乱戦
(ふふ、やっぱり面白いなぁ)
さっき聞いた作戦を思い返してつい笑ってしまう。
作戦なんてものじゃない。
運任せの行き当たりばったり。
作戦としてはさっきのミノタウロス戦よりもひどいものだ。
でも確かに、今の私たちが打てる手の中で確率が高いとしたらこの手だと思う。
私たちだけで戦い抜く事を考えたら、悪い手ではない。
最悪今よりも悪くなるリスクを踏まえたうえでも、だ。
持久戦は論外。
ダメージが足りない上にお互いのMPも足りなさすぎる。
かといって『ギャンブリングスラッシュ』任せも分が悪い。
(やっぱり紫月は面白なぁ)
ハッキリ言ってこんな回りくどい事をしなくても簡単な手はあるのだ。
『バルムンクを呼ぶ』という簡単な手が。
さっきのミノタウロス戦もそれをすれば早かった。
でもそれを選ばないでくれている。
この戦いを満喫する方を選んでくれている。
本来サモナーとしての戦い方ではないけれども。
それすらもきっと楽しんでくれている。
(さて鬼が出るか蛇が出るか)
どう転ぶか分からないけど。
「トラブルメーカー!」
ここまで来たら行きつくところまで行くのみ!
***
(まず一つ目の賭けは成功だ)
トラブルメーカーによって集まってきた森のモンスター。その数5匹。
多分これからトラブルメーカーの間は増え続ける。
(ハチ2とゴブリン2とでかい切り株1か)
先に使っていたディープミストのおかげまだ俺たちを補足していない。
本当に集まってきただけだ。
(これなら)
「グルァァァ!!」
「ギャッ」
案の定暴れているミノタウロスの攻撃を受けている。
攻撃を受けたのはゴブリンだったが、あれだと他のモンスターにも当たるだろう。
(さて、問題はここから)
「ギャッギャッ」
攻撃を受けたゴブリンがミノタウロスを威嚇し始める。
他のモンスターもミノタウロスを警戒しだす。
ミノタウロスはお構いなしに周囲へ攻撃を繰り返している。
「バインド!」
今度は腕を胴体ごと封じる。
ミノタウロスは周囲を見回して俺を探しているが、周囲のモンスターはお構いなしにミノタウロスへ攻撃しだす。
(よし、二つ目クリア。後は)
周囲を確認する。
予定通り、集まってくるモンスターはユズキが霧に紛れながら葬っている。
ゴブリンとハチは殆ど一撃だ。
切り株は流石に1撃とはいかないが、それでも2,3発で沈めている。
「来る者拒まず!」
バインドが切れた段階で新しく取ったスキルを使用する。
対象は当然ミノタウロス。
足場が急に砂になり、足からどんどん沈んでいっている。
抜け出そうと両手を地面につけるが、それすらも飲み込んでいく。
とはいえレベル1だとそこまで深くはないのか、膝辺りで沈むのが止まってしまう。
(それでも十分)
周囲にいたモンスターはこれ幸いとばかりに攻撃を繰り返している。
ミノタウロスのHPは順調に削れて言っている。
毒状態になっているのはハチからの攻撃だろうか。
何にしても目的通りでなによりだ。
(もっとも、レベル差のせいでダメージ自体はそんなになさそうだけど)
ダメージを負わせてはいるが、HPはまだ7割残っている。
ステータスを確認しながら周囲の状況を確認し、ユズキへの指示とモンスターの妨害に専念する。
そして——
『シズはレベルが1上がりました』
ログの画面に現れた文字を見てガッツポーズをとる。
(よし、計画通り!)
