第九話 拝啓、死にたがりなアンテッドへ
「行ってきます!」
玄関で靴を履く。
「はーい!」
「風邪ひかんようになぁ」
2人の声が今日も聞こえる。
鳥居をくぐって異世界へー
「おっす」
「遅いですわ!」
3人でお茶を飲んでいた。
ヤヨイはアンに場所の位置を説明したり手伝っていた。
「おぉ、なんだかんだ上手くやってんな」
「まだ、1日目だがな」
「その通りです」
「それにしても」
翔琉がクラの姿をじっと見る。
「なんだ?」
「ショタだ」
クラが鎌を出現させる。
「ちょっごめんって」
翔琉がクラから離れる。
「ていうか、異世界人ってすぐに魔法覚えたりできないのか?」
アンの方を見て翔琉が言う。
「向き不向きがあるんだ」
「でも、私結構今見えておりますわ?」
「まじ?」
クラが驚いたようにアンを見る。
「”理解者”ってそのレベルなのか、、、」
翔琉も驚いたように声を出す。
「じゃあ、私の役目もう終わりですか、、」
ヤヨイは、悲しそうに言う。
「そんなことないわ。まだ、完全ではないですわ。これからもお願いできる?」
「はい!」
「さて、今日はどこへいく?」
翔琉がクラの方を見る。
「なんだ、今日は乗り気だな」
「まぁね」
翔琉はそう言って頷いた。
「今日はこいつのところへ行く」
クラが紙飛行機を出した。
「もう決めてたんだ」
そう言って翔琉はニヤリとする。
ー死神さんへ
僕は、”永遠なる者”の力を持っています。
だから、死ぬことができません。
殺しに来てください。
トワー
「ほぉ、日本人っぽい名前だな」
「どうだろうな。あんまし期待すんなよ」
クラの方を翔琉が見る。
「というと?」
「さぁもしかしたら、何百年か生きているのだろう」
「あーね、アンテッドってことか」
「そんなとこだ」
クラが頷いた。
「ヤヨイとアンは来るか?」
「私さすがにまだ周辺感知が完全なものじゃないので止めておきますわ」
「なら、私も付き添います」
アンの言葉にヤヨイはそう言う。
「わかった。危なくなったらそいつに連絡しろよ」
そう言ってクラが指をさす。
そこには、悪魔の子供みたいなのがいた。
「何これ可愛いです!」
ヤヨイが持ち上げる。
「なんだあれ」
「私の分身みたいなものだな。意志も心もない」
「へぇ」
「さぁ、行くぞ」
そう言って翔琉と歩き出す。
「二人で出かけるの久しぶりだな」
「そうだな」
今日はそりを使わずに2人で鎌に乗った。
2人は、城のようなところへたどり着いた。
「へぇ、お化けでもいそうだな」
「まぁ、そうだな」
そう言いながら扉の前にたどり着いた。
風が巻き起こる。
「お待ちしておりました。」
目の前に、神職のような服を着たいかにも死神のような骸骨が現れた。
「クラ、お前死神か?」
「どういう意味だ?」
「いかにも向こうが死神だろ」
「そ、、、れはそうだな」
クラも認めてしまった。
「お前、異世界人か?」
「その通りです」
トワは頷いた。
「千年前ほどに転移してきました。」
「その時代か、、、」
「知ってるのか?」
「死神の職が正式にできる前は、世界の境界への行き来が自由だった」
クラは遠くを見つめた。
「平安時代、陰陽師がなぜいたのか、なぜあやかしが物語で出てくるようになったのか」
「、、、なるほどな」
翔琉が頷いた。
「その時代だから、自分から転移したのか?」
トワは首を振った。
「昔、自分は病気で伏せておりました」
「あと余命少しの時に、急にこちらの世界へ来ました。永遠の命と共に」
「お前運がいいんだな」
クラがボソッと言った。
「はい。幸せ者です」
トワは、穏やかに言った。
「お前は死にたいのか?」
クラが幸せ者と言い切れる人がなぜ死にたいのか理解できなかった。
トワは少し考えた。
「後悔に近いものでしょう」
「聞きますか?」
トワは穏やかに言った。
「じゃあ、一応」
クラはそう言った。
「中へ入ってください。もてなしますよ」
「助かる」
翔琉はクラに蹴りを入れる。
クラはイラっとした顔をしたが、
「あ、、、ありがとう」
そう言うと翔琉は驚いた顔をした。
「なんで驚くんだよ」
「いや、、、え?」
翔琉が驚いていた。
中は幻想的な感じだった。コケが生えているような古代の遺跡。その中に水の流れる音が聞こえる。
「きれいだなぁ」
「えぇ、何百年も前から変わりません」
