行き当たりばったり
森の中を歩いていると、先程まで自分たちを追い回していたミノタウロスが見えてくる。
おそらくこの森のモンスターであろう熊をバリバリと捕食していた。
「いたいた。後は打ち合わせ通りにね」
「ああ、俺妨害、ユズキ殲滅だな」
正直作戦ですらない作戦だ。
だが、今の俺たちだとそうならざるを得ない。
バルムンクを呼べない俺がやれることは補助しかない。
ユズキは攻撃面に優れているけど、耐久面に難ありのスキル構成だ。
火力が全くない俺はユズキが死んだら終わるのだ。
ならユズキに攻撃が当たらないように妨害するのが一番だ。
幸いにもカンパネルラと組んだ際に多少とはいえレベルも上がっているのだ。
『バインド』だけでは心もとない状態だった妨害系スキルもバリエーションが増えている。
ま、ユズキの攻撃が通らなかったら意味ないんだけど。
「頼むぞ、ユズキ。お前だけが頼りだ。やっちゃいなさい」
「ハッハッハ!まっかせなさい!いっちょ懲らしめてやんよぉ」
ふざけ合いながら、ミノタウロスに気づかれないように近づいていく。
打ち合わせ通り、最初は俺の妨害からだ。
その間にユズキがスキルを使い攻撃力を上げて、ミノタウロスを攻撃する。
俺は妨害スキルが切れたら他の妨害スキルを使用してとにかくミノタウロスの動きを封じる。
本来格上相手に効きづらい妨害スキルも、不意打ちするとほぼ確定で妨害できるらしい。
後は運次第という不安しか感じられない作戦ではあるのだが。
一応ユズキが所持していた回復アイテムと蘇生アイテムを俺にもわけてもらった。
これで互いが死亡してもある程度カバー出来る。
もっとも、MPを回復するアイテムはないので、こればっかりはどうしようもない。
先程の作戦の運要素は、『ミノタウロスを倒すまでにMPがもつかどうか』この一点につきる。
(ま、ここまで来たらやるしかない訳で)
早速先程取得したスキルを発動する。
「ディープミスト」
最初に発動させたのは周囲に霧を発生させるスキルだ。
相手からこちらの場所を特定されずらくするから、こちらは隙をつきやすくなる。
相手を直接妨害するスキルではないが、被弾する確率を減らせれるので十分有り難い。
このスキルの便利な点として、スキル使用者とそのパーティは霧の影響を受けないのだ。
だからこちらが霧のせいで敵が見えなくなることはない。
「捨て身、チャレンジャー」
ユズキの方も自分にスキルを使っている。
両方とも自分の攻撃性能を高めるスキルだったはずだ。
因みに、ユズキのHPは1になっている。
パッシブスキルの『スリル』を活かすために、アノス道具店で買った状態異常玉を自分に使ったのだ。
毒でHPが0になる事がない事をカンパネルラから聞いていたがゆえに出来た賭けだ。
完全に一撃で沈めようとしてるよ、この人。
「いざない鈴の音」
手に現れたのは一つの風鈴。
スキル欄には『音が聞こえた対象を眠りに誘う』となっている。
試しに一振りする。
リィィィィィン
透き通る音が森の中を響いていく。
ミノタウロスを見ると、それまで捕食していた巨体の動きが急に緩慢になり、遂に体を横たわらせる。
これは思っていたよりも便利そうなスキルだ。
不意打ちで眠らせていければ戦うことなく移動することが出来るし、モンスターから逃げるのも簡単。
それに混戦になった際にも、モンスターにまとめて効果を発揮するだろうから、使い勝手が実にいい。
「よしよし、寝たね。じゃあ、私がスキル使って攻撃してくるから、倒しきれなかったらよろしくね」
「はいよー」
ミノタウロスに近づいていくユズキを見ながらいつでもバインドを使用する準備をしておく。
眠り状態の敵はダメージが2倍らしいが、一撃でもくらうと目を覚ますらしい。
