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1.戸惑いとまどろみ

何エピソードか書き直してます。

ちょっと展開変わる場面もありますのでぜひ読み直していただけると嬉しいです!

「ねぇ、リズ。俺と結婚しよう」


ユアンの艶やかな黒髪から覗くアメジストの瞳が怪しい光を宿している。

目の前にいる壮絶なイケメンは甘く禍々しい笑みで私に手を差し伸べていた。

何故かその背後では真っ黒な雲が立ち込める空に向い、山からマグマが噴き上がっている。

私は回らない頭で呆然と『マグマ綺麗だな』と考えていた。


え。何、この状況。


間違ってもただの伯爵家の娘である私、リズベス、マンデルソンが置かれている状況とは思えない。

乙女ゲームの世界に転生したはずなのに、何故RPGゲームのボス戦みたいなみたいな場所にいるのだろうか。

只ならぬ雰囲気に自然と後ずされば、何かが背中にぶつかった。

振り向けば金髪碧眼のこれまたイケメン、我がメルジスタ王国王太子のアルバート王太子殿下の姿があった。

殿下はにっこりと輝かしい王子様スマイルで私の背中を押す。


「あんたは魔王への献上品さ」


……何言ってるの、このポンコツ王子は。

訳も分からず再び前に向き直れば、ユアンの頭の左右から立派な角が生え、着ているローブは上位魔術師の紫ではなく真っ黒なマントに変わっていた。

確かに魔王のような姿だが、顔立ちが整い過ぎているせいで妖艶な雰囲気さえ感じてしまう。

……なんて達観している場合ではない。


「ユアンが魔王ぅ!?」


驚きのあまり貴族令嬢らしからぬ奇声を上げ後ろに飛びのこうとするが、アルバート殿下にしっかりと押さえられ下がる事が出来ない。

ユアンの口角が上がると、開いた唇から牙が覗く。


「さぁ、おいで」

「さぁ、行きな」

「ちょ、ちょ、ちょっと!」


近づくユアンに、後ろから押すアルバート殿下。

私は抗議の声を上げるが二人は止まる気配もない。


「さぁ」「さぁ」「「さぁ」」


この……!

私は握りこぶしを作り胸いっぱいに空気を吸い込む。


「いい加減にしろーーーーっ!!」


そう言って力いっぱい叫ぶとガバっと起き上がったのだった。

……ん?起き上がった?


「……あら?」


周りを見渡せば見慣れた自分の部屋で、これまた見慣れたベッドの上で腕を突き上げていた。

マグマが噴き上がる火山も、魔王ユアンもポンコツ王子もいない。

ワインレッドとベージュで整えられた落ち着く空間にキラキラと光が差し込んでいた。

どうやら悪夢を見ていたようだ。

はぁぁっと盛大に息を吐きだし、膝を抱えて項垂れる。


「夢かぁ……」


あんな現実あったらたまったもんじゃない。

ただ夢であって夢でないのも確かで。

私はチラッとベッド横のサイドテーブルを見る。

そこにはきちんと畳まれた紫色のローブが乗っていた。

昨夜返しそびれてしまったユアンのローブだ。


返す為にユアンの部屋まで持って行ったんじゃないのかと責めないで欲しい。

昨夜はキャパオーバーもいいところで、ユアンと話していた途中からローブの存在をすっかり忘れてしまっていた。

ユアンも何も言ってくれなかったし……。

もう昨夜の私の頭の中は「とりあえずベッドにダイブして寝たい」でいっぱいだった。

ユアンに手を引かれ馬車まで送ってもらった後は、挨拶もそこそこに馬車に乗り込んだ。

別れ際「またね」と耳元で囁かれ、崩れ落ちそうになる膝に激を飛ばし気力で馬車に乗り込んだ私を誰か褒めてほしい。

家に着きヨボヨボの私を出迎えてくれたローレンスに「お嬢様そちらは?」と尋ねられ、やっと返しそびれたことに気が付いたのだ。


「色んな事がありすぎたのよ……」


いや、色んな事が起こったなんて可愛いものじゃなかった。

天変地異が起こったようなものだわ……。

昨夜の出来事を思い出し頭を抱えていると、扉がノックされ侍女のメリッサが入ってきた。


「おはようございます、お嬢様。お支度に参りました」

「おはようメリッサ。お願いするわ」


はぁと溜息をつきのろのろとベッドから出る私をメリッサが心配そうに覗き込む。


「大丈夫ですか?だいぶお疲れのようですが……なんだか顔も赤いですよ?」

「大丈夫よ。顔が赤いのは……昨夜を思い出して精神攻撃を喰らってるだけだから気にしないで。体調は問題ないの。精神的にいっぱいいっぱいなだけで」

「まさか……昨夜の舞踏会で何かお辛いことでも?」

「え?いやぁ……辛いことではないよーな……」


大まかに言えばユアンから求愛されたという出来事な訳で、別に嫌な思いをしたとかじゃないし……。

むしろ有り得ないほど幸運な事なんだろうけど、素直に喜んで受け入れることが出来ない状況なのが……辛い事なのか?

