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「それじゃ始めようか」
「ああ、分かった」
「あ、紫月はネーム何でするの?」
「あぁ、名前ね。まんまだとまずいか?」
「うーん、普通は変えるよ」
「それじゃぁ適当にシヅで」
「あ、キを抜いたんだ。じゃあ私はキを貰うね」
「分かった」
「んじゃ、ゲームの中で」
そう言って早速装着する柚。
恐らく凄い景色なのだろう。
「おお!」とか、「凄い!」とか言っているから、傍から見ていると面白い。
「さて、俺もするかな」
早速俺もすることにする。
VR機を装着してスタートボタンを押す。
「っ、これは」
何といえばいいのだろう。
俺は宇宙に立っていた。
辺りを見回すと、周囲に広がるのは一面の星。
すると目の前にアイコンが飛んでくる。
「ええと、テレビじゃない、ネットでもない、ゲームか?」
様々なアイコンがあり、慣れていない俺は『リヴィエラ』を探すだけでも大変だった。
でも心地よく感じる。この空間だからだろうか。
落ちないかといった不安を特に感じることもなく、操作を繰り返す。
懐かしいとすら感じるほどのこの景色。これが見れただけでも十分な思いだった。
「見つけた。リヴィエラ」
ようやく目当てのアイコンを見つけ、タッチする。
すると今までの宇宙だった空間がそのアイコンに引き寄せられるように変わっていく。
辺り一面が真っ白い空間い変わったとき
『リヴィエラの世界へようこそ!』
急に声がして驚く。いつの間にか後ろに女性が立っていた。
所謂メイド服という奴だったか?友人が都会に行ったときにすごく騒いでいたのを思い出す。
『私はチュートリアル担当のメルヴィと申します』
「あ、どうも。俺は浅間紫月と言います」
『……はい、紫月様ですね。よろしくお願いします』
気のせいか?一瞬動きが止まったように見えたんだが。
『さて、紫月様、VRMMORPGを体験されるのは今回が初めてでよろしいでしょうか』
「あ、はい、そうです」
『それではまずこの『リヴィエラ』で生活していくうえで基本となる動きから覚えていきましょう』
そういうと一瞬で辺りが草原に変わる。
驚いたのは草や土の香り、風の音や肌寒さまで完璧に再現されている事だ。
歩く感触、ものを食べた時も味が楽しめるというのは嬉しい特典だ。
それから少しの間、メルヴィさんに基本となる動きを教えてもらう。
ただ歩いた時に感じたが、ほとんど違和感なく思った通りに体が動くようなので、そこまで時間はかからなかった。
『流石です。それでは次に戦闘ですね』
すると目の前に牙の鋭い白い狼が現れる。
「っ!」
『緊張なさらなくても大丈夫です。まだ襲ってきませんから。それでは装備から確認していきましょうか』
級に現れた上に、敵意が妙にリアルだったので緊張してしまった。
メルヴィさんが襲ってこないと言ってくれたので、急いで指示に従って装備を確認していく。
手に現れたのは一本の剣だった。なんとも心もとないが、これで相手しろという事らしい。
『痛覚はほぼないので安心してください。ただ衝撃はあります。冷静に落ち着いてやれば大丈夫です』
そう言うと急に狼が動き出した。
グルルッと喉を鳴らしながらこちらを警戒しつつこちらの出方を窺っている。
さて、どう攻撃するべきか。当たり前だが今まで生きてきて剣を扱った経験なんてない。多少木の棒はあったかもしれないが。
こちらの攻撃が避けられるかもしれない。剣がどの程度の威力かもわからない。下手したら噛みついてくるかもしれない。
頭に浮かんでくるのは悪い考えばかりで、中々動き出せない。
「ええい、考えててもしかたない!」
両手で剣を持ち、一気に近づいて上から叩きつける。切りつけられた狼は体に赤い切り傷をつけて吹っ飛ばされる。
手ごたえはあったのだが、どうも浅かったようだ。また起き上がり、こちらの手に噛みついてくる。
「ちぃ、このっ、離れろっ」
振りほどこうと手を思いっきり振ると狼が噛みつくのをやめて離れていく。急いで狼に近づきもう一度剣を叩きつける。
剣の一撃をくらった狼はもう起き上がらず泡のように消えていった。
『お見事です』