「何百年もここに居たのか?」
クラが訪ねる。
「はい。好きって言ってくれたんです。この景色を。」
トワは目の前に揺れる美しい銀髪の少女を思い出した。
「思い入れがあるのか」
「ええ、執着に近い愛情です」
「ここに居ればいる気がする。忘れたくないんです」
骸骨となり、瞳はもうない。ただ、寂しそうな雰囲気だけはわかった。
「わかるよ」
クラがそう言い放った。
「私も、何百年も城に引きこもってた。寂しかった。だけど、それ以上に。」
妹の顔が浮かぶ。家族の顔が浮かぶ。
「大切なものがあった」
クラも寂しそうな笑みを浮かべる。
「そうですか。貴方も永遠の命なんですね」
「いや、私は死ぬよ」
クラはそう言った。
「え?」
翔琉は驚いたような声が漏れた。
「体は生身だからね。だけど、死神の力で成長は止まってる」
「そうですか。それは残念です」
しばらく歩くとしめ縄がなされた綺麗な桜が咲いていた。
「桜、、なんで、、、」
「平安の名残だろう」
「えぇ、美しいでしょう。大切な木なんです」
その近くに、テーブルがあった。
「どうぞ、お座りください」
そう言って、トワは奥の方へ消えていった。
2人の間に特に会話がなかった。
ただ、その幻想的な空間に気を取られるだけであった。
「あっあの、千年前のご飯しか、、」
「食えねーわ」
トワに翔琉がツッコんだ。
「さすがにですか」
トワは困ったような顔をした。
そして思い出したように手を叩いた。
近くの木から果実をとった。
「どうぞ、自慢の果物です」
「ありがとう」
見事に真っ赤なりんごだった。
一口かじる。
「うまっ」
「ほんとだ、甘いな」
2人とも喜んでいる姿を見てトワは嬉しそうになった。
「いつもおいしいって自慢してたんです」
「好きだったんだな」
翔琉がその様子にほっこりする。
「えぇ。とっても」
「じゃあ、なんで殺してほしいんだ」
クラが不思議そうに聞く。
「時間って残酷ですよね」
トワは桜の木の方を向く。
「この木、一緒に植えたんです。小さな木でした。だけど、あの人が居なくなっても成長続けて、もうこんなに大きくなりました」
ーねえ、こんなに大きくなった
嬉しそうに笑う顔が頭をよぎる。
「この木を一番愛したのはあの人なのに、あの人が死んでもなんも思いなしにずっと成長する。寂しいものです」
「でも、お前は」
クラはトワを見る。
「えぇ。覚えてます。今もたまに苦しくなるくらい」
「だけど、それでも思い出せないんです。宝物見たいな毎日が、だんだん少しづつ、、、」
トワは、視線を下に落とした。
「色褪せただけなら愛せるのに、朽ちてくんです」
誰だって、そうだ。時間がたてば痛みが和らぎ、日常に戻っていく。
それがどうしてもトワには許せなかった。
「日常何ていらないのに。まだ、こんなに大切なのに。こんなに引きずっているのに。愛しているのに」
床に咲いている花を一輪取った。
「時間が止まれば、美しいままなのに」
「それは違うだろ」
翔琉が、トワから花を取った。
「一生なんだ」
そして、翔琉は床に埋め戻す。
種から芽がでて、花になり、やがて朽ちる。
誰だって知っている事実なんだ。
「俺らは有限の時を生きていt」
「無限と時を得てしまったらどうすればよいのですか」
トワがかぶせるように言った。
その様子を見て、クラが口を開けた。
「それでも、有限に生きる人と関わったのはなんでだ?」
トワが固まった。
「誰だって、理解してるんだ。いつかどちらかが先に居なくなることを。」
クラより、翔琉やヤヨイ、アンは先に居なくなる。それはほぼ確定している。
その事実を理解したうえでクラはみんなと関わっている。
「都合悪い事ばっか目をそらして、うだうだ言うんじゃねーぞ!」
クラは過去の事を思い出した。
妹の小さい手を握りしめた。温かさを忘れない。
弱り切ってしわしわの手になって。それでも笑ってた顔を忘れない。
「悲しい事の方が記憶に残りやすいのに、それでも忘れたくないぐらい大事な記憶があるなら、」
クラは、一度息をスッと吸った。
「覚えて生きろ。お前が死んだら、あと誰が、その人の事をその思い出を覚えててくれるんだよ」
(大事だから、忘れたくない。これ以上)
トワは日がたつにつれて消えていくようで怖かった。
声は?顔は?仕草は?
