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毛布持ち サイレンに押され 崖登る
そいつは、凍てつく寒空のした、真夜中にやってきた。いつになく張り詰めた空気に、満月が異様なほどの輝きを放っていた。
深い眠りのなかにいた僕たちは、突然の激しい揺れにたたき起こされた。幽霊屋敷のように家具たちが暴れるなか、僕は布団を頭から被り、揺れが収まるのを待った。
携帯電話が鳴り響く。
「高波の恐れ有り。至急、高台へ避難してください。」
外から警報が流れる。
懐中電灯の明かりの中で、かねてから用意してある、防災グッズの入った袋と防寒のための服と毛布を車に積むと、ガスの元栓を締めて急いで家を後にした。明かりの消えた道路にはすでに多くの車や人が出ている。信号の消えた海岸線の国道はすぐに渋滞で身動きができなくなった。
「車はダメだ。すぐに丘に上がれ。」
見知らぬ人々が車の窓を叩きながら、高台へと歩いていく。寝ぼけて走れぬ幼子が父親に背負われている。
僕も着れるだけの服を着こんで、毛布を羽織ると急いで急斜面の崖に作られた避難通路を通ってすぐわきに崖を足早に登った。




