第25話 謎の女
(いつも丁度いいところで戻される…わざとか?)
おまじないのキスをもらい損ねた悠斗は、ブツブツと独り言を呟きながら、着ていた防具を脱いでいた。
「よぉ、お疲れさん。今日はどうやった?」
と、言った店長の手には、『とり五目ごはん』の素がある。
「あ~! やっぱり店長が一枚噛んでるんじゃないですかっ!」
と店長に突っかかる悠斗。行く先々で日本語で書かれたモノがあったり、話がとんとん拍子に進んだりと、ここまで偶然が過ぎる。やはり店長が裏で色々と糸を引いていたに違いない。
「おいおい、何の何の話や? ワシはなんも知らんで?」
「そんな訳ないでしょ? 現にとり五目ご飯の素を持ってるし」
店長は、雑巾と、とり五目ご飯の素のラベルが貼られた空の瓶を持っている。
「これか? これは今日の晩ご飯に使うんやで? お母ちゃんがとり五目ごはんが食べたい言うてな。この間のこともあるし、機嫌取っとかんと」
店長がとぼけているのか、本当にぼけているのかは分からない。悠斗はリリアから受け取った石版を、店長に見せた。
「???」
しかし何も起こらなかった。
「これは、何や?」
店長が尋ねる。
「これが西の洞窟の中にあったみたいなんです」
「西の洞窟? なんか、ほんまもんのRPGみたいやな」
「ほんまもんのRPGなんですよ」
と、悠斗も店長の関西弁に合わせて答える。
「で、その石版どうするねん?」
「知りませんよ。店長が仕込んだんじゃないんですか? あの洞窟に。石版には日本語が書いてあったし」
「知らんで? ワシ、あっちの世界に行ったことあらへんし」
「ホントに?」
「ほんまや。違う世界なんで、怖くてよう行かんわ。お前、よく行けるな?」
「店長が行けって言ったんじゃないですか…」
「せやったな。ちょっとその石版、見せてみ?」
と店長に言われ、悠斗は石版を渡した。
「とり五目ごはんか…ほんまやな、偶然といえば偶然が過ぎるな」
「でしょう? やっぱり店長が置いたんでしょ?」
「ちゃうちゃう…おや?」
石版の裏を見た店長が変な反応をした。
「なんか、数字が書いてあるで?」
「数字?」
店長に言われ、石版を見てみる。
「2026年◎月◎日…今日じゃないですか?」
「せやな。今日やな。なんやろうな。タイムカードみたいなもんやろか?」
そんなバカなと思いながらも、その可能性もあるかもしれない、と悠斗は思った。もしもタイムカードなら、無くすわけにはいかない。だって、もしかしたら、給料がもらえなくなるかもしれないし、と、悠斗はその石版を大事に鞄の中にしまった。
「お先に失礼します…」
と、店長に挨拶をすると……
「おいおい、そのまま帰ったらあかんやろ?」
店長は持っていた雑巾で、悠斗のおでこを拭いた。
「わっ! それ雑巾じゃないですかっ! 汚いなぁ」
「大丈夫や、まだ綺麗な雑巾や。気にすんな」
そう言いながら、悠斗のおでこに書かれた勇者の紋章を消した。
悠斗が今日のバイトを終え、コンビニを出た。外はすっかり暗くなっている。悠斗は家路を急いだ。
人通りが少ない公園の近くの道を歩いていると、向こうから何やら怪しい感じの人が近づいてきた。白いジャージに、白い薄手のパーカーを羽織り、頭はフードをかぶっている。白いマスクをしている。前髪で目が見えないが、どうやら女性のようだ、と、彼女の胸を見て悠斗は思った。
なんだか怪しい感じがするので、少し距離を置きながらすれ違おうとした時だった。
すれ違ったはずの彼女が、突然、悠斗の目の前に立っていた。
「わああああああああっっ!」
悠斗が思わず声を上げる。
小柄な白ずくめのその女性は、悠斗をじっと見上げた。はっきりと見えないが、前髪の隙間からちょこっと見えた瞳はキラキラしている。
「な、なんですか?」
と悠斗が尋ねると…
「とり五目ごはん…」
とひとこと呟いたあと、さっと悠斗を横切り、スタスタと歩いて行った。最初の角を曲がったので、悠斗は追いかけた。
角を曲がった先には、彼女の姿はなかったのだった。




