第2話 バイト先は異世界?
「…帰ります…」
どうやら来る場所を間違えたようだ。冗談で言っているのか、本気で言っているのかは分からないが、冗談だとていも、自分はこのノリにはついけいけないな、と、悠斗は思った。
「待て待て待て待て! 頼むわ〜! 一生のお願い! やってみるだけでもやってみようや! なっ!」
一生のお願いと言って、本当に一生のお願いかというと、そうではない事を悠斗は知っている。だいたいこういう場合、あとでまた「一生のお願い」というお願いが何度もあるのだ。
「なっ、ほんまに頼むわ〜!騙されたと思って、一度だけやってみよう!」
いや…騙されたと思ってと言うよりも、絶対騙してるでしょ…と悠斗は思ったが、あまりにも必死に引き留めるので、ちょっとだけやってみて、やっぱり無理でしたと言おう。一度やってみた上で断るのだから、義理も立つだろう。
「分かりました…じゃあちょっとだけやってみて、無理だと思ったらお断りしてもいいですか?」
できるだけ角が立たなように悠斗が言った。(この時点で断る気満々だと言うことは内緒の話である)
悠斗は手渡された防具を手に取ると、苦笑いを浮かべた。この店のコンセプトなのかもしれないが、これを着たまま接客をするのは、結構勇気がいる。どうか知り合いが来ませんように、と、願いつつ、防具に手を通した。
本格的な防具だった。意外に軽いが、木の棒で叩かれても平気なぐらい頑丈そうだ。いくらコンセプトとは言えど、こんなに本格的なものを作る必要があったのだろうかと思ってしまう。なんだかコスプレみたいでカッコイイ気もするがやっぱり恥ずかしいので、さっさと仕事を初めて、「やっぱりごめんなさい」と言おうと、悠斗は改めて自分の気持ちを整理した。
「準備できました。まずはレジを覚えたらいいですか?」
バックヤードからレジの方へと向かおうとすると…
「いや、君の職場はこっちや!」
バックヤードの奥に古い扉がある。店長はドアノブに手を掛けたまま、悠斗をにてニヤリと笑っている。
「えっ? 僕の仕事って接客ではなくて、裏の仕事?」
「裏の仕事? はははっ! なんか殺し屋みたいで格好ええな! でも君の仕事は表の仕事や! なんてったって、世界を救う勇者様なんやからな。ガハハハっ!」
豪快に笑う店長。悪い人ではないようだが、言っている意味がよく分からない。
「ほな行っといで! 時給581円の勇者様!」
ギギギと音を立てながらゆっくりと扉が開く。悠斗はその先に広がる、中世ヨーロッパのような古い街並みを見て言葉を失った。
「この扉の先は、ルーメリア王国…これから君の職場になる世界や。さぁ、頑張って!」
と、悠斗の背中を押す店長。そしてその勢いで向こうの世界へと行ってしまいそうになる悠斗。
「あっ、ちょっと待った! 大事なことを忘れてた!」
と言いながら、悠斗の手を引いた。そして部屋の隅にあるパソコンが置いてある机からペンを取ると、悠斗のおでこに何かを書き始めた。
「ちょ、ちょっと! 何するんですか! それって油性ペンじゃないですかっ!」
抵抗する悠斗の頭を鷲掴みにしながら続きを書く店長。
「よしよし、これでOKや。これがないと何も始まらん」
「な,何を書いたんですか?」
「何って、勇者の紋章や」
勇者の紋章を、店長によって刻まれた悠斗。そのおでこには、「581円」の文字がくっきりと刻まれていたのだった。




