21、冒険者組合、再び
わたし達は国境からびゅーんと迷宮都市に舞い戻ってきた。
どうも、行きは護衛対象に合わせていただけだったようで、大した荷物も無く馬力が凄い竜馬をぐんぐん進ませたわたし達は、いくつかの街を素通りする余裕すらあった。
あれよあれよという間に冒険者組合に到着し、そして当たり前のようにバルバラ組合長の前に通される。
「……今度は何だい。厄介事か?」
やっぱり酒臭いバルバラ組合長は、わたし達の顔を見るなり嫌そうに顔を歪めた。
「何だよー、勇者が会いに来てるんだからもっと喜んでもいいんだぞ?」
「そういうのを喜ぶ歳はとっくに過ぎたさ」
バルバラ組合長は酒瓶から直接ラッパ飲みして、豪快に口に流し込んでいるが、わたしはもう知っているのだ。お酒とはわたしの口には到底合わないものであると。
「アルフォンス、さっさと本題に入れ」
「へーい」
アルフォンスが姿勢を正したのを見て、バルバラ組合長もラッパ飲みをやめた。
「訊きたい事は2つ。この国にいる筈の、ガガラスって職人の居場所と、小人族についてだ」
バルバラ組合長は胡乱げに目を細めた。
「はあん?小人族ぅ?また予想外のところを攻めてきたねえ」
「妖人族については小人族が知ってるんだろ?」
「本当に用があるのは妖人族の方かい?そりゃ確かに小人族に頼るしかないねえ。冒険者組合ですら妖人族の国といわれる、植物の国・フランツェの事は存在している事しか判明してないからね」
何とも前途多難そうな情報だった。情報が集まりそうな冒険者組合ですら、存在しか知らないような国を見つけられるのだろうか。
だって、小人族が簡単に教えてくれるなら、とっくにフランツェの事は知れ渡っている筈なのだ。
「小人族を紹介する事は出来る。そこから信用されるかはアンタ達の頑張り次第だ」
「充分!ありがとな、バルバラ婆さん!」
しかし、アルフォンス……いや、炎の勇者一行は全く気落ちした様子が無い。
わたしからしたら途方も無い旅路に思えても、恐らく数々の困難をくぐり抜けてきただろう彼等からすれば、諦めるような事ではないのかもしれない。
「あとはガガラスっつったか?装備でも更新するつもりかい?」
「いや、竜の鱗を加工出来る職人だって魔女が教えてくれたんだ」
「ああ、魔女か。元気……だったんだろうね、あの婆さんは」
「ぴんぴんしてたよー」
見るからにお婆ちゃんなバルバラ組合長にすら婆さん呼ばわりされる魔女……一体何歳なのだろうか。……いや、詮索はしないでおこう。魔女はあんなに綺麗な女の人なのだし、年齢など些細な事だ。うん。
「ガガラスは迷宮都市に住んでるがね、ありゃ店を構えてるって言ってもいいものか……。あの偏屈ジジイは自分の店に人を呼び込む気は全く無いが、腕だけは天下一品だから知る人ぞ知る名店みたく言われてる」
「気難しい人なのか?」
「まあねえ。基本的に気に入った奴にしかモノは造らないがね、竜の鱗なんていう滅多に弄れない素材がありゃ、目の色変えて飛びついてくるだろうさ。
店の場所は……あー、地図が無いと分からないかね……面倒な。今描いてやるから待ってな」
バルバラ組合長は至極怠そうに酒瓶を置くと、紙にさらさらと地図を描き始めた。
「……何か、随分あっさり話が進んだな」
「ほんとにね」
「いい事じゃな。時間は有限じゃからの」
長命種である岩人族のギャリックさんが言うと、何とも重みのある言葉だった。
「あ、そうだバルバラ。月華草について何か知らない?」
「アンタ達はまた次々と厄介な事ばかり訊くじゃないか……。月華草ね、アタシが組合長になってから一度もお目にかかった事が無いって言やあ希少さが分かるかい?」
「うええ……そんなに珍しいんだ……。確かにあたしも本でしか見た事ないし」
イドラちゃんが思いの外、普通にバルバラ組合長と話していて、おや、と思った。前に会った時は、とても突っかかっていた気がするのだけれど。
こうして今も頼られているのだし、炎の勇者一行の若者達は何だかんだバルバラ組合長を慕っているのかもしれない。
「ほら、地図だ。小人族については、アンタ達がガガラスの所に行って帰って来る頃には顔合わせ出来るだろ」
みんなが貰った地図を覗き込む。わたしにも見えたけれど、とても入り組んだ場所にあった。確かにこれは、場所からしてお客さんを集める気が無さそう。
「ありがと、バルバラ。……へー、こんな所に店なんかあったんだ」
「確かにな、知らない筈だよ」
「私もそこそこ長く迷宮都市に住んでいたつもりだったけれど、ここにお店があったのは知らなかったわ」
地図を見ながらやいのやいのと盛り上がるみんなに、バルバラ組合長はしっしっ、と手で追い払うジェスチャーをしてみせた。
「ほら、さっさと行った!アタシだって暇じゃないんだ」
「ああ、行くか。邪魔したな」
特に逆らわずに、エリアさんを先頭にぞろぞろと部屋を出、イドラちゃんが深呼吸した。
「あー、酒臭かった!バルバラは臭くないのかな?」
「本人は好きで酒浸りなんだから臭くないんだろ」
「あたし、どうしてもあのくっさい部屋は駄目」
イドラちゃんはわたしを抱えていたからだろう、鼻も摘まめずにいて、相当辛かったらしい。
獣人族は鼻がよく効く分、辛さも倍増なのだろう。
「まーな。あの酒好きが無けりゃ、面倒見の良い組合長なんだけどな」
「断言してもいい、バルバラは酒の所為で八割方印象が損してる」
なるほど、イドラちゃんはバルバラ組合長が、というよりは酒のにおいが嫌だったようだ。
確かにわたしも、あの部屋は換気すべきだと思う。
読んでくださりありがとうございます。
次は魔女が紹介してくれた職人、ガガラスさんの所へ行きます。




