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第九話『龍の侍』

 カップ麺を啜る音。ゲーム機のコントローラーのボタンを押す音。そして、カップ麺、ボタン、カップ麺、ボタン。

 たまに、スマホ。

 白龍様が亡くなるのを見届けてからというもの、最低限の授業や課題以外はずっと、最龍侍さいりゅうじ学園の学生寮の自室に引き篭もるようになった。私の周囲には散乱した割り箸とカップ麺のゴミと、まだ遊んでいない積まれたゲームソフト。いつぞや埋もれた志と、空いた空間があるとしたら自分の心だろうか。

 どんなに感動的なゲームをクリアしても虚無感があるのは、なんでだろうか。

 時折、心配したナゾ子と翡翠ひすい少年が差し入れに来るが、申し訳無いので度々断っている。

 こんな私を、白龍様は望んでいたのだろうか。違うと思いながら、次のゲームの入れ物を開封する。

 その時、不思議な事が起こった。

 なんて筈も無く、何も不思議に思わずまずはアップデートを反射的に行う。

 その時、自室の扉が開いて廊下の眩い光が部屋中に入る。開けたのはナゾ子だった。


「邪魔するぜ! 一回廊下出ろ」

「なんで、別に、いいじゃん」

「よくねーよ! 何があったかは知らないけど、とりあえず掃除するから!」

「出ないけど、勝手にして」


 と言ったものの、二の腕掴まれて摘み出される。ガヤガヤ騒ぎながら「ゲーム禁止な!」だの「あとで散歩連れ出すからな!」だの、大声で言っている。そんな元気は無い。

 そういえば、かなり肉付きが良くなった気がした。全体的にたるみが多い。あの時はしっかり運動をしていたのにな。


「ナゾ子さんがいて良かった。掃除が終わって、逆雪ぎゃくせつさんの身だしなみ整ったら、三人で散歩行きましょう!」


 廊下で待っていた、翡翠少年もいる。私に関心無くなったと思っていたが、心配していたのか。

 髪を解くくしを渡される。こんなものをしばらく握っていなかったな。久々に使うと、不慣れな手付きになっておる。あれ、私の口調も変わった?

 ゆっくりとやっていたら一端の物の片付けも終わったらしく、すぐにナゾ子に櫛を奪われ身のお世話される。中々荒々しい。


「痛いよ。ナゾ子」

「これぐらいしないと、癖っ毛がすごいんだよ! 我慢しな」

「やれやれ。あんたさんが茜音あかねの連れてきたという、転校生か」


 眼鏡を光らせた、白衣とスーツを合わせたような服装の大人の男が何かを咥えながら話しかけてきた。


「げげ! げ! 桐生院きりゅういんのせんこうじゃないか!」

「こちとら生活の不摂生を今は咎めるつもりはない。改めればの話、だが。ともかくは先生として指示する。身なりを整えたら学園内を散歩してこい。いいな?」

「は、はい」


 言われるがまま、指示を受け入れる私。

 気づけば、めんどくさがったナゾ子が魔法の力で着替えさえてくれていた。お洒落な帽子に、サングラスと、肩の出る薄めの上着、長めの赤いスカート。あと、ニーハイソックス。

 ナゾ子らしくてちょっと嬉しくなった。ふふ。

 勝手にスマホを取られて操作されて、私は学園建物の門前、広場に踊りてて、続いてナゾ子と翡翠ひすい少年もテレポートする。


「よし! まだ朝だな! まずは公園でも行こう」

「公……園? 私の世界には無い概念だ」

「ん? 口調変わったな? まあ、すぐに思い出すだろ」

「僕は時間あったら書店行きたい! 勉強の書物買わないと!」

「いいぜ! ほられん、行くぞ」


 腕を引かれて、そのまま皆で走り出す。

 何というか、久しぶりな感覚がして楽しい。きっとまた別れの時が来るかもしれないけど、とりあえず今は今を楽しむのも悪く無いのかもしれない。

 しばらく着いていくままに走っては、私達はよもぎ公園へと入る。あんな大雪だったのに、青々と茂る草木や花を見て、生命力の強さを感じた。以前、あの世界にいた時にはそんな事、思いもすらしなかった。

 広い敷地、三人でしばらく歩いていると刃と刃の交わる鋭い音がした。何だろう? と皆で向かうと、白龍様によく似た高身長白髪の男と、恐らく稽古をつけて貰っている、こないだ初めてこの世界に来た時に出会った、穂村ほむらの姿があった。

 すぐに高身長の男は刃を振るう事を止めるように、手の平を見せつけて指示に従う。のち、男は私の方を見る。


「狐が二人と、少年一人か。中々面白い組み合わせである。特に、その身だしなみが整っていない狐。こちらへ」

「へ? わし? あ、はい」

「……亡くなった妻に、よく似ている。君が、逆雪ぎゃくせつ 蓮さんであろうか」

「そうです」


 これからは頑張って整えなければ。

 やや恥ずかしいながらも、身が引き締まる思い。


「あの時は間に合わずに、ずっと悔いに残っている。特に問題が無ければ、お話を聴かせておくれ」


 ううむむむ。やむを得ない。

 大雪が降ったり、あんな事やこんな事があったと締まる胸の中を堪えながら語った。


「なるほど、なるほど。分かりました。ありがとう。よろしければ、運動をして身をこなせるようになったら、わたくしの元に来なさい。穂村くんと共に稽古をつけましょう。どうですか?」

「え、あ、ありが、お願いします! えっと、お名前は」

白雪はくせつ 龍侍りゅうじと申す。スマホとやらで連絡先も交換しておこう」

「良かったな、蓮! 感動するぜ」

「よく分からないけど、僕も感動しました……」


 早速、明日から走り込みでも始めよう。

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