第26話 とり五目ご飯
(もうそろそろ帰ってくる頃か?)
悠斗がバイトをするコンビニの店長が、壁に掛けられた時計を見ながら思った。
あいつは何時も、シフトの時間通りに帰ってくる。向こう時間とこっち時間が同じなのかは分からないが、とにかく時間通りに帰ってくる。
バックヤードのパソコンが置いてある部屋の隅でご飯を炊く店長。帰ってからご飯を作っていては夕食の時間に間に合わない。今日は特に奥さんの機嫌が悪いので、時間が遅くなるのだけは避けなければいけなかった。
店長は、とり五目ご飯の素が入っていた瓶を水洗いした。ラベルもちゃんと剥がしておこうと思い、しばらく水に浸けていたのだ。
壁の時計が19時丁度を指した時、突然目の前の空間が光に包まれた。光の中に人影がある。キラキラした光が徐々に消えていき、そして新人バイトの悠斗が姿を見せた。
「よぉ、お疲れさん」
帰ってきた悠斗にねぎらいの言葉をかける。
何だか不満そうな顔をしている悠斗に、何かあったのかを聞こうと声をかけた。
「あ~! やっぱり店長が一枚噛んでるじゃないですかっ!」
といきなり文句を言われる。何の事か分からず尋ねてみると、西の洞窟に石版があり、その石版に「とり五目ご飯」という文字が刻まれていたようだ。たまたま店長が「とり五目ご飯の素」を手にしたので、悠斗が勘違いしたようだった。
店長は水でふやけたラベルを雑巾で拭きながら、悠斗の話を聞いている。石版の裏に日付が書かれてあるのを見て、タイムカードみたいなものかと言うと、悠斗もその可能性もあると思ったのか、石版を大事そうに鞄にしまっていた。
「お疲れさまでした~」
と、店を出ようとする悠斗。だがおでこにはまだ「581円」の文字が書いてある。このままだと悠斗が変な目で見られてしまうので、店長は持っていた雑巾で悠斗のおでこを拭いたのだった。
一方その頃、別の場所では……
(やだなぁ…降って来ちゃった…)
近くのスーパーで買い物を済ませた若い女性が、濡れている地面を見ながらため息をついていた。
白いパーカーのフードを頭に被せると、いそいそと家路を急いだ。だんだん雨の勢いが強くなっている。早く帰らないと風邪がぶり返してしまいそうだ。
ゴホゴホと静かな咳をしながら、家路を急ぐと、傘を差さずにこちらに向かって歩いてくる一人の若い男がいた。背が高くてちょっとイケメンな感じで、何だか少したくましい気がする。体格ではなくて、纏っている雰囲気というか、何か冒険をして自信をつけ始めた勇者みたいな感じだなと、彼女は思っていた。
だが少し変だった。
おでこに何か付いている。
でも何が付いているのかは分からない。だんだん距離が近づき、見えそうな感じもしたが、結局何が付いているかが分からなかった。
(う~気になる…)
どうしても気になったので、すれ違いざまにさっと彼の前へと躍り出た。
「わああああああっ!」
びっくりする若い男性。
「な、なんですか?」
戸惑う男性のおでこに付いている白いモノに何か書いてる。
「とり五目ご飯…」
彼女が文字を読みあげる。何でこんなものがおでこに? と思ったが、別に大した内容でもなかったので、そそくさと家路を急いだのだった。




