戦場で会う
かたやまういです。
この作品では便宜上"軍"という言葉を使うことがありますが、戦いによる主人公たちの消耗具合などは事実に基づいてはいません。全てフィクションです。
今回少し戦いの描写などが入るので、R-15,残酷描写ありに作品の設定を変更しました。
そして、そこから一年の間に戦争が始まった。
銃を、撃って、撃って、撃って、撃って。
生きるために戦うのか、戦うために生きるのかわからなくなるほどの時間が過ぎた頃。
フィンはすでに18歳の誕生日を迎えていた。
戦場で功績を上げたことから、比較的大規模な隊に少尉として配属されることも決まっていた。
そして、幹部陣の顔合わせが行われたその日、中尉として配属されたアーサー・レイ、少尉として配属されたカランと対面したのだ。
カランを見たとき、フィンは一瞬思考が止まった。
嬉しさはあった、はずだ。
でも、それは一瞬でかき消えた。
右頬に痛みが走ったからだ。
一瞬、何が起きたかわからなかった。
目の前には、冷たい目でこちらを見やるレイの姿があった。
「何を間抜けヅラをしている。お前の番だ」
体が動き出す。姿勢を整え、背筋を伸ばし、声を張り上げた。
「すみませんでした!」
「早く済ませろ」
レイから許しが出ると、フィンは言葉遣いが間違ってないかという恐怖を抱えながら、声量を欠かないように話し始める。
「はいっ。フィン・オルティスです!このたびは___」
それを、カランは黙って見ていた。
***
顔合わせと、会議とは名ばかりの大尉による作戦の宣言が終わると、その日は解散になった。
「フィン」
大尉、そしてレイたちが部屋を出るのを見送ったあと、カランがフィンを呼び止める。
「いくら俺に会えて嬉しいからってボケッとして殴られてんじゃねーよ」
そう言ってニヤリと笑ったカランは、昔となんら変わりなく見えた。
「……お前だって、ぼけっとしてんの気づいてたなら言えよな!」
フィンも昔のように笑って見せる。そして、二人でしばらく見つめ合って、示し合わせたように声を上げて笑った。
戸締りをして外に出た後も、話は続く。
「四年ぶりとか?」
「ほぼ五年だろ。にしてもずいぶん出世されたようで」
そう揶揄していたカランに、フィンは照れたように言葉を返した。
「そりゃお前もだろ」
その一瞬だけは、彼らの顔に年相応の表情が戻っていた。
***
そこから一年ほど、フィンたちは大尉率いる大隊で行動を共にした。
少尉になったばかりのフィンたちは、失態が多かった。
部下の監督不行き届きもあったし、敵兵を取りこぼしアーサーたちの部隊に負担をかけることもあった。
なにせ、今まで人への指示などしたことがない。
しかし昇格したからにはできなければ困る。
フィンたちは、アーサーたちによって見せしめにひどく"教育"されることも少なくなかった。
けれど、二人はフィンたちに酒の飲み方・吐き方を教えた。
酔い潰れたら介抱もしてくれる。
相変わらずフィンたちは二人が好きだった。
それに、日が経ちフィンたちの失態が減るのに合わせて"教育"も減った。
1年経つ頃にはときどき敬礼がなっていない、と気合を入れ直される程度になっていたのだ。
そしてその頃、上から新たに任務が課せられた。東側の敵軍を足止めする役目だと言う。
フィンたちに与えられた説明はそれだけだったが、どうやら大規模な作戦が決行されるようだという噂だけが軍内で一人歩きしていた。
それまでの一年フィンたちの所属する大隊には幹部の入れ替わりがなかったため、新たな任務も順調にことが進むだろうと思われていた。
しかし、大尉が戦死したことで、状況は一変した。
「どうする」
夜、時間交代の見張り役以外が皆寝静まった頃、フィン、カラン、アーサー、レイの四人は一つのテントで顔を突き合わせていた。
「アーサー、俺とお前の中尉への就任時期はほぼ同じだ。どちらが指揮を取る?」
レイが最初に口火を切った。アーサーは特にこだわる様子もなくあっさり言う。
「お前の方が生まれ月が早いだろ。お前に任せるよ」
元から四人が顔見知りだったために、指揮権の移動が難なく進んだのは幸いだった。
問題はその先だ。
「上は、絶対に撤退はせず東側の防衛線を死守しろと言ってきた。せめて新しい大尉を寄越してくれと申し出てものらりくらりだ」
レイは深くため息をついて続けた。
「大尉は士官学校の出で一般兵からの支持はなかったが、死なれたのは痛いな。俺たち二人はまだ20半ばの若造だ。下手なことをしたら隊が分裂する」
アーサーが地面に拳を叩きつける。
「くそ、これだけ兵士がいてベテランがほぼいないってのはどういうことだ?軍曹に一人でも俺らより年季が入ってるのがいれば……」
そう言って憎々しげに地面を睨むアーサーを、レイが諌めた。
「たらればはよせ。軍曹にベテランを置いておく余裕があれば、そもそも俺たちみたいなのは昇進してないんだよ」
そんなのはわかってるんだよ、と言いたげなアーサーから視線をずらし、レイはフィンとカランの肩を強く掴んだ。
「俺たちはもう失敗できない。だから……フィン、カラン。わかるよな?」
「「はい」」
フィンとカランは、声を揃えてそう言った。
上官からの命令に、YES以外の返事はありえない。
その後、大尉を失った大隊は苦戦を強いられた。
ミスをした兵士への目は冷たい。
特にフィンとカランは、部下の監督不行届きで一般兵より厳しい教育を強いられた。
しかし彼らは、責任ある立場にいて部下の命を預かっているのだから当然だ、と理解していた。
戦いは過激さを増す。怪我、熱、ストレスにより次々と兵士たちが倒れていく。
北側で敵国最大の鉄鋼の街を抑えたという報告が来たというのに、撤退命令さえ出ない。
「くそ、北側が本当に片付いたなら、なんでこっちに援軍が来ないんだ!!!」
テントの中で4人が簡易な机を囲み地図を覗き込む中、アーサーは苛立ちを抑えきれず頭を掻きむしった。
「落ち着けアーサー。おい、フィン、カラン。お前らの班、負傷状況は?」
あぐら座りで地図を睨んでいたレイが、アーサーにそう苦言してフィンたちに目を向ける。
「今日は死者0名、右腕欠損で病院行きになったのが1名です」
「自分のところは死者1名、重軽傷者はいません」
フィンたちは背筋を伸ばし声を張って答えた。その答えを聞いて、レイはまた地図を覗き込む。
「今日はお前らは後方支援だったからまだマシだな……。よし、わかった。今日はもう寝てろ」
地図に目を向けたまま、レイはフィンたちにそう指示した。
「はい」
「ありがとうございます」
フィンたちは座ったまま一礼すると、かがんでテントから出る。
しかし、レイたち自身はまだ寝る様子がなかった。
隊の編成を変えてみたらどうか。
死者を増やさず乗り切る構成は?
銃弾の補充まであと二週間どう乗り切るか。
テントの隙間から漏れ聞こえる声には焦りが滲んでいた。
自分たちも知恵を絞るべきなのではないか、という考えが頭をよぎるが、実のところ連日の戦闘で疲労が溜まっている。
見透かされているのだろうなとぼんやり思い、フィンたちはその日泥のように眠った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次でようやく戦いが終わるかな?という感じです。




