6. 隠さないと危険だって?良いことなんだから共有しないと!
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
「どういたしまして!」
三つの頭が垂れる中、『やめてください!頭を上げてください!』などと謙遜せずにその感謝を堂々と受けとれる発喜は大物なのかもしれない。
エリクサーを使用した結果が気になった発喜は翌日SNSで双葉に状況を聞いてみた。すると病院に来て自分の目で確認してみますかというお誘いがあったのでひょいひょい行ってみたら、病室に入った瞬間に両親と双葉からのお礼攻撃を喰らったというのが現状だ。
「私からもお礼を言わせてもらうよ。助けてくれてありがとう」
そう声をかけてきたのはベッドの上の麗人、双葉の姉の一葉。
「どういたしまして!すっごいイケメン!」
「はは、ありがとう。でもずっと寝てたからげっそりしてて格好良くは無いだろう?」
「そんなことないですよ。王子様オーラがプンプン漂ってます!」
「どうしてだろう。恩人に言われたからかな、言われ慣れてるはずなのにとても嬉しいや」
そう言って少し照れたようにはにかむ一葉の姿は絵になるような不思議な魅力があり、女性でありながら女性に大人気だろうなと発喜は直感的に理解した。
「凄い元気そうですけど、もう病気は大丈夫なんですか?」
「おかげさまでエリクサーが凄い効き目でもう健康そのもの。医者がびっくりしてたよ。あの顔を発喜クンにも見せたかったな」
「そんなに」
頬がこけているのはずっと寝たきりだったからだけであり、しっかりと栄養をとって使ってない筋肉を動かすようリハビリをすれば直ぐに退院出来るだろうとのこと。
「ひらきおねえさまぁ!お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございばずー!」
「それはもうさっき受け取った……って双葉ちゃん凄い顔してるよ!?」
「はは、双葉は私のことが大好きだからね。相当感謝してるんだよ」
涙で顔がぐちゃぐちゃで見てられない感じだったので、発喜は奇跡的に持っていたくしゃくしゃのハンカチを取り出して拭いてあげた。
「う゛う゛……ありがどうございばずー……」
「良かった良かった」
まるで妹が出来たみたいだと思いながら双葉の頭を撫でていたら、今度は彼女達の両親がやってきた。
「娘を助けて頂き本当にありがとうございました」
母親は見た目が非常に若々しい美人ママさんで、お礼を言うとスッと引っ込み父親と交代した。どうやら父親を立てるタイプらしい。
「南城さんのおかげです。まさかゲームのアイテムを持ち帰れるだなんてファンタジーなことが起きるなんて奇跡としか言いようがありません」
母親は見た目が非常に若々しい美人ママさんで、父親は背が高く眼鏡をかけていて柔和で知的な印象を受けた。
二人とも一葉のことが心配で相当精神が参っていたのか、顔には喜びの中に深い疲労が浮かんでいた。
「お二人とも寝てますか?双葉ちゃんのお姉さんよりも体調が悪そうですよ?」
「…………」
「…………」
自覚はあったのだろう。
二人は視線を交わすと気まずい顔になった。
せっかく一葉が治ったというのに、入れ替わりで自分達が倒れることになったら意味が無いと分かっているのだ。
「そんなお二人にプレゼントです!」
「え?」
「え?」
発喜はポケットから二つの黄色の液体が入った中瓶を取り出した。
「疲労回復ポーション!」
FMOには疲労度の概念があり、疲労度が一定値を越えるとステータスが激減してしまう。それを回復するために使用するのが疲労回復ポーションだ。初心者でも手に入りやすい価格で店売しているので、ゲームを始めたばかりの発喜でも容易に入手が可能だ。
発喜はお見舞いにとFMOにログインしていくつかのポーションをリアルに持って帰っていたのだった。
「はい、これを飲めば疲れが吹き飛びますよ!」
「…………」
「…………」
絶対に服用してはならないセリフを放ちながら疲労回復ポーションを渡されて困惑する双葉の両親。だがどれだけ怪しかろうと恩人がくれた物を疑って飲まないだなどありえない。
二人は再度目配せすると小さく頷いてから一気にそれを飲み干した。
「これは!」
「凄いわ!」
効果は覿面で、先ほどまでの気だるい感じが一気に消え失せて気力が蘇って来た。死者のような澱んだ表情も一変し、活力が漲っている。
