。
王は心配そうにラモンと、それからルシアを見つめていた。思わず口角が上がる。昔からこの王はルシアに甘い。
確かに王にとっては意外な事だっただろう。城での斡旋を断り意気揚々の彼女に着いて行って、あろうことか彼女を振って帰ってきたのだ。ラモン自身も驚いている。
けれど。
「申し訳ありません陛下、既に決めたことなのです。」
きっぱりと言うと、王は「……そうか。」と言って二人を帰した。
後ろのルシアを振り返ると、彼女はぼうっと爪先を見つめていた。
* * *
玉座の間を出て城を後にしようと玄関へラモンの後ろを歩く。元聖女であっても今のルシアは部外者以外の何者でもない。
敷かれた赤い絨毯を見ていると、ここに初めて来た時のことと、ここを出た時のことを思い出す。
今日は王太子が視察に遠出しているとかで城内の人はまばらだった。
二人のくぐもった足音が響く。
ふと、ラモンが零した。
「別に、ルシアが嫌になったって訳じゃないからな。」
思わず顔を上げる。ラモンはルシアを向かないまま歩き続けていた。この背はこんなに大きかったろうか。
勢い込んで、口を開く。
「あのさ!」
声にラモンが振り返った。
「私、いろいろ、ラモンがいなくても……あ、いや、いなくていいってわけじゃないし、っていうか、いてほしいけど。いてほしいから!頑張るから。だからラモンも、」
一度、深く息を吸う。込み上げる物を懸命に押し戻す。
「——頑張って。」
ルシアの声を受けた彼は少し間を置いて、
「……うん。」
寂しそうに笑った。
完結です。
皆さん本当にありがとうございました!ここまでこれたのは、月並みですが、ひとえに皆さんの応援のおかげです。
とはいえ、まだまだ回収していない伏線や書きたかったお話もたくさんあるので、今のところはその予定はないですがもし気が向けばもしかしたら続きを書くこともあるかもしれません。その時にはみなさま、もう一度帰ってきていただけるととてもとても嬉しいです。
今後については決まり次第——早めにできたら明日にでも——、活動報告にてご連絡させていただきます。
それでは!またどこかでお会いできたら嬉しいです。
(*>∀<)ノ))さようならー