メリッサにどう伝えたものかと悩んでいた、その時。

バァァン!!という轟音が部屋を震わす様に響く。


「「!?」」


ドアが破壊されたかのような轟音を立てて開き、メリッサと2人飛び上がったところに誰かが飛び込んできた。


「リズ!昨夜の事はいったいどういう事なんだい!?」

「……おはようございます。カルロお兄様」


騒音を立て飛び込んできたのは昨夜一緒に舞踏会へと赴いたカルロお兄様だった。

走って来たのかぜぇぜぇと息が上がっている。

それはともかく。


「お兄様?いくら家族とはいえ、女性の部屋にノックもなしで押しかけるなんてマナー違反ですよ」

不躾な兄に怒って腰に手を当てれば、メリッサが後ろから羽織を掛けてくれた。

なにせ私は起きたばかりで夜着のままなのだ。

「それはすまない。だが」


まったくすまないと思っていない感じでぺろっと謝ったお兄様はさっさと話題を切り替えた。


「昨夜の主役であるアルバート王太子殿下から妹がダンスを申し込まれた、というだけでも気を失ないそうな程驚いたというのに、突如現れた謎の美青年と突然姿を消した妹に、兄は大変混乱……いや、錯乱状態な事も理解して欲しいのだが」

「え……えええ!?」


驚きの声を上げたのはメリッサだ。

驚愕のあまりあんぐり口を開けてしまっている。

うんうん。驚くでしょうね。私なんて実際気絶しましたからね。

私はお兄様とメリッサを交互に見て頷く。


「私だって何が何やら混乱しています。自分が殿下からダンスに誘われるなど考えてもいませんでしたし。まさかそこにユアンまで現れたんですもの」

「ユアン?ユアン……幼馴染のメイスフィールド家の末っ子か!」

「ええ。まさに行きの馬車でお兄様が話していたのがユアンですね。何でも国家最高位魔術師というとんでもない魔術師になったそうで……その、何と言いますか……」


言い淀んだ私は、ゴホンと咳ばらいをする。


「結婚を申し込まれました」

「「けっ……ええええ!?」」


お兄様とメリッサの声がシンクロし、驚愕の声が部屋に響く。

お兄様は後ずさりチェストに腰を強打し、メリッサは腰が抜けたかのようにその場に尻もちをついた。

あまりの驚きっぷりに慌てて付け足す。


「落ち着いて!ちゃんと断ったから!」

「え……断った…………??」


2人はぽかんっと口を開けたまま固まってしまった。

……うん。すごく間抜けな絵面だわ。

まぁ私だって情報過多で頭から煙出そうなんだから、驚くのも無理ないと思うけど。

それにしても女性からそれなりに人気があるのだし、マンデルソン家嫡男のお兄様は口を閉じたほうがいいと思う。


「……」

「「………」」

「……2人ともそろそろ戻ってきて」


支度もしたいし出掛ける予定もあるし、固まったままの二人に声をかける。

ハッと先に我に返ったのはお兄様だった。


「あー……リズは昨日ユアン君に結婚を申し込まれたのかい?それはリズが好きだからという事でいいのかな?」

「ま、まぁ信じられないですけど、そう言ってました」

「それで……お断りした?」

「はい」

「……」

「……」

「結婚適齢期なのに相手がいない妹が、とんでもない好条件の相手からの求婚をばっさりと断ってくる理由が分からない!」


若干馬鹿にされた気もするが……お兄様は頭を抱えてしゃがみ込む。

その横で今度はメリッサが我に返り、代わりに立ち上がった。


「お嬢様!何故お断りされたのですか!」

「何故って……」


ここが前世で見た乙女ゲームと同じ世界で、後に主人公と出会い恋に落ちるかもしれないから……とは言えない。

「カルロ様のお話から見目麗しい殿方だという事ですよね!?」

「そ、そうね」


前のめりのメリッサに押されつつ頷く。

なんせ前世の乙女ゲームでは攻略対象として、世の乙女達のハートを鷲掴みにしていたのだから。


「しかもとても凄い魔術師様だとか。顔良し地位良しおまけに幼馴染……仕えてから今までロマンスとはかけ離れたお嬢様に初めて訪れたロマンスが、こんな奇跡のようなお相手だというのに、何故お断りする必要が……!?」


