第49話 又貸しされてるよコボルトさん……
前回までのあらすじ!
すべてを筋肉で解決する女。
いやもう強いのなんの。
お城に残っていた王国騎士の数が不思議と少ないこともあるんだけど、ガトーさんとルアナさんにかかれば赤子も同然。
「うわっ、き、きたぞ!」
「ガトー! 貴様、王より勇者に任命されていながら魔王に降るとは、見損なったぞ!」
「悪を滅する勇者でありたいからこそだッ!」
ガトーさんの振り下ろした剣が、けたたましい音を立てて王国騎士のヘルムを大きくヘコませる。
数歩左右によろけた騎士は、膝を折ってその場に膝をついた。
「う、うぐ……」
「悪いね」
ガトーさんが容赦なく、手にした剣をもう一度振り下ろす。今度はガツンという音がして、騎士は前のめりに倒れ込て動かなくなった。
ガトーさんが手にした剣に視線を落として、ぼやく。
「はあ、ナマクラだ。もう欠けてしまった」
最初に発見した王国騎士をルアナさんが素手で張り倒し、奪い取った騎士の剣だ。鞘はとても立派。けれど、ヒヒイロカネの刃を見た後じゃ、どう頑張っても見劣りするね。
刀身が綺麗じゃないもん。
「え? ガトーさんったら、騎士の人を殺す気だったの? ……なんか……引く……」
「いや、引くて。……一応言っとくが、ナマクラだからヘルムを撲っただけだ。ヒヒイロカネの刃だったら、もう少しスマートに無力化できているよ。この剣じゃ【火炎斬り】だって使えない。使用できて一度きり、刀身がもたないからだ」
喋っている間に、ルアナさんがもう一人の騎士の頸部をつかんで壁へと叩きつける。ガシャンとけたたましい音がして、騎士がぐったりうなだれた。
「くっちゃべってないでキリキリ歩け。次はどっちだ、ガトー?」
わたしたちはガトーさんの案内で、王様のいる謁見の間を目指している。大賢者の居場所を知っているのは王様だけで、その王様は就寝時以外は謁見の間で他国の使者と国際情勢について語り合っていることがほとんどらしいから。
といっても、王様はもう大賢者の傀儡らしい。いまや政策の大半を、大賢者エトワールが操っているのだとか。
ジャンティーユは変な王国だよ、ほんと。
長い廊下の向こうから、三人の王国騎士たちが迫る。誰も彼も剣を抜いていて、まっすぐにわたしたちへと向けて。
ルアナさんが一歩前に出た。
「ああ、煩わしい。女に力仕事を押しつけるなよ」
ルアナさんは先頭の騎士のヘルムをガシっとつかむと、腕を引いて一気に突き出す。
「そりゃあ!」
「う、うわっ!?」
ぶん投げられた一人が続く二人を巻き込んで、ガラクタのように転がった。
ちなみに彼女はもう大戦斧さえ振り回していない。
もうね、圧倒的なんだよ。ガトーさんが惨めで哀れで情けない感じで三角座りをしてた地下牢を脱出してから、かれこれ一人で二十人くらいはヘチ倒してきているんだもん。
たぶん、ガトーさんの三倍くらいの働きだよ。自称レディ以下の勇者ってどれほどのもんなの。
偉そうに言ってるわたしは誰も倒せてないけどね! ムリだし! 指揮官だし!
「くそ、僕だって剣がもう少しまともなら……っ」
「あ、じゃあわたしの貸そっか?」
「ん?」
「ヒヒイロカネのやつ。じゃじゃ~ん! 実はわたしも持ってまぁ~す! ん、んんぅ。――ヒィ~ヒィ~イロカネのけぇ~ん! 語呂悪っ! ……名刀電光丸とかにしたらいいのに」
わたしは背中にくくっていたシャルマンの剣の柄をつかんだ。けれどもガトーさんは、少し愁いを帯びた表情で静かに首を左右に振る。
「シャルマン殿のか……。……いや、いい。やめておくよ。いまの僕にはそれを握る資格がない。何か一つでも成し遂げてからでなければ、偉大なあの勇者の剣に触れ――」
「もう! さっきからゴチャゴチャうるさいよ。腐れネガティブ男子じゃん」
「腐れ……」
「そんなんだから牢屋で半泣きになって三角座りなんてしてるんだよ。知ってるからね、わたしたちが格子越しに現れたとき、慌てて涙拭いてたでしょ。泣っき虫毛虫っ、挟んで捨てろっ♪」
勇者はカァ~っと赤面した。
「ええ……ひどいな……。……そ、そんなん、こんなとこで言わんでも……」
「いいからほら、使って。死んじゃったら元も子もないし。はいこれ」
わたしは刀身を抜いてから、ガトーさんに問答無用で剣を押しつけた。
鞘は背中にくくっちゃってるからね。パルフェの又貸しになっちゃうけど、パルフェを助けるためなんだからいいよね。
赤い刀身の剣を押しつけられて、ガトーさんは複雑な表情で言った。
「や、い、いまそういう空気じゃなかっただろ。君、僕の話を聞いてたか?」
「知らん知らぁ~ん。わたし、空気なんて見えないもん。剣なんてしょせん道具。で、ガトーさんはまがりなりにも勇者なわけで。資格がなくてもそうなんでしょ? だから王や大賢者をやっつけようとしてるんだもん。ナマクラじゃできないよ」
「それを言うなら、君なんて史上最悪の魔王なわけだが……」
「わたしはただの女子高生だよ! 自称レディのルアナさんや、自称勇者のガトーさんと違って、一度も自分が魔王だなんて言ったことないもん!」
や、言ってから思い出した。
魔王のフリして王国騎士たちをカラクサ村から追い返したわ。でもガトーさんは知らないだろうし、黙っとこ。
「う……。たしかに……」
「おい、カリン。くだらん論争に私まで巻き込むな」
輝く赤の刃を見つめて、ガトーさんがため息をつく。
「わかった。借りるよ。ありがとう」
「よきにはからえ」
「……なんか腹立つな」
今度は反対側の廊下から、五名の王国騎士たちが現れる。わたしたちを発見するなり、怒声を上げながら駆け出した。
ルアナさんが面倒くさそうに再び間に入ろうとしたけれど、ガトーさんがそれを手で制する。
「僕がやる」
ヒヒイロカネの切っ先を五名の騎士たちに向けた瞬間、赤い刃に紅蓮が宿った。轟と炎を噴出する様はまるでブレスを充填する竜の口のようで、騎士たちがたたらを踏む。
次の瞬間、熱波が凄まじい勢いで全方位に広がった。
裾が濡れて重くなっていたスカートがふわりと舞い上がる。髪も、服も。熱風の中でわたしは両手で顔を覆った。
「“下がれ”」
静かに響く低い声。そう告げた瞬間にはもう、王国騎士たちは踵を返して我先にと逃げ出していた。
ガトーさんが刃から炎を消して、どや顔で振り返る――ものだから、わたしは慌てて言った。
「あ、待って。まだまだ。もうちょっとだけ火をつけててくれないかな。スカートの裾を乾かしてほしいの。お願いっ」
「……」
ルアナさんとガトーさんが、まるで示し合わせたかのように天を仰ぎ、額に手を当てた。
なんでなの……。
※残り4話か5話くらいです。