鮮明に思い出せなくなっている。
「それでも、全部忘れてしまったら、どうすればいいんですか」
トワは、苦しそうに言った。
「その時は責任をもってちゃんと、弔ってやる。」
クラの寂しそうな、そしてまっすぐな言葉。
(どうせ、死んだら何もかも忘れるんだから)
そこだけは、口にしなかった。
命は、永遠なのに
記憶は、永遠じゃない
(残酷ですよ)
トワは、知っていた。転移した時、鑑定されて永遠の命を手に入れたことも。
でも、それでも大事な人ができたことも。
愛してしまったことも。
トワはゆっくりと立ち上がって桜の木に手を当てた。
「死んだら、同じところに行けるかもしれない。だけど、もう少し、、、」
目を瞑って思い出す。
美しい銀髪をたなびかせる女性。幼い時からずっと見ていた。ずっと綺麗だった。
ー散るその瞬間まで、花は満開だった。
「もう少し、忘れないでいさせてくれ」
忘れたくなくて死のうとした。だけど、きっとそれじゃ残らないから。
もう少しだけ愛したいから。
『待っています』
そう聞こえた気がした。
「そういえばお子さんとかいないんですか?」
ふと、翔琉が聞いた。
「おりますよ。たまに、ここにくるんでその時は隠れてますけどね」
「そうか?」
クラが言った。
そして、入口の方を見る。
「ほら、ご先祖さまだぞ」
父親と母親と3歳くらいの子供が一緒に現れた。
「なにをしたんだ?」
翔琉が不思議そうにクラの方を向いた。
「手紙、たまに読んでた時があってさ、一回来てたんだ。」
クラは父親の方を見る。
「弔うべきか?」
「いいえ。幸せならそれでいいんですよ」
銀髪の男だった。
「フラにそっくりだ、、、」
その優しさも、綺麗な銀髪も。
トワは、父親の方を見た。
子供はトワに抱きついた。
「怖くないのか?」
「こわくなぁ!」
拙い言葉でしゃべった。
「そうか、、かわいいな、、、」
涙が溢れていた。
「生きてるのか、生きてるんだ。」
ぬくもりも肌の感触もよくわからない。だけど、こんなにも愛おしくて仕方がない。
「悪かったな。グレンダー達よ。返信遅れてしまった」
「とんでもありません。届いてよかったです」
そう言って笑った。
「どういうことだ?」
「千年の間、どの代も欠かさずに私に手紙を送ってきていた」
クラは珍しく微笑んでいた。
「なぁ、トワ、人生捨てたもんじゃないだろ」
クラだって最近感じたことだ。
未来はいつも想像を超える。だからこそ、生き抜かなきゃいけない。
「全くです」
トワは、震えた声でそう言った。
その時、桜の木が大きく揺れた。
花びらが、再開を祝福するように舞い降りた。
「珍しくハッピー確定エンドだな」
「どうだろうな」
クラはトワを見る。
「永遠の命はしんどいぞ。別れの連続でしかないからな」
「そういうもんか」
クラと翔琉は消えるようにその場を離れた。
屋敷に戻ったら、アンとヤヨイは料理をしていた。
「ご飯まだですよね?」
「あぁ、お腹すいたー」
翔琉が席に着いた。
昼ごはんが終わって翔琉は家に戻った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「じいちゃん、ばあちゃんただいま」
翔琉は少し元気がなく行ってしまった。
「あらあら?どうかしたの?」
「なにかあったのか?」
祖父母は心配そうに言った。
いざ、先に旅立つであろう人を目の当たりにしてると悲しいものだ。
ー都合悪い事ばっか目をそらして、うだうだ言うんじゃねーぞ!
クラの言葉が印象に残っている。
(目をそらしてるんだ。俺らは)
「長生きしてね」
口から出てしまった。
「あら?心配しなくても私たちは元気よ」
詮索をしないでくれる優しさが心に沁みる。
「あと100年は生きるぞ!」
有限であるもの同士。終わりはある。でも、それでも関って傷ついて、いつか前を向いて
どこまでも身勝手で、美しい。
ー拝啓、死にたがりなアンテッドさんへ
無限の命があるのはしんどいですか?
僕は別れをあまり知りません。
怖くなりました。目の前の幸せが壊れそうで。
でも、そう思えてる僕は幸せ者ですね
お互い幸せでいましょう。
どうせ、いつか終わるんですからー
クラと関わるようになって大事なものが見えてきた気がする。
いつか、翔琉はクラのより先に死ぬ。
(寂しくはないだろうか)
自分の心配よりも先にクラの心配をしている自分に少しだけ驚いて、少しだけ微笑んだ。