お兄様に引き続き馬鹿にされている気がするのは気のせいではないと思う。

すん、と半目になった私の前でメリッサも床に手をついて撃沈した。

頭を抱えるお兄様に床で項垂れるメリッサ。

そんな2人を前に夜着で佇む私。

朝から完全にカオスな状況であることは間違いない。

そうね。まずは。

「2人とも。順を追って説明するから、とりあえず着替えてもいいかしら?」

朝の支度を整えるのが先決だと思う。


      *****


「ミルクティでございます」

「ありがとう」


寝室から繋がった私の部屋、テーブルに置かれたお茶に手を伸ばす。

ミルクと蜂蜜がたっぷりの紅茶は漂う湯気さえ甘く香る。

やっと支度を整える事が出来た私はティーカップに口を付けつつ、何とも渋い顔でお茶を見つめるお兄様をちらりと見た。

言っておくがメリッサのお茶の味に文句がある訳ではない。

我が家の使用人達は、超人といっても過言ではないスーパー家令ローレンス仕込みなので皆レベルが高いのだ。

メリッサの入れてくれるお茶もとっても美味しい。

お兄様が渋い顔をしているのは、私が話した昨夜の出来事を消化しようとしているからなのだ。


「話はわかったけれど……正直、何と言っていいものやら」

「そうでしょうね。私だって絶賛混乱中ですもの」


お兄様の渋い顔に私は肩をすくめて見せる。

支度が終わってから昨夜の事を順を追って説明した。

話しながら自分でも本当の出来事なのかな?と疑うぐらい信じられない夜だったと思う。

だけど……。


『惚れさせる。俺以外に目が向かないくらい……覚悟しておいて』


そう不敵に見上げる熱を込めた瞳を思い出し、自然と顔が熱くなる。

反則だわ!だってめちゃくちゃ格好いいんだもの!!

あの顔でこんな台詞を言われたら、まるでモブの自分が主人公にでもなったかのように錯覚してしまう。

私はモブ、モブの中のモブ、私はモブとして清く、目立たず、大人しく……。

邪念を追い出すように首を振りお茶を含む。

そんな私を気にすることなく、お兄様はふぅっと天井を仰いだ。


「僕は会場での出来事しか知らなかったけど、それだけでも驚いたよ。壁と一体化すると豪語していた妹が王太子殿下から声を掛けられた時には、持っていたグラスを落としてしまったぐらいだ」

「ああ。なるほど」


静まり返った会場でパリンと響いたあの音はお兄様のグラスだったのか。

一人納得しながらまた一口お茶を飲んだ。


「しかし、あの泣き虫ユアン君があんな良い男になるとはね。小さい頃はそりゃあ天使じゃないかっていうくらい可憐で可愛らしかったから、あんな精悍な顔立ちになるとは意外だったな。大好きなリズの為に良い男になったのかなぁ」

「んぶっ!ゲホゲホッ!!」


しみじみと言うお兄様の言葉に思い切り咽てしまう。

メリッサが慌ててナプキンをくれ、背中をさすってくれる。


「ゲホ……ゲホ、な、何ですか、いきなり!」


気管に紅茶が入り苦しむ私は、ナプキンで口を押さえながら涙目でお兄様を睨む。

お兄様はうんうんと頷きながら優雅にお茶に口をつけた。


「いやぁ、素敵な話だと思ってね。確かに驚いたけど、とてもいい話じゃないかい?」


隣で背中をさすっていたメリッサも同意見だというようにうんうんと頷いている。


「ある日いい男に成長した幼馴染が昔から君が好きだったと求婚に現れる。まるで世の女性が憧れる恋物語のようじゃないか」

「素敵ですぅ……!」


お兄様の話にキラキラと目を輝かせているのは私ではない。

お隣のメリッサが空想を描いているのか、両手を口元で握りキラキラの瞳で空を仰いでいる。

ああ……メリッサの愛読書は恋愛小説だものね。

私も読書は好きなのでメリッサから薦められることが多い。

確かに。恋愛小説のような展開だわ。

だけど残念かな、ここは乙女ゲームの世界。しかも私はモブなのだ。

攻略対象のユアンとモブの私が恋愛小説のようにハッピーエンドになるはずがない。

むしろ何故モブがこんな展開になっているのか謎でしかない。

微妙な顔の私にお兄様はにっこりと微笑む。


「喜んでお受けしたらどうだろう?小さい頃だってそういう話は出ていただろう?」

「……そうはいきません」


話はここまでと立ち上がる。

そんな私を2人は不思議そうに見上げた。


「どうして……」

「とにかく!」


お兄様の言葉を遮り、ビシッと指を向ける。

数年後にはユアンは別の人を好きになる可能性が大なのだから、求婚を受ける訳には行かない。

モブの私は当て馬か邪魔者か……どちらにせよ平和な今世を望む私としては御免被りたい。


「この話はお終いです。私は仕事がありますからこれで」


2人がこれ以上何か言い出さないうちにさっさと扉のほうへ移動する。

扉に手をかけて一度振り返ると、


「どうぞお兄様はごゆっくり。メリッサはそのままお兄様の給仕をしてあげて頂戴。じゃ!」


と言い残して扉を出た。

きっと部屋では残された二人が顔を見合わせていることだろう。

でも私の事情など説明できないのだから仕方がない。


「さて……」


切り替えて仕事に取り掛からなければ。

今日は新作の打ち合わせに、来週のお祭りの打ち合わせ……予定が沢山詰まってる。

驚くような出来事があったとしても働かなくては。

何せ私は傷もの令嬢。穀潰しにならないよう稼がなければ。


「よし、頑張るぞ!」


廊下で一人ガッツポーズで気合を入れるのだった。

沢山のブクマや評価ありがとうございます!

お待たせしてごめんなさい汗

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