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返り血を 浴びて染まりし 柳のは

 そんな仮設暮らしで事件は起こった。同じ住宅の人間が、包丁で人を刺したというのだ。僕は幸い昼間は出かけていたので知らなかったが、隣の住人が夜勤明けで寝ていたところ、やってきた移動販売の車のスピーカーがうるさいとさしみ包丁を持って現れたというのだ。


 運転手は車を置いて逃げたが、川に阻まれ、切りつけられたらしい。川沿いの柳の葉に返り血が残っていた。

 板前だったが、勤めていた店が閉店して職を失ったということで、ノイローゼになっていたようだ。震災の片付けが終わりホッとした今頃が、将来に不安を感じて一番自暴自棄になりやすいという。僕も、片付けに追われていた頃のほうが、大変だったが希望も気力もあった気がする。


 柳刃と呼ばれる頬長い包丁だったことから肋骨の間を通り抜けたため、運転手は亡くなったらしい。たまたま隣だった僕も警察に色々尋ねられた。警察としては単独犯なのかの確認も必要なのだろう。その時どこにいたのかも聞かれた。散策しいていた僕は、スマホで撮った写真を見せながら説明をした。


 災害で自然に奪われる命もあれば、他人に奪われる命もある。今、生きていることが限りなく奇跡なんだと実感させられた。

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