第42話 困ったもんだよコボルトさん
前回までのあらすじ!
パパパパパパパ
パルフェが子犬コボルトの一匹を抱え上げて豪快に笑った。
「ゲッハハハ! パパじゃねえ。俺の名前はパルフェだ」
「ぱぅふぇー?」
「そうそう。パパなんざ呼ばれた日にゃ、おめえの母ちゃんが鬼の形相になっちまうぞ」
その言葉に、白柴コボルトがクスクス笑う。
「別にいいわよ。パパになってみる?」
「ゲッハッハ。それも悪かねえがな。だがまあ、シロもコボルトならわかんだろ。鼻がいいんだからよ」
コボルトの鼻は、犬のように嗅覚だけに特化したものではない。嗅ぎ分けるのだ。そこに存在する違和感というものを。
パルフェが自身の胸を指でトントンと叩いた。
「同族なら、俺のニオイに混ざってるもんがわかるはずだ」
シロと呼ばれた雌のコボルトが、口元に笑みを浮かべて瞳を細める。
「同族? ふふ、そう? で? あなた本当は何者?」
子犬コボルトを足下に下ろして、パルフェは気障に返した。
「コブつきの女にゃ話せねえなァ」
一瞬、間があった。
間があって、シロは子犬コボルトらを振り返る。
「ちょっとあんたたち、もう遅いから先に寝てなさい。こら、そこでじゃなくて、ちゃんと寝室で寝なさい。噛むわよ」
シロが六匹の子犬コボルトたちをシッシと追いやった。彼らが隣の部屋に移動したのを見計らってから、静かにドアを閉ざす。
「おやすみ」
そうしてパルフェへと向き直り、訝しげに口を開けた。
「――それって、コブに危険が及ぶかもしれないから?」
パルフェの笑みが苦いものへと変化する。
少々迂闊だった。鈍いカリンと違って、このシロは鋭い。コボルトに進化したいまも、動物的な勘が色濃く残っているようだ。
これだから女という生き物は油断ならない。カリンはそこらへんをどこかに落としてきてしまっているようだけれど。
「返事がないのは肯定ね。なら詳しくは聞かない。ただ、忘れないで。あの子たちはあなたを気に入ったみたい。だから、泣かせるようなバカな真似だけはしないでよ」
「……どうにも敵わねえな」
カリン以外の女には、口で勝てる気がしない。これでもわりと達者な方だと自負していたのだが。降参だ。
「シロにはジャンティーユ騎士どもから匿ってもらった恩がある。明日の夜だ。ケジメがついたらここに戻って、あんたにゃすべて話すよ。約束する。それでいいか?」
「戻ってこなかったら?」
うっ、と言葉に詰まった。
これだよ。女ってのは、一つ話せば十まで察しやがる。
大賢者エトワールとの決戦だ。正直なところ、戦った場合に現時点での己が勝てる確率は三分以下だ。
そもそも剣術は別だが、【火炎斬り】のように剣に魔法を宿す戦法は、魔術に長けたエルフである彼女から教わった。魔法の媒体となる金属ヒヒイロカネを教えてくれたのも、エトワールだ。
ああ、せめて己がコボルトではなく、シャルマンであったならば。
パルフェは口を歪めて皮肉な笑みを浮かべた。
「そんときゃ、すっぱり忘れてくれ。あんたは薄汚えコボルトなんざ、最初から拾わなかった」
シロが両手を腰にあてて、不機嫌そうに吐き捨てる。
「……バカじゃないの? やっぱり騎士に追われてるような胡散臭い野良のコボルトなんて匿ってあげるんじゃなかったわ」
「悪ィな。退けねえ理由があんだ」
「どうせ女絡みでしょ」
ううっ、とまた言葉に詰まった。
「……げふぅ……もう勘弁してくれ。息ができねえ……」
「そしたらいまこの瞬間にここで看取ってあげるけど? ま、いいわ。早く晩ご飯食べてくれる? 片付けるの面倒だから」
「あ、洗っとくよ」
「そ」
「あんがとな」
「何のこと? パルフェには貸しが多すぎてもうわかんないわ。生きて返してくれる気もなさそうだし」
「色々ひっくるめてだ」
シロがエプロンを外してため息をつく。
「忠告。ご飯残したら噛むわよ」
「お、おう」
シロが子供らのいる寝室に移動したのを見送って、パルフェはテーブルについた。虫除けの網の中には、冷えたスープとパン、三種の野菜サラダと、焼いた肉がある。
味付けは、まあ、己の方が巧い自信がある。だが、不思議と。不思議と、冷たいスープも冷えた肉も温かい。温かく感じられる食事だ。
「さぁて、最後の晩餐だ」
夜が明ける前には水路に戻り、王城へ侵入する。
今夜は忙しい夜になる。
柴犬の雌は気性が激しく、基本的にツンデレ。




