第10話 女子高生は涙する
前回までのあらすじ!
犬の分際でなかなか豪華な食事をとってたぞ!
寒い。夜は冷える。
思った以上にお布団が薄い。
一つ結びを解いた頭を少しだけ掻いて、わたしは膝を抱えて身体を丸めた。
「う~……」
たぶんパルフェは分厚い毛皮を着てるから、それほど防寒が必要ないんだと気づくまでに少しかかった。
弱った。暖炉に薪はないし、冬じゃないのに火をつけたら怒られそう。せめてあと一枚、タオルケットくらいでいいからあればと思うけれど。
パルフェは寝室の一人座り用のソファをベッドにして眠っている。犬なのに仰向けになって、薄い布一枚を首までかけて寝ている様がまたカワイイ。
これが漢だ漢だ言ってるんだから、ここは不思議な世界だよ。
わたしは少し迷って、遠慮がちに声を出した。
「……パルフェ? 寝ちゃった?」
「……」
聞こえてはいるらしくって、三角の耳がぴくぴく動いた。
けれど閉ざされた瞼は上がらない。
「ぱーるーふぇ。お布団ってもうない?」
「……」
「ねえ、パルフェってばぁ」
また耳が動いてる。
カワイイ。でも起きない。
指先で頬をつつく。お髭がぴくぴく動いた。
こうして見ると完全に柴犬だ。シバスケそっくりだもん。
「何かあったら起こせって言ったじゃん~……」
「……」
だめだ。番犬的には失格だよ。
わたしはパルフェの肩に手を置いて、軽く揺すってみた。
小さな身体がぐらぐら揺れる。
「ねえ、ねえってば」
「んん……。……う……うるせえ……。……眠らねえと育たねえぞ……」
「もー。自分の方がちっこいくせに」
「んぁ~……?」
やっぱりだめだわ。完全に寝ぼけちゃってるもの。
わたしが思っていた以上に、外壁修理で疲れたのかもしれない。
だってこんなに小さな身体なのに、外壁に使う石を何度も運んで何度も重ねてたんだから。室内を掃除してたわたしなんかより、よっぽど重労働だよ。
その疲れを一切わたしに悟らせないのは、パルフェの男性としてのプライドなのか、それともわたしへの優しさだったのか。
にへら、と自分の頬が緩むのを感じた。
「しょうがないな~。寝させてあげるよ、もう」
わたしはあきらめようと踵を返してから、もう一度振り返った。
さっき触れたパルフェの肩、すっごく温かかったなあ~って。犬ってとっても温かいんだよね。
「しょうがない……うん」
で、一向に起きないパルフェの背中とソファのクッションの間に両手をそっと差し込んで、パルフェが掛け布団にしていた薄い布ごと持ち上げる。
軽い。犬だわ、こりゃ。
「起きない……起きないよね……」
あいかわらず、耳だけはピクピクしてるけれど。なんのためにつけてるの、その耳。
そ~っと、そ~っと。
ベッドまで運んで。静かに寝かせて腕をそっと抜く。
生き物ホッカイロと、薄い布をゲット!
いそいそとパルフェの隣に寝そべって、自分の借りていたお布団と、彼の使っていた薄い布を上から被せれば、防寒対策は完璧。
あったか~い。
それに太陽と土の匂いがする。
パルフェの小さな身体を静かに抱き寄せて、胸の中に抱え込む。パルフェが嫌がるように首を伸ばしたけれど、わたしは放さない。
頬を寄せて。
やがてあきらめたのか、パルフェの動きが止まった。そのまま、すーすーと寝息を立て始める。
小さな頃。本当に小さな頃、シバスケをこうして抱いて眠ったことがある。
シバスケは、おとーさんもおかーさんも滅多に帰ってこなくって、兄弟姉妹もいなかったわたしが寂しくないようにと、田舎の祖父母が買い与えてくれた家族だった。
おかげで寂しさを忘れるくらい、楽しい幼少期を過ごせたと思う。
夏は一緒に川で遊んで、冬は雪で遊んで。
山に深く入って道に迷ってしまったときも、シバスケが真っ先に迎えに来てくれた。
たぶんシバスケにとってわたしは、頼りない妹のようなものだったのかもしれない。ご飯をあげてるのはわたしなのに。
「……」
わたしがいなくなっても祖父母がいるからシバスケのお世話は大丈夫だと思うけれど、そこそこの老犬となった彼はちゃんと元気にしてるだろうか。
まだ異世界に来てから数日なのに、もうずっと昔のことのように思える。
あまり考えないようにしてた。祖父母やシバスケのことを思い出すと泣けてくるから。
わたしはパルフェの頭に鼻を埋めて、滲み出る涙をこらえるように瞼を閉じる。
ぎゅっと抱いて。
その夜はそのまま眠りについた。
で、翌朝――。
騒がしい声に目を覚ますと。
「……っ……っ……おい……っ……リン……何のつもりだ……っ」
「んぇ?」
「やめろっ、俺を股に挟むんじゃあないっ」
いつの間にか、わたしの両足の間に胴体を挟まれていたパルフェが、わちゃわちゃと全身をねじってどうにか抜け出そうとして藻掻いていた。
うわー、ごめんよぅ……。
何か挟まないと眠れないタイプ。