「一葉さんには念のためもう一本エリクサーをって思ったんだけど、今の私じゃまだ入手できないから代わりに普通のポーション持ってきました。これ飲んだ感じ、体力も回復してくれる気がしたから。双葉ちゃんは疲労回復ポーションと普通のポーション両方飲んでね」
「…………ありがとう、いただくよ」
「私の事まで……!ありがとうございばず!発喜お姉さま!」
「ふふ、双葉ちゃんは泣き虫だね。ってお姉さま?」
いつの間にか姉認定されていたことに驚きを隠せないが、悪い気はしなかった。
「私が双葉ちゃんのお姉ちゃんなら、私は一葉さんのことを一葉お姉ちゃんって呼んだ方が良いですか?」
「止めてくれ!恩人にそんな風に言われたら胃痛でポーションがいくつあっても足りない!」
「どういう意味ですかそれ!」
嫌だからなのか、嬉しすぎるからなのか、はたまた他の理由があるのか。
どちらにしろお姉ちゃん呼びが一葉の胃を傷めるのならばと止めることにした。
「南城さん、少し良いですか?」
「はい、なんでしょう?」
疲労回復ポーションを飲み終えて元気になった父親が発喜に話しかけて来た。
「あなたがゲームの中からアイテムを持ち帰れることについてですが、危険なので隠した方が良いと思います」
「え?」
「重病人ですら快癒させるエリクサーは世界中の誰もが欲しがるアイテムです。それを自由に入手可能と世界中が知ったら、恐らくあなたは多くの方から狙われます。あなたの身柄を確保して永遠にアイテムを入手し続けさせたいと思う人も出て来るでしょう」
「…………」
奇跡とも呼べる効果を持つアイテムを独占し、儲けたいと考える人が発喜を誘拐するかもしれない。あるいは回復アイテムや攻撃アイテムを大量に入手し、戦争に利用しようと考える輩も出てくるかもしれない。
「聞くところによるとあなたは配信でアイテムをリアルに持ち帰れることを説明しているらしいですね。しかもゲーム内で有名人である双葉と関係性を持ったことでかなり多くの人達に注目されてしまっている。もしも発言を撤回したら炎上してしまいあなたはゲームを楽しめなくなってしまうかもしれません」
やっぱり嘘だった。
酷い嘘で有名クランを巻き込むなど信じがたい暴挙だ。
承認欲求が強いだけのクズだった。
視聴者達は考え得るあらゆる言葉を使って発喜を叩くことになるだろう。発喜が現実と全く同じ姿のアバターを使っていることを考えると、リアルで発喜を見つけて罵詈雑言を浴びせて攻撃してくる人すら出てくるかもしれない。
「ですがその点はご安心ください」
父親が一葉と双葉に視線を向けると、彼女達は頷いた。
「そこからの話は私が引き継ごう」
ゲーム内の話になるため、ここからは実際にFMOをプレイしている一葉が説明役に変わった。
「今回の話は白明騎士団の団長である私と副団長の双葉の二人で考えた嘘ということにする。最前線の攻略に行き詰っていた白明騎士団は、求心力の低下を懸念していた。そこで団長と副団長は適当に選んだ新人に『言うことを聞かないとまともにゲームをさせないぞ』と脅して無理矢理嘘をつかせ、注目を浴びたところでその新人を回収して、そのような嘘は良くないと指導すると宣言することで人材育成の面でも優れているクランだとアピールするつもりだった。でも思った以上に大騒ぎになってしまったから焦って自白した。というシナリオだ」
つまり発喜が被害者となる設定にすることで、視聴者の攻撃対象を発喜から一葉と双葉へと変更させようとしているのだ。
「これならあなたは叩かれるどころか同情されるだろう。代わりに私達が炎上することにはなるが、命の恩人を助けられるのであれば安い物さ」
「…………」
確かにこれならば発喜の炎上は鎮火し視聴者から受け入れられるだろう。だが果たして一葉と双葉の犠牲の上にゲームを楽しめられるのだろうか。
いや、そんなことよりも遥かに大きな問題がある。
一葉達が発喜のことを考えて提案してくれたことは間違いない。
その気持ちは発喜にも十分に伝わっている。
だがそれでも、発喜はその提案を受け取るわけには行かなかった。
「そんなことしなくて良いんですよ?」
「何故だ?何か手を打たなければ発喜クンは危険な目に遭うかもしれないのだぞ?」
何故だと言われても、そんなの決まっている。
「だってそんなアニメやドラマみたいなこと起きるわけないですから」
多くの人から狙われる?
誘拐されるかもしれない?
