第28話 平和だねぇコボルトさん
前回までのあらすじ!
貴様らを生きたまま埋めてやろうかッ!!
お芋さんの皮をナイフでしゃりしゃり剥きながら、わたしは考える。
犬としての寿命が終わりに近づいたときにコボルトに進化したのだとしたら、五十年生きるコボルトがいたとしても不思議じゃない。
でもそれを本人に尋ねてみたところで、絶対教えてくんないだろうなーって思う。
まあ、そこらへんのことは個人情報でもないから、どこかで他のコボルトさんと出会ったときにでも聞いてみれば済む話だとして。
ああ、失敗したな。
ボニータで誰かに聞いておけばよかったよ。
と、そこまで考えてすぐに思い直す。
たぶん、だめだ。犬寿命とコボルト寿命は別カウントじゃなく、重なっている。だってそんな簡単に答えの出る問題だったら、ルアナさんがもうパルフェの正体に気づいてるはずだもん。
しゃりしゃり、しゃりしゃり。
剥けた皮がテーブルに積もっていく。
わたしは視線を向ける。裸エプロンで台の上に乗って、弱火にかけたフライパンを眺めているパルフェに。
尻尾ふりふり、カワイイなあ。
ふいにパルフェが肩越しに振り返った。
「カリン、芋の皮むきは終わったか?」
「あ、うん。これで最後だよ」
「刻みも頼むぞ。薄切りだ」
「すぐ終わるよ。はい、トントントンって、どーぞ」
「おう、ありがとよ」
パルフェが、こんがりと狐色になったコカトリスの皮をフライパンから取り出して皿にのせた。
フライパンには皮から絞り出した脂が結構な量で残っている。
わたしはそれを覗き込んで尋ねた。
「何作ってるの?」
「今日は芋のオムレツ、イモレツを作るぞ」
「安直な名前……」
「こうしてコカ皮を弱火で炒めれば脂がいっぱい出てくる。そいつを使って調理すんだ。んで、絞るだけ絞ってカリカリになった皮にゃ、こうして塩を振って――」
ぱくり。かりっ、かりっ。
いい音をさせてパルフェが咀嚼する。
「ゲハハ、うめえうめえ」
もう一つは肉球のお手々でつまんで、今度はわたしの口元に。
反射的にわたしもぱくり。
「あむっ。はふっ、あふっ! はっふ……」
熱い。でもおいしい。お口の中にじゅわぁって香ばしくまろやかな脂が広がるの。
「焼き鳥の鶏皮みたいでおいしい!」
「だろ?」
またゲハハと下品に笑って、パルフェがわたしが剥いて薄切りにしたジャガイモをフライパンに放り込む。
バシャァとコカ油が跳ねてもまるで気にせず、塩と香辛料で味付けしながらチャカチャカ炒めて。最後に、調理台に転がしておいたダチョウの卵くらい大きな卵を一つ手に取った。
持ち上げて、炎晶石のコンロに叩きつける。
「あらよっと」
ガゴンッ!
慣れた手つきで割り入れ――や、割れてない。
パルフェが両手で持って振り上げて、もう一度コンロに叩きつけた。
「ふんっ! ふんっ! これだから新鮮な卵はよォ!」
ガッコンガッコン叩きつけても割れないの。まあ、コボルトの力だもんね。
「ふぬががががっががッ!!」
ガッ、ゴッ、ガギィッ! ガンッ! ギィン!
鈍器かな?
「ギャウッ! ガウッ! ウ~~~~~ッ、ワォン! ブフッ! ギャゴォ!!」
……カワイイ……。若干白目剥いてるけど。
「お、落ち着いて。わたしがやるから」
わたしはそっと背後から卵を取り上げると、両手で炎晶石に振り下ろした。
強めに、えいっ!
バギンと、およそ卵の割れる音とはほど遠い衝撃音が響いて、卵にひびが入る。
「割れた割れたぁ。はい、どーぞ」
「……」
あ、プライド傷つけたかも。
なんか遠い目をしてるし、尻尾が垂れ下がっちゃった。
「……おまえ、チョーシにのるなよ……」
「のってないよ!?」
舌打ちをしながらパルフェは卵を割り入れると、手際よくフライパンに落とした卵を混ぜ始めた。みるみるうちに固まっていく。
最後にはフライ返しを流し台に放り出して、両手のスナップを利かせながら器用にオムレツ状に丸めて――炎晶石からフライパンを下ろした。
「ん」
「はい!」
わたしはすかさず大皿を差し出す。
もう阿吽の呼吸だね。
パルフェがポテっとその上にオムレツを置いた。
スペインオムレツだぁ。スペインはない世界だけど。
「全然焦げてないし、すっごく綺麗! 黄金みたい! 上手だよ、パルフェ! プロの人が作ったみたい!」
「ぷろ?」
「本職! それも行列店の!」
けひっ、とパルフェの喉から謎の音が響いた。
「だっろーっ!!」
直後、機嫌が直った。もう尻尾振ってるし。ちょろい。
「よしっ、カリン。食料庫からケチャップ持てぇぇい!」
「あいさー!」
新しい絨毯を捲って床下収納の扉を開けて、食料庫に入る。魔導灯のコックをひねって灯りを灯す。
ここはいつも涼しくて気持ちがいい。真夏には、パルフェはここで眠ることもあるそうだ。
「ケチャップ~、ケチャップ~……ん?」
食料庫の端。
パルフェにとっては大きすぎる、わたしにとっては普通サイズのナップザックが置かれている。先日まではなかったはず。
「なんだろ……」
そこには何着かの服と、木筒に入った水、謎の白い粉、いくらかの通貨の入った小袋が入っていた。
木箱の影になってて気づかなかったけど、ナップザックの横には、一振りの剣が立てかけられている。
「非常持ち出しグッズかな。ありゃ、わたしの着替えを用意してくれてるよ。パルフェったら、勝手に下着漁ったのかな。まったくもー」
ああ、胸が痛いな……。
パルフェはそう遠くない未来に、この生活が終わることを予感してるんだ。
わたしがジャンティーユの騎士団を呼び込んでしまったせいで、パルフェの生活が壊されようとしてる。
なんだか唐突に実感が湧いてきた。
わたし今、この世界の魔王なんだ……。
そして。
その日は、わたしが思っていた以上に早くやってきた。
時々は犬に戻る。




