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前線での出会い ウォレスside⑤

更新遅くなりました。

もう百年以上も前から隣国とは国境線を巡り諍いが絶えなかった。


両国を跨る膨大な水量を誇る湖の水利権を巡っての争いとも言えるが。


何度も小規模ないし中規模な衝突を繰り返してはその都度湖の中央の位置で線引きをして和解も繰り返しているのだが、今回は湖水上の国境線付近の漁場の権利を巡って抗争が勃発したのであった。


そして何を血迷ったのかこれを好機とばかりに国王が湖全ての権利を主張したのだ。


当然隣国はそれを認めるはずもなく、湖とは全く別の国境付近に第三騎士団と称される一個師団を送り込んできた。

それを受け国境を越えられてはなるものかと我が国も派兵。

何とか交渉による平和的解決をと、副騎士団長となったジャック=ローベル伯爵(父親は公爵位を得た王弟。ローベル卿はその次男坊で王位継承権第四位)が国王に直談判をするも敢なく却下。

国王は隣国に対抗すべくこちらも一個師団を国境に展開させた。


双方の騎士団を率いていた師団長が運悪く両名とも脳筋だったため、開戦の火蓋は呆気なく切られたのであった。


ウォレスとウォードが在する諜報部も数名が情報収集等のために前線へと送られる。

その中にウォレスも含まれており、当時別の任務を終えたばかりのウォレスは他の者とは別ルートで前線となる国境へと向かった。


その途中、ウォレスはドリトル前伯爵が幽閉される街へ立ち寄った。

教会の司祭に扮し、ドリトル前伯爵の監視役を務める仲間に上からの書状を渡すためだ。


書状を渡し終え、幽閉後すぐに精神を病んだというドリトル前伯爵の様子を遠くから窺う。

枯れ朽ちた老木のように変わり果てたドリトル前伯爵の姿に、ウォレスは虚しさを感じた。


───あれがかつて国の中枢で名声をほしいままにしていた男の末路か。


そんな事を考えながら教会内を歩いている時にふと壁画が目に入る。

そこには太陽の下にいる天使と月の下にいる天使が対になるように描かれていた。


この壁画は一人の天使を表と裏で表したものなのか、それとも二人の天使を描いたものなのか……。


ウォレスはこの天使が自分たち双子のような気がしてならなかった。



そしてウォレスはその街を経由して前線入りを果たす。


師団長が指揮を出す本部にしている教会に顔を出し、着任の挨拶をした。

すると師団長は早々に敵陣営の諜報に当たれと居丈高に指示をしてきた。

先鋒として先に来ていた諜報部の仲間が諜報活動中に戦闘に巻き込まれ負傷した事も知らされる。


「貴様ら諜報員は、陰でコソコソと動き回るしか能がないから戦闘で怪我なんぞするんだ」


と、諜報員が前線を駆け回って戦況を分析し、それを報告しているからこそ、安全な本部でぬくぬくしていられるにも関わらず、師団長はそう偉そうに言ったのであった。

相手にするに値しない輩だ。


ウォレスはそのまま負傷した仲間が収容されているという、病院へと向かった。


病院にはすでに病床数を超える負傷者が運び込まれ、各地より派遣されて来た医療魔術師たちが治療に当たっていた。


仲間は相手側の魔術により負傷したらしいが、幸い命は取り留めたそうだ。

麻酔魔法により眠っている仲間の顔を見て、ウォレスは思った。


───表の任が俺で良かったと感じたのは今回が初めてだな。


影としてしか動けないウォードが前線に駆り出される事はない。

大切な半身がこの仲間のようにならずに済む事だけは本当に良かったと思えた。



その時、同じ病室の中で一人の騎士が急に声を荒らげた。


「なんだ貴様っ、まだ小娘ではないかっ!もっと熟練の医療魔術師に治療させろっ!」


どうやらまだ新人の女性医療魔術師が気に入らないと吠えたてているようだ。


治療を待つ負傷者が後に控えていというのに何を贅沢な事を言っているのか。

女性医療魔術師の補佐に付いている看護師が宥めているが、騎士は新米などに診られてもしもの事があったらどうするのだと喚き散らしている。


ウォレスはその年若い女性医療魔術師を見た。


──気の毒に、とんだ災難だな。


見たところまだ十七、八の娘だ。

それなのにこのような前線に駆り出されただでさえ不安を抱えているであろうに、その上図体のデカい騎士にがなり立てられてすっかり怯えているのではないだろうか。