「はぁ、はぁ、……ありがとう」
少ししか時間がたっていないはずなのに妙に疲れたと感じてしまう。かなり緊張していたようだ。
この一戦で感じたのは俺に接近戦は向いてないってことだな。
「魔法は使えないんですか?」
『そうですね、それでは初級の魔法を。ヒーリング』
俺に向けて放たれたのは緑の光だった。心地よい風が体を包んでいく。
見ると噛みつかれた傷などが見る見るうちに消えていく。
教えてもらったステータス画面でもHPが回復していく。
「おお、これが魔法」
『はい、回復魔法ヒーリングです』
「へぇ、他にもあるんですか?」
『えぇ、他にも魔法は多種多様に存在していますし、取得条件も多種多様です。また魔法の他にもスキルなどもあります。ぜひゲームの中で見つけていってください』
「はは、分かりました」
要はゲームを楽しめという事だろうな。
確かに今余計な情報を貰うよりかはゲーム中で見つけ出す方が面白そうだと思う。柚もそうだろう。
『そうでした、紫月様キャラクリエイトはいかがなさいますか?』
「キャラクリエイト?」
『はい、これから紫月様がプレイしていく中での容姿であったり名前であったり、それを設定することが出来ます。』
「余り分からないんですが、やっぱり姿は変えたほうがいいんですか?」
『そうですね。リアルの情報がバレる危険性も回避できますので。顔にペイント入れるだけでも大分違いますよ。あと名前は変えておいた方がいいです。種族を変えることもできますよ』
「じゃぁ名前はシヅで。種族と容姿は特に変えずペイントすることにします」
『分かりました。こちらがペイントの種類になります』
そう言って俺に見せてくるのは様々な模様のペイント。
ハートであったり、傷であったり、入れ墨であったり。
「へぇ、色々あるんですね」
『因みに種族ごとのペイントはこれになります』
「お、これなんか良さそうだ」
そこには人族ならではの滑らかさというんだろうか、そんな文様が浮かんでいた。
因みに横の獣人の文様は荒々しい文様であったり、髭のような文様があった。
逆にエルフだと植物のような文様だ。
「じゃぁこの人族の文様のパターン22にするとして、色は……」
『いえ、あのそれは……』
「黒にするかな」
慣れてない自分が勝手に操作してしまったからだろう。
パネルを操作して黒色があったのでそれをタッチすると、
「ええええええええ!」
俺の体が真っ黒になった。
「この色のパネルって文様の色を変えるんじゃないんですか!?」
『はい、それは体の色を変えるパネルでした』
「はぁ、これじゃあ文様の意味がないな」
『いえ、文様でしたら、元から色が白ですから問題ないですよ』
「あ、そうなんですか。いや、でもこのままは流石に」
自分の体を改めてみる。髪から顔、腕、足、体のすべてが真っ黒になってしまっている。
「流石にこれじゃ誰だか分かりませんし」
『いえ、ネームがあるので誰であるかは分かりますよ』
「あの、メルヴィさんはこのままプレイすることを推奨しているんですか?」
『いえ、その、その状態でしたらリアルの情報もほとんどバレないと思いますので。それに、リヴィエラの世界では色々な人種が様々な衣装を着てプレイしています。そこまで珍しい事もないと思われますが』
「あー、そうなんですか?まぁ、それでしたら……」
メルヴィさんの話をきいて、それだったら大丈夫かなと思ってくる。
まぁ、多少変わっているだけでそこまで目立つわけでもないだろう。
「じゃぁ、まあこれで行きます」
『それではこれからリヴィエラの世界へ転送いたします。最初はクエストをこなしていく中でジョブを身に着けることを優先すればいいでしょう』
「分かりました」
『それでは紫月様、この世界を心行くまで満喫してください』
「はい。メルヴィさん、説明有難うございました」
互いに笑顔で挨拶をする。
『welcome back』
メルヴィさんが何かを呟いた瞬間眩しい光に包まれ、目をつぶる。
そして、次に目を開けると、
「おぉ……」
そこには人で溢れかえった町が広がっていた。
中央には見上げるほどの大樹が見える。
この活気溢れる町こそ、始まりの町である『ユグドラ』であった。