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捜索屋は祈らない  作者: 咲茉シオ
第一章
18/28

18 点と点

「ここからの話は捜索に絶対的に必要、というわけではない」

 

 レティはメモと地図をいくつかのまとまりに分けると、遠慮がちに続けた。

 

「そうなんですか?」

 

 ユールは眉尻を下げ、一瞬困惑の表情を浮かべる。

 

「ああ。捜索もとい、捕獲に必要なことだけで考えるのであれば……弱点を踏まえて対策を練るだけで充分だろう。少し考えがある」

「さすが先生。僕はまださっぱりです」

 

 ユールはホイップをたっぷりとのせたココアを口に運びながらにっこりと笑った。

 この店で1番甘い飲み物である。

 

「君はもうちょっと考えた方が良いかもしれないが……」

 

 呆れ顔のレティと反対に、ガルサは楽しそうに笑う。

 

「おれはユールの真っ正直なところはいいところだと思うぜ。どこかのひねくれと違って」

「悪いな、ひねくれで」

 

 レティはアイスティーを一口飲み、ふぅと一息つくと、手近なメモ用紙に3つの文章を並べ書いた。

 

「それはともかく。一旦、考えを整理したい」

「承知しました」

「気になっている点は3つ。依頼人は何を隠しているのか。なぜアルディアに来たのか。そして——例の石化事件と何か関連があるのか」

 

 1つ目のメモの束を広げると、レティはいくつかの単語の羅列を指さした。依頼内容についてのメモだ。

 

「まず、依頼人について。『友人のペットを預かっている』というのは嘘……というか、正確には事実と異なる内容だろうね」

「なんとなくそんな気はしていましたが……どの点でそうお思いになったかお伺いしてもいいでしょうか」

「本当にサラマンダーだった場合、妖精の類いをペットに……いや使い魔にしている人間が他人に託す、ということは一部を除いてほぼないだろう」

「そうなんですか?」

 

 ユールはガルサの方を見やる。

 

「ああ。さっきの話の通り、発熱や魔力の関係で扱いが非常に難しいんだ」

 

 知識がない状態での捕獲が難しいのは、ユールも実感しているところだった。

 

「確かに。専門家じゃないと難しそうですね」

 

 レティはゆっくりと頷く。

 

「そう。例外は専門家に託す場合だ」

「あ、そうか。今回の依頼人さんの職業って……」

「遺物保管評議会か。あそこは魔法生物も一部管理対象のはずだ。遺物は古い魔法や妖精と関係があることも多いからな」

 

「……ちなみに、どうしても離れなければならない時はどうするんですか?」

「離れなければならない理由の方をどうにかするのが普通だな。妖精の気分を害す可能性だってあるし」

「気分を害すでいえば、苦手なものは飼い主側が避けるように指示してそうなものだしね。それこそ、匂いとか」

「あぁ。サラマンダーを気にかけているのであれば、匂いを避けて別の道を通ることを選択する方が普通だろうな。少なくとも目の前は避けるだろう」

 

 ある程度距離があっても漂ってくる特徴的な香りだ。

 香りに気を配っている人間であればすぐに気づけるものだろう。

 

「それに、ケージの温度もですね」

「移動時にあえて温度を下げて大人しくさせていた可能性もないとは言い切れないが……そういった無理な従わせ方をさせるほどの生物を長距離移動させるのは違和感がある」

「預かっているいないに関わらず、ペットにそんなことをするなんて絶対おかしいですよ」

 

「あ、それは違う」

 

 ふたりとも少し言葉に熱が入り始め語気が強くなってきたころ、ガルサが慌てて二人を制した。

 

「すまん、言い忘れてた。サラマンダーが興奮して高温になっている場合、あえて温度を下げた場所で落ち着けさせることがある。おそらく、そういう意図だろう」

 

「ちゃんと慮ってのことだった……ってことですかね?」

「おそらくな。サラマンダーは割と有名どころではあるから……いや、おれの意見だとあんまり参考にならないかもしれんが」

 

 ガルサは自分の知識が魔法生物に特化しすぎていてあまり一般的ではないことを思い出した。

 

「でも……熱くなってたら温度を下げようと思うのは普通……ですかね?」

「であれば、それほどまで熱くなったのも気にはなるけどね」

「それは確かに」

 

 ユールの頭にまた疑問符が浮かぶ。

 次から次へとまた別の疑問が出てくるものの、断定できる情報はない。

 

「まぁそれは一旦おいておけ。話が進まなくなる」

「それもそうですね。」

「では次に……何故依頼人がわざわざアルディアまでサラマンダーを運んだのか。アルディアでサラマンダーを飼っている人間がいるとは聞いたことはないから、おそらくムズベリーから連れてきたんだろう。」