今回は不意打ちで眠らせることが出来たが、次が確実に封じれるかどうかは分からない。
(まあ、ディープミストのおかげである程度はユズキへの被弾を減らせるだろうから、そんなに気負う必要もないか)
遂にミノタウロスの前まで近づいたユヅキが剣を振り上げる。
一体どんなスキルを使うのやら。今考えてみると、ユヅキの攻撃スキルを見るのは今回が初めてか。
まあ、今までの傾向からして恐らく火力ぶっぱなスキルではあるのだろうが。
「ギャンブリングスラッシュ―!!」
見た目変化のない剣がミノタウロスを切り裂いた瞬間、
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ
『え゛』
「ガァァァァァァァァァァ!!!」
一瞬で光と共に消えていくミノタウロス。
・・・・・・え、何今の。
一瞬、とんでもなく酷いものが見えたのだが。
「見た?」
「見た」
『・・・・・・』
お互い沈黙になる。
それほどまでに予想と掛け違っていた結末だったが故に
「えっと、その」
「なぁ、どんなスキルなんだ、ギャンブリングスラッシュって」
うん、まずは確認だ。
いかなる時も冷静に対処だ。
例えある程度予想できてたとしてもだ。
「え、えっとね、『次の対象への攻撃回数がランダムになる』だって」
「・・・・・・」
でしょうね。
明らかに何回も切り付けたような音が聞こえたし。
恐ろしいのはミノタウロスが起きた後も攻撃が続いて、ミノタウロスのHPを削り切ったことだ。
つまり最初の一撃は眠り状態だったおかげでダメージが2倍だったのだろう。
2倍のダメージが出続けて削り切ったというのなら分かる。
だがあくまで2倍は1回だけだ。
あとは通常のダメージで削り切ったということなのだろう。
「というかさ、ランダム回数ってこんなにでるもんなのか?」
「んーどうなんだろ。一応スキルのレベルを上げてはみたけど」
「因みにどんくらい上げた?」
「取りあえず今4まで上げてるよ」
随分思い切ったものだ。
スキルのレベルを上げれるとは知ってたけど、必要のスキルポイントも増えていくから、最初に上げ過ぎると後がきつくなる。
ある程度スキルを取ってスキルの性能を試しながらレベルを上げていくのがセオリーだとカンパネルラにも教えてもらっていたのだ。
だからこそ、全く使用していないスキルをいきなりスキルポイントを殆ど使ってあげるというのは予想外だった。
「よく使いもせずに上げたもんだ」
「ああ、そりゃね。確かにリスクでかいけど、ミノタウロスを倒すんならこのぐらいの賭けはする必要があると思ってね」
「・・・・・・いや、そうだな」
確かにそうだな。
今の自分たちだとレベル不足だったのは明らかだったんだ。
ステータスも圧倒的に差があったはずだ。
スキルも足りていない事は明白だったんだ。
差を今埋めることが出来るとしたら、確かに新たなスキルのレベルを上げての攻撃ぐらいしかないだろう。
(考えが甘かったな)
本気で勝とうとは思っていなかった。
勝てるとも思っていなかったし。
ユズキは勝とうとしていた。
新たなスキルの性能。レベルを上げた際のメリット。今できる最善策。
それをしっかり考えたうえで未知のスキルのレベル4上げだ。
妨害を考えていた俺と、倒すことを考えていたユズキとの差ではあるのだろう。
「お、レベル上がってる。良かった良かった」
「あ、俺もだわ。そんだけ強かったって事か・・・・・・」
「ま、いいじゃん。勝ったんだし。さぁ、釣りに行こ」
「ああ、そうだな。んじゃま、行こうか」
今回の目的はあくまで釣だ。
色々思うところはあったが、まあ釣しながらでも考えて——
「ガァァァァァ!!!!」