ウォレスはあの騎士を黙らせるか…と考えたその時、女性医療魔術師が負傷した騎士に向かって毅然とした態度で言った。


「そうですか。では治療拒否により死亡、と死亡診断書を書いてもよろしいですか?」


女性医療魔術師の突然のその言葉に騎士は目を見張りながらそう言った。


「なにっ?な、なぜいきなり死亡診断書になるんだっ!頭がおかしいのではないかっ!?」


「頭がおかしいのは騎士様の方です。その傷は魔術師の呪詛によりつけられた熱傷。すぐに治療しないと見る間に壊疽が広がり良くて手足の切断、最悪の場合命を落としますよ」


「なっ……!?じゅ、呪詛っ!?え、壊疽っ!?」


告げられた重い診断に今まで居丈高にものを言っていた騎士が急に怯んだ声を出す。


「あいにくベテラン医師は皆さんもっと最前線の医療施設に行かれています。もちろんここにも熟練の医師はおりますが、その順番を待っている間に壊疽が広がり、手遅れになるでしょうねぇ……」


目を閉じ残念そうに肩を竦める年若い女性医療魔術師を見て、ウォレスは思わず吹き出しそうになった。


そして女性医療魔術師が畳みかけるように騎士に告げる。


「だけどあなたは運がいいです。私は確かにまだ経験の浅い新人ですが、医療魔術師の国家試験で、呪詛による熱傷治療の問題では満点を出したんです。そしてそれを認められ、現場ではこれまで何人もの熱傷患者を治療してきました。なので騎士様が負っている熱傷くらいちょちょいのチョイと治療してみせますよ?どうです?試しに治療を受けてみませんか?」


今治療を受けなければ死ぬと言われた上で魅力的な単語を並べ立てられてはそれ以上拒絶する理由はないだろう。

それでも拒否するような馬鹿ならもういっそこのまま死ねばいい。


ウォレスがそう考えていると、負傷した騎士はごにょごにょとバツが悪そうに「ち、治療を頼む……」と言った。


その瞬間、女性医療魔術師はパッと笑顔になり頷いた。


「もちろんです。お任せください」


そう言って彼女は騎士の治療をすぐに始めたのだった。



ウォレスはその様をじっと見つめていた。

威圧的に声を荒らげる騎士にも怯まず毅然とした態度を取った事も、


言葉巧みに負傷した相手の心情を揺さぶりいつの間にか治療を受ける気にさせていた事も、


そして屈託なく笑う彼女の笑顔が印象的だった。



病院を出て、任務をこなしている時もなぜかあの女性医療魔術師の事が頭から離れない。


あの笑顔が、懸命に治療に挑む姿が忘れられなかった。


一度会っただけ、しかもこちらが一方的に見ていただけの相手なのになぜこうも心が揺さぶられるのか。


気付けば敵側の情報収集と共に彼女の事も調べ上げていた。


名はクララ=クレリア。

年は十八になったばかり。

早くにふた親を亡くし、独学で医療魔術を学び優秀な成績で国家試験に合格したという。

そして地方騎士団の医務室に勤め出すもすぐにこの前線に送られてきたらしい。


───詳細を知ったからといって何がどうなるわけでもない。

俺は彼女のような人に関わっていい人間ではない。



そう頭では思いつつも、つい彼女の姿を目で追ってしまう。

仲間の見舞いと称しては病院に訪れ、彼女を遠巻きに見つめていた。


そんなウォレスの様子に、負傷して入院していた仲間は当然気付く。

あの堅物ウォレスにもまさかの春が来たと揶揄された。

これは先輩たちに報告だとまで言われ、ウォレスは「そんなんじゃない」と否定するも、クララという医療魔術師に恋した事は間違いないと断言された。


───恋?これが?この気持ちが恋というものなのか?


まさかそんな、自分のような人間が人並みに誰かに恋をするなんて……


初めての感情に只々呆然としているうちに、今回の衝突は終焉を迎えていた。 







───────────────────────




出会っちゃった。



そして恋に落ちちゃった。



次回はお見合いのカラクリが分かるとか?


そして二人の新婚生活が覗けるとか?



作中に出てきたローベル伯爵。

過去作にも出てきましたがお気付きでしょうか?


以前、彼のお話も…というお声があったあの方です。

その時は彼のその後は書かないとお答えしていたのですが、書いてますね?(ΦωΦ)フフフ…



次の更新もよろしくお願いします。



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