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28話 坊主合戦

 フレアは坊主合戦が繰り広げられていた現場を見つめ、とある1人を指差した。


「カエ、折角なら部長と勝負してみたら?」


「部長と?」


「そう、部長と」


 相手に指名したのはなんと、先程勝負していた刻石先輩。先程の勝負を見るに、刻石先輩は確かに強いようだ。

 私が刻石先輩をじっと眺めていると、フレアはそんな私に1つの質問を投げかけた。


「カエはあの部長には勝てそう?」


「うん、多分勝てるよ」


「へぇ、かなり自信ありのようだね! なら部長と勝負してよ!」


「私はいいけど……」


 私の見立てでは、部長には確実に勝てる。だが、新入生がゴーレム部の部長に勝利したら部長のメンツを潰してしまう。

 昨日はただでさえ刻石部長の面子が潰れているというのに、さらに潰すのは流石に少し抵抗がある。


「オームラ、部長と勝負するつもりか……? 流石にそれだけはやめといた方がいいんじゃないか?」


 そんな中、大海先輩は私達の会話に戸惑う。


「部長は部員の中で1番強いぞ? オームラ、大丈夫か?」


「大丈夫ですよ」


 と、大海先輩とやり取りをしていると、ひと勝負終えた刻石先輩が私達の元へと駆け寄ってきた。


「オームラさんこんにちは。昨日はあのような失態を晒したにも関わらず、再び入部をご検討いただき誠にありがとうございます」


「あ、刻石先輩こんにちは……」


 刻石先輩は昨日と変わらずの低姿勢で私に接してきた。


「本日はオームラさんのご友人もいらしたようで……」


「……もしかして僕、オームラさんの友達としてまとめられた……?」


 若葉さんは私の友人枠として雑にまとめられ、困惑している様子だ。


「あ、刻石部長!」


 私にご丁寧にご挨拶する刻石先輩に、大海先輩が声をかける。


「実はオームラが刻石部長と戦う……で、いいのか?」


「はい」


「オームラが刻石部長と坊主合戦で戦いたいと言って……」


「えっ」


 大海先輩の発言に、刻石先輩は硬直する。


「あの、オームラさん……私はこの部員の中で坊主合戦が1番強いのですが、大丈夫ですか……?」


「えー? まさか刻石部長、カエの指名を断るんですか?」


「えっ」


 フレアは私の肩に手を置き、刻石先輩を睨みつけるように見つめる。


「あっ、いや、そういうわけでは……」


「大丈夫なんですね。だったら、カエと勝負できますよね?」


「あ、もちろんです……」


 フレアの押しに、刻石先輩がたじろいでいる。


「あっ、だが……俺が先程使用していた山型のゴーレムを使用するのは流石に……そうだ、俺が使用するゴーレムは別のものに……」


「刻石先輩、私はさっきのゴーレム相手で大丈夫ですよ」


「しかし……」


「刻石先輩、カエの言葉を信用できないんですか? カエが大嘘つきとでも言いたいんすか?」


「あっ、いや、そう言うわけでは……」


「カエ、刻石部長とは本気で戦いたいよね?」


「うん、坊主合戦なら本気でぶつかり合わないと。でもフレア……」


「ほら、カエは本気の勝負を望んでますよ。まさか、刻石部長ともあろう方が、カエの熱意を見て見ぬフリするような真似をするなんてことは……」


「全力で挑ませていただきます!」


 間違いない。フレアは私をダシに刻石先輩を脅している。


「ちょっとフレア、わざと刻石先輩に突っかかってるでしょ」


 私は周りに聞こえないよう、声量を下げてフレアに声をかける。


「昨日の話を聞いてちょっと仕返ししたくなってさ。少し揶揄って満足したし、もうやらないよ」


「もう、フレアったら……」


 フレアのイタズラに辟易していると、私達の元に大地先輩が歩み寄って来た。


「オームラ、刻石部長と戦うのなら俺の作ったゴーレムを使うといい」


「あ、大地先輩ありがとうございます」



 こうして私は大地先輩の作成したゴーレムを借り、刻石先輩と坊主合戦をすることになった


─────────────────────


 しばらくして、近くの下駄箱から靴を持って来たカエ・オームラさんは、大地先輩からゴーレムの操作石を受け取り中庭に出た。


 僕、若葉歳一わかばとしかずは相棒のマンドラゴラ『リョク』を抱え、中庭の中央にある枠を見つめる。


「オームラ、対戦する前にゴーレムの動きを見ておくといい」


「はい。では少々失礼します」


 大地先輩からの助言に素直に頷いたオームラさんは、ゴーレムを操作する為の石を握りしめてゴーレムの動作確認を開始した。

 オームラさんは緊張してるのか、操るゴーレムはギクシャクしながら歩き回っている。


「だいぶカクカクしてるなぁ……」


「いや、動きはあれでいいんだ」


「あっ、大地先輩!」


 僕の独り言に大地先輩が言葉を返してきた。僕は驚きつつも先輩の方に顔を向けた。


「今オームラは重心や腕の重さを見て、どう動かせばゴーレムがよく動いてくれるか確認してるんだ」


「へぇ……つまりあれは、ゴーレムのバランスを見てるってことですね」


「そういうことだ」


 オームラさんはゴーレムをしばらく動かし続け、すぐに練習を切り上げた。


「大丈夫です、準備できました」


「分かりました。では、ゴーレムを枠の中へ」


「はい」


 刻石部長に指示を受けたオームラさんは、ゴーレムを操作して歩かせて枠の中へと収めた。

 枠の中にはすでに、刻石部長の岩のようなゴーレムが待機している。


「オームラさんのゴーレムより大きい……あんな重そうなゴーレム倒せるのかな……」


「刻石部長の作った山型ゴーレムは確かに重くて強い。対するはバランスがよく取れて人間らしい動きができる力士型ゴーレム。一見すると力士型が不利に見えるが……まあ、勝負ならすぐにつくだろう」