「飼い主と離れ離れにされて可哀想に。……僕から逃げたのも、単に身の危険を感じたからかもしれないですね。申し訳ないことをしたな」

 

 ユールはそこに思い至って少しシュンとする。

 サラマンダー側から見れば自分は知らない追手だ。逃げるのも当然である。

 

「捕獲が仕事だから仕方がないんじゃねぇか?」

「それは……そうではあるんですが」

「離ればなれになってしまったのをこの街で引き合わせようとしている可能性もあるけれど……ここまでの話の流れだとそうとは思えないね」

「同感です」

「……ここで気になるのが、アイヴス捜査官の言っていた『持ち主がわからない品物』だ」

 

 ユールはもう一口飲もうとマグカップに伸ばした手を止め、レティに向き直る。

 

「もしかしてそれって……」

「盗品や違法に入手したものの取引……だと思う。人が多いとなると、競売のようなものかもしれないね」

「なるほどな。反吐が出る話ではあるが……魔法生物の売買は金になる。価値の高い妖精なんかは、特にな」

 

 ガルサはひどく顔をしかめながら、吐き捨てるように言った。

 ユールも顔をゆがませ、手元のマグカップのスプーンをぐるぐるとかき回す。

 

「そんな人かもしれないなんて、残念です」

「まだ可能性だよ、ユール。……時間がなさそうにして焦ってそうだったのも、取引の期限が迫っていたのかもと思うと、合点が行くけれどね」

「そう……ですよね」

「ほかの地域から来た客も、競売が目的かもな」

「そういえば、キャシーさんのところの猫さんたちも、見慣れない人が多いって言ってましたね。……でも、何故わざわざアルディアで?大都市でもないし、魔法関連の施設もほとんどないのに」

「だから、かもしれないね。人口密度もそう高くなく、警備も厳しすぎない。何より魔法使いや魔法関連の専門家も少ないから摘発されにくいと考えたんだろう」

「近隣の町に比べれば旅人も多い方だし、紛れこみやすいってのもあるかもしれねぇな」

「そう考えると東西の間ですし……立地的にも人を集めやすかったりしたのかも」

 

 ユールはそれぞれの要素をメモに書き起こす。

 文字で並べて見てみると、点と点だったものが立体感を持ってきた気がした。

 

「そして最後に、例の石化事件と何か関係があるのか、という点だが……」

「熱の暴走事件については概ねサラマンダーが要因のようだが、石化事件とは別なんじゃないか?サラマンダー自体に石化の能力はないはずだ」

「やっぱり、たどり着いた場所にたまたま彼女がいただけ……なのでは?」

「かもしれない。そうかもしれないが……何かが引っかかるんだ。偶然にしては出来すぎている気がしてね」

 

 レティはこめかみに指を添え、目を伏せる。

 違和感はぬぐえないが、偶然と言われればそうだとも思える。気にしすぎだろうか。

 

「うーん、結局なんかスッキリとしませんね」

 

 ユールは手元にまとめた内容のメモを並べてはみたものの、いずれも確証はない。

 迷路の出口が見えかけているのに、その手前でぐるぐると回っているような気分だ。

 

「とりあえず……ここまでの話をまとめると、依頼人はサラマンダーを東部から運んできて、違法な取引に出そうとしている可能性が高い。ということでいいんですかね?」

「おそらく、ね。……ほしい答えにはまだ何かが足りない、そんな気はしている」

「そうですねぇ。あ、まさか依頼人さんが石化の魔法を……?」

「いや、彼は”自身は魔法使いではない”と強く否定していた。多くの東部の人間は魔法が使えることに誇りをもっているから、そんな嘘はつかないはずだ。彼も魔法は使えないのではないかと……思う」

 

 レティはふと、どこか寂しそうな顔をして右耳の赤いピアスに触れる。

 ガルサはそんなレティを目にすると、小さく息を吸いこみ、口を開いた。

 

「いずれにしても、違法な取引をするようなやつらだったり、人を石化させるような何かが付近にいることは確かだ。関連があるないにしろ、気を付けろよ」

「ああ」

「……それに、妖精である以上、その個体が何らかの魔法を使えるという可能性も捨てきれないしな」

「なるほど……そうなると迂闊に捕まえるのは危ないでしょうか?もし石化魔法を持っていたとしたら……」

「今までの話からすると考えにくいとは思うが……とりあえずは、なるべく視界に真正面から入らないようにした方がいいだろうな」

「そんなことできますかね?」

 

「さて……そのあたりを踏まえて、捕獲経路について、作戦を立てようじゃないか」

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