今回の戦いで俺が考えた作戦。
それは「ユズキの『トラブルメーカー』を使って他のモンスターを誘い出しレベルアップすれば、HPとMPの問題は解決するんじゃないか」というものだ。
レベルアップによってHPとMPが回復するのは確認済みだ。
問題は
「集まってきたモンスターをどうするのか」
「集まってきたモンスターを始末している間ミノタウロスはどうするのか」
の二つだ。
先のミノタウロス戦の前、熊を捕食している姿を見て思ったのだ。
『あ、モンスター同士でもダメージはあるし、襲い掛かることもあるのか』と。
カンパネルラも
「モンスターそれぞれにヘイトあるみたいで、モンスター通しの喧嘩もたまに見かけるっすよ」
と言っていた。
だったら集まってきたモンスターにディープミストで自分たちが気づかれないようにしたうえで、ミノタウロスから攻撃を喰らえばヘイトはミノタウロスに向くはずだと考えた。
ミノタウロスが集まってきたモンスターと争っている間に、他のモンスターをユズキの火力で葬っていれば、いつかはレベルアップするだろうという作戦だ。
まあ、作戦なんて言う立派なものではない。
クリアしないといけない条件が厳しいのだ。
「モンスターのヘイトがミノタウロスに向かないといけない」
「ミノタウロスの攻撃を喰らってはいけない」
「モンスターが集まり過ぎると対処できないので速攻で始末しないといけない」
etc.
おまけにヘイト管理が面倒だったり、こちらが対処できないモンスターが出てきたらその時点で詰みだ。
今のところうまい具合に回っているが、最悪またミノタウロスが誘い出されるのではと考えると胃が痛い。
「バインド!」
「ギャンブリングスラッシュー!」
後は集まってくるモンスターがいないタイミングでミノタウロスを妨害し、ユズキが安全に『ギャンブリングスラッシュ』を叩きこむ。
流石に他のモンスターもユズキに気づいて攻撃を仕掛けてくるから、ミノタウロスから距離を取りつつ始末する。
ミノタウロスとの争いでHPを減らしたモンスターなら、ユズキの火力で1撃ですむ。
後はこれを繰り返すだけだ。
***
「ヒャッハッハッハ、すげぇなあいつら!本気で倒すつもりかよ!」
女のスキルを使った辺りからだ。
モンスターが急に沸いてきやがった。
それをミノタウロスにぶつけやがったのだ。
「確かにそれならダメージを与えることは出来るしリキャストタイムを稼ぐこともできるな。もっともあのミノタウロスと他のモンスターじゃレベル差あるからダメージに期待は出来ねぇが」
案の定モンスターから攻撃を喰らってはいるが、HPは思ったよりも減っていない。
毒にはなっているが、それでも微妙なとこだ。
「あぁ、レベル上げも兼ねてんのか。よくもまぁ」
実に思い切った作戦だ。
ただでさえミノタウロスに苦戦してるのに、さらにモンスターを誘い出そうだなんて。
「あの男の妨害や霧と、女の火力があるからこその作戦だな」
本来であれば初心者がこの樹海のモンスターを1撃で倒せることはあり得ないのだ。
ある程度装備を整えれば別だが、平原でレベルを上げた初心者が油断したまま樹海に入って苦労するのがハニーポイズンとトレントだ。
ハニーポイズンからは毒を、トレントは大量のHPを持っているため、本来であれば2、3発で消し飛ぶようなモンスターでもないのだ。
「そもそもあの亜種にダメージが入ってる時点で普通の火力ではないんだが」
次のディノス坑道の地下2階に生息しているとはいえ、推奨レベルは25~30なのだ。
因みに1階の推奨レベルは10~15。
それもそうだろう。
何しろ地下2階は本来であればディノス坑道を抜けた先の町でイベントをクリアすることでようやく入れるようになるのだから。
明らかにここで出てくるようなモンスターじゃない。
それを少しづつとはいえダメージを与えている女の火力は正直異常だ。
さらに言えば直撃を喰らっていないとはいえ、攻撃を2度も防いでいる男の防御も異常。
「くくっ、面白れぇ。こりゃ俺の出る幕はねぇな」
そうしている内にミノタウロスのHPがゴリゴリと削れていき、20分かけてようやくその巨体が光となって消えて行った。
「ハハハ、倒しやがった!あの準備不足の状態で」
終わった後も他のモンスターを始末しているが、あの調子だとそんなに時間もかからなさそうだ。
「さて、どうするかねぇ」
このまま何事もなく立ち去るのは簡単だ。
でもそれではあまりに勿体ない。
折角面白いものを見せてもらったのだ。
その礼をしてもいいぐらいに、今は機嫌が良かった。
「名前知られた時の反応が面倒だが、ま、どうにかなるか」