 僕らが固唾を飲んで静かに見守る中、1人のゴーレム部員が合図を出すために枠に近づいた。



「両者見合って! 勝負……始めっ!」



 ゴーレム部員による掛け声により坊主合戦が始まった。勝負の合図により2体のゴーレムはすぐさま動き出す。


 刻石先輩のゴーレムが重そうな足で軽やかに進む。対して、オームラさんのゴーレムは……


「おおっ!」


「速っ!」


 頭の丸いゴーレムは両手を上げながら足を動かし、ゴーレムとは思えない速さで枠の中を走り始めた。


「よく転ばないなぁ……」


「オームラはあの両腕でバランスを取ってるんだ」


「へぇ、あの動きはバランス……」


 僕が言葉を続けようとしたその時、2体のゴーレムが大きく動いた。


 刻石部長の岩のようなゴーレムは相手ゴーレム目掛けて大きな腕を振り回した。

 1度目は空振りしたけれど、腕を回した時に足を片方浮かばせて、腕の遠心力を利用してコンパスのような半回転をして大きく動いた。


(回った!?)


 大きなゴーレムはオームラさんのゴーレムを攻撃範囲内に収めた。


 大きなゴーレムはすかさず勢いを増した裏拳をオームラさんのゴーレムへと振り投げた。


 大きなゴーレムの大きな拳がオームラさんのゴーレムに迫る。



 対するオームラさんのゴーレムは、飛んできた腕に対して全力で走り、スライディングの姿勢に変えて身体を横にして勢いよく腕下をくぐり抜けた。



「!」


 素早い動きで攻撃を躱し、オームラさん操るゴーレムはすぐさま相手ゴーレムの真正面に回り込んだ。


 オームラさんのゴーレムの目の前には、攻撃を空振りしてややバランスを崩した相手ゴーレム。

 オームラさんのゴーレムは、相手の大きな腕に向かって全身を使った強力な体当たりをかました。


「あっ!?」


 相手ゴーレムはバランスを崩すも、すんでのところで踏ん張った。


 だが、相手ゴーレムが停止した隙をついたオームラさんのゴーレムはなんと、刻石部長のゴーレムの顔面を掴んで登り始めた。



 あっという間にてっぺんに到着したオームラさんのゴーレムは、相手ゴーレムの頭部で逆立ちした。


「何を……!?」


 逆立ちしたゴーレムはその場で勢いよく側転して半回転し、相手ゴーレムの腕を目掛けて全体重を乗せたヒップドロップを繰り出した。



 全体重を乗せたゴーレムの一撃により刻石先輩の大きなゴーレムは大きく傾き、やがて横に倒れてしまった。



『おー、ダイナミック〜』


 目の前で繰り広げられた衝撃的な光景に一同が静まり返る中、オームラさんのリトルナイトのピントは手をパチパチと合わせて拍手をしている。


「は……」


「す、す……」


「すげぇ! なんだよ今の技!?」


 周りで観戦していた生徒達はやがて状況が飲み込めたのか、次第に周りが賑やかになってきた。


「ゴーレムがスライディングして回り込んでたよな!?」


「ゴーレムの上でゴーレムが逆立ちして、そのまま横に倒れて……! 何だあの流れ!」


「目の前で何が起こったのか未だに理解できねぇ……! なんだよあのバランス!?」


 ゴーレム部員は全員目を丸くして大騒ぎしていた。


 素人の僕でも凄いと感じたが、どうやらゴーレムをよく知る人から見ても、オームラさんのゴーレムの動きはとんでもないレベルだったようだ。


「君すごいな! あんな短時間でよくあそこまでゴーレムのバランスを把握して動かせたね!」


「ゴーレムめちゃくちゃ竣敏な動きしてたね! スライディングとかどうやってやったの!?」


『教エテクレ!』


 部員達はオームラさんに駆け寄り、口々に褒めながらコツを聞き出そうとする。正直言うと僕も知りたい。


「お父さんの実家でよく坊主合戦で遊んでたんですよ」


 オームラさんは重そうなゴーレムを軽々と抱え上げながら説明をする。


「特にお爺ちゃんの友達はゴーレムを操るのがすごく得意で、私もみんなのようにゴーレム操れるようになりたくて……なので、とにかく練習しました」


「練習かぁ〜」


「っていうか、もしかしてその実家のある地域ってオームラさんレベルのゴーレム使いが多かったりする?」


「はい、私以上に操る人もいましたよ」


「まじかよ!?」


「上手い人が操るゴーレムの動きは本当に見事で……とにかくバランス感覚を鍛えたりしてましたよ」


「ほぉ〜」


 部員はオームラさんの話に真面目に耳を傾けている。

 

「完敗だ……」


 オームラさんとの勝負に負けて1人孤独に佇む刻石先輩は、どこか清々しい表情でオームラさんを眺めていた。

次回からは週一更新となります。

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