71、島左近に攻略されたのかな
今回で最終話です。
いつもより少しだけ長めです。
「な、なんじゃと!?」
私は、関ヶ原の島左近の陣跡で、島左近の英霊であるモモ爺と一緒に、時がくるのを待っていた。スカウトした女性が扉を選択すると、その扉の先へと転移するらしい。
「どうしたの? モモ爺」
「お奈津ちゃんには、まだお知らせが来ておらぬか?」
「ん?」
そう言われてみれば、何かチカチカと視界の一部が光っている。田んぼの鳥除けかと思っていたけど、向きを変えると文字が現れた。
『プレイヤーは、藍色の扉を選択、着替えの間』
「藍色の扉って、男女逆転の世界?」
「そうじゃ、お奈津ちゃんが最初に選んだ扉じゃ。マズイのじゃ! まさかの選択なのじゃ」
モモ爺は、ジタバタと焦っている。
「どうして、そんなに慌ててるの? あっ」
ふわっと浮遊感を感じた。転移だ。モモ爺は、悲壮感を漂わせている。転移中は、考えが見えないのね。
そして、緑の眩しい草原に降りた。電線はない。戦国時代の関ヶ原ね。なんだか、懐かしさが溢れてくる。
あれ? モモ爺がいない?
『ここにいるのじゃ』
「えっ? どこ? 隠れてる?」
『隠れていないのじゃ。下じゃ』
頭の中に直接響く声。もしかして……わっ!
「本物のモモ爺じゃない! ふふっ、会えて嬉しいよ」
足もとには、懐かしいモモンガの姿の彼がいた。
『うぬ? そ、そうか? じゃがワシは、プレイヤーには言葉が通じなくなったのじゃ。ただのモモンガの鳴き声にしか聞こえないから、お役に立てないのじゃ。それに直接のパートナーじゃないから、アイテムも使えぬ。ただのかよわい小動物になってしまったのじゃ』
モモ爺は、地面に手をつき、大げさに落ち込んでいる。ふふっ、この姿も、なんだか懐かしい。
「アバターを脱いだら?」
頭を抱えてふるふると振るモモンガ……。
『お奈津ちゃんをサポートするのがワシの役目じゃ。お奈津ちゃんのプレイヤーがいる世界では、ワシもパートナーの掟に従うことになるのじゃ』
「ん? どんな掟?」
「パートナーがいる世界では、アバターは脱げないのじゃ』
「ふぅん、そっか。じゃあ、モモ爺は、袖の中に入っていればいいよ。私が困ったときに、どうすればいいかを教えてくれたらいいんだから」
『じゃが、この世界はプレイヤーの質が悪いのじゃ。プレイヤーが他のプレイヤーを襲うというのに……。なぜあの女子はこっちの世界に来たのじゃ』
「男女逆転だと説明されたのかもね。女性が強い世界に行きたかったのかも。あっ、私は忍び姿じゃないから、弱くなってるのかな?」
『いや、姿は変わっても、お奈津ちゃんが得た能力は変わらないのじゃ。結界術も使えるじゃろ』
「そっか、じゃあ、私がモモ爺と彼女を守るから大丈夫だよ。それに、この姿でモモ爺と一緒に、あちこち観光してみたいな」
『ワシが小動物でも良いのか?』
「うん、貴重だもの。こっちの世界にいるときだけでしょ?」
『確かに、プレイヤーがいなければアバターは着られないし、藍色の扉の先だけがワシは初期アバターじゃが……』
モモ爺は、かっこいいところを見せようと考えていたようだ。そうすれば、友達から恋人に昇進できるって思っている。
そんなことしなくても、モモ爺は、もうガッツリと私の心をつかんでいるのに。
そう考えた瞬間、モモ爺はパッと後ろ足で立ち上がり、前足で口を押さえていた。ふふっ、かわいい。私はふわっと軽い気持ちになった。
やっぱり、モモ爺って癒し系ね。
英霊としての身分が高いとか、剣豪だとか、そんなことは私にはどうでもよかった。モモ爺は、やっぱり一緒にいると安心できるし、元気をくれる。
私は、モモンガを以前のようにそっと抱き上げ、そして思わず、チュッとキスをした。
モモ爺は、目をまんまるにして固まっている。ふふっ、かわいい。
『お、お奈津ちゃん、ワシは昇進したのじゃな? 恋人に昇進したのじゃな!』
「そうかもね〜」
そう答えると、モモンガはジタバタしている。何? その動き? 私の手から逃れたいの?
『嬉しいの踊りじゃ!』
「ふふっ、そっか。島左近を攻略してほしいと頼まれたけど、島左近に攻略されちゃった感じね」
『ワシはもっと頑張るのじゃ。次は夫婦に昇進するのじゃ』
そのとき、草原に、プレイヤーの女性が現れた。不安そうにキョロキョロしている。私の姿はまだ見えていないのかな。
『お奈津ちゃん、さぁ、ここからが本番じゃ。あの女子をエンドクリアに導くのじゃ。ワシも、精一杯、お助けするのじゃ!』
「うん、頑張るよ。モモ爺、頼りにしてるからね」
『任せておくのじゃ!』
そう言うと、モモ爺は私の着物の袖に、ぴょんと飛び込んだ。この重さも懐かしいな。
この世界に来たときは不安だけしかなかったけど、今は前向きに頑張ろうと思えるようになった。モモ爺のおかげだ。
関ヶ原での奇跡的な出会いに感謝……そして、これからは、一人でも多くの追い詰められている人を救いたい。
モモ爺と出会えなかったら、今頃、私は消えている。
この世界の危機的な事情もわかった。私を救ってくれた世界が存続できるよう、早く一人前の英霊になって少しでも役に立ちたい。
なんだか、こんな風に自分の心が強くなるなんて、驚きだな。いつ死ぬかわからない環境が私を強くさせたのか。いや、何も体裁を気にしなくなったからかな。
思えば以前の私は、高すぎる理想を追いつつも、自分で自分の限界を作っていた。そして、他人の目を異常に気にしていた。でも、きっとそれは、自分で自分を縛っているだけだ。
他人からどう思われても、そんなことはどうでもいい。今はそう思っている。そしてそれが何よりの自己防衛。
きっと、何も考えない方が前向きになれる。
『今だけ、ちょっとバカになれ』
プレイヤーにはそう伝えよう。もっと気楽に生きていいんだよ。
私は、モモ爺のぬくもりを感じながら、不安そうにしている彼女に向かって歩き始めた。
ーーーーーーーーー 〈完〉 ーーーーーーーーー
皆様、最後まで読んでくださってありがとうございました♪ ブックマークや評価もありがとうございます(*≧∀≦)
おかげさまで、無事書き終えることができました。ほんとにありがとうございます。
本一冊程度の10万字予定で書き始めましたが、予定は狂うものですね(汗)
いま、並行して投稿しているゆる〜いハイファンタジー以外に、近いうちに新作を始めます。次作は、男性主人公のハイファンタジーです。よかったら、覗きに来てください。
【お願い】
ブックマークは、枠に余裕があれば、読了記念にそのままにしておいていただけると嬉しいです。ブクマが減ってしまうと寂しいので……。
後書きも、ここまで読んでいただき、ありがとうございました♪(*^_^*)