そんなのはフィクションの話で、実際に起こるはずが無い。
個人情報を垂れ流しにするような発喜が、己が狙われる危険性など信じる訳が無かったのである。
「いや、それは……!」
「それに」
咄嗟に発喜の甘い考えを否定しようとする一葉だが、発喜はそれに被せるように言葉を紡ぐ。
「私がアイテムを持ち帰ることで一葉さんみたいに沢山の人が助かるんでしょ?だったらちゃんと公開しないと」
能力を隠してひっそりと暮らすことを選択するのではなく、堂々と公開して知ってもらうことで多くの人を助ける。それこそが発喜が選んだ道だった。
「…………」
「…………」
「…………」
一葉と彼女達の両親は発喜の言葉に絶句していた。
彼らは発喜のことを考え、彼女を守るために情報を隠すことが最善だと本気で考えていた。だが発喜は自分の事よりも他人を救うことの方が優先だと考えていた。
自分達は助けて貰ったのに、他の人は助けないのか。
そう言葉で殴られたかのような気分だった。
ただ、双葉だけは発喜の考えを理解していた。
「お姉ちゃん、お父さん、発喜お姉さまが惜しげもなく情報を公開してくれたから、お姉ちゃんは助かったんだよ」
発喜が面倒ごとを恐れて秘匿したがるタイプだったら、双葉は発喜のことを知らないままに過ごし、一葉は命を落としていただろう。発喜が情報をフルオープンしてくれたからこそ、大事な家族が助かった。双葉はそのことにとっくに気が付いていた。
「発喜お姉さま。配信で信じて欲しいって言い続けたのって、やっぱり……」
「信じてくれないから腹立つなって思ってたのもあるけど、信じてくれたら回復アイテムを欲しがっている人にプレゼント出来るのになって思ったからだよ」
「ですよね!」
発喜と言えども、いつまでも信じてくれない相手に信じろと言い続けるなんて面倒なだけであり、普通にゲームを楽しみたい。だがそれでも執拗に信じろと言い続けたのは、信じた先に困っている人を助ける未来が見えたから。
「私が間違ってた。だよね、父さん」
「…………ああ、お恥ずかしい限りだ」
二人はまるで発喜に向けて女神を見るかのような視線を向けているが忘れてはならない。
発喜は自分が狙われて危険に陥るなど全く考えていないから好き放題しているのだと。
本気で危険だと思っていたら発喜は普通にビビって逃げる人物なのだ。
その事実を忘れている更科親子は双葉に続き彼女の信者となってしまった。
実は彼らが知らないもう一つの隠された事実がある。
「(エリクサーで沢山の人を助けたらたっぷり褒められるもんね!楽しみ!)」
発喜は怒られることが大っ嫌いだが、褒められてチヤホヤされることが大好きな人間だったのだ。
楽しくゲームをプレイしながらアイテムを持ち帰るだけでたっぷり褒めてくれそうと思っているだけであり、危険を承知で辛い目に遭っている人々を是が非でも助けたいなどと崇高なことを考えているわけでは決してなかった。
だからというわけではないが、彼女の考えには穴があり、それを一葉が確認する。
「だが発喜クン。あなたが本当にアイテムを持ち帰れると証明してしまったら、アイテムを欲しがる人が殺到してゲームどころでは無くなってしまうと思うのだが、その点はどうするつもりかい?」
「そこなんですよねぇ。どうしたら良いですかね?」
なんと発喜は詳しいことを何も考えて無かった。
行き当たりばったりなのも発喜の特徴である。
だがそれでも何故か上手く行ってしまう豪運の持ち主でもあった。
「ふむ……ならば私達に任せてくれないか?」
「え?」
双葉父の眼鏡がキラリと光った。
それまでの優しそうなお父さんから、やり手のビジネスマンへと変貌したように発喜は感じられた。
だがその感覚は少し間違っていた。
「南城さんに極端な負荷がかからないように、私達が表立って対応します。必要であれば法律を作っても良い」
「法律?」
法律など簡単に作れるものでは無いことくらい発喜にも分かる。それにも関わらず目の前の人物がさも当然かのように法律を作るだなどと言っているのは何故だろうか。
「あれ、もしかして発喜お姉さま、お父さんが誰だか分かってないですか?」
「え、どういうこと?」
「はは、私もまだまだ努力が足りないということだな」
いや、発喜が勉強不足というだけの話だ。
何故ならば双葉父は日本人なら誰もが知っていると言っても過言ではない人物なのだから。
「では改めまして、日本の総理大臣を務めている更科将造と申します。娘を助けていただき誠にありがとうございます」
「びゃあ゛ぁ゛゛ぁ!総理大臣んんんん!?」
双葉父はビジネスマンではなく日本で最も権力のある政治家だったのだ。
歴史上最も若い総理大臣と言うことで話題になり、テレビにネットにと各メディアで取り上げられ、顔を見ない日は無いとすら言われている人物。だが昔から社会の授業が大の苦手で政治に興味が無い発喜は全く覚えていないのであった。
悪人に狙われそうな特殊能力を公開するのは危険すぎるからダメ、ゼッタイ!
でも多くの人を助ける選択は気分的にヨシ!




