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第53話 謎の声

 商店街でのショッピングを満喫した俺たち親子(?)三人は、アパートに戻ってくると庭で不思議な踊りを踊っている黒い生き物に遭遇した。

 ふさふさゆれる尻尾。ちらほら見える肉球。ピクピク動く耳。つやつやの黒い毛並み。


「いっぬごや♪いっぬごや♪いっ……あ、お帰り!!」


 クロ……お前やっぱりかわいいな。


「良平君!!この犬小屋を買ってくれたの君だろ!?ありがとう!!」

「ああ……それはいいとして、お前かつおを叩きにするんじゃなかったのか?」

「ああ、それは世田谷区の原付にのってお酒とか配達しているお兄さんに、あれはフィクションだから現実にそんな野球少年はいないよ、って教えてもらったの」


 グッジョブ、さぶちゃん。これで何の罪もない坊主頭の少年が黒い犬にボコボコにされるという悲惨な事件が起こらなくてすみそうだ。


「よお、管理人さん」

「なんだ、天ど……あれ?」


 天童に声をかけられ振り返った俺はその異様なファッションに一瞬硬直した。黒スーツに映える白いドレスシャツ。芸能人ご愛用のサングレスで鋭い視線を隠しながらも首もとの金色こんじきネックレスで存在感を必要以上にア・ピイィル。ん〜典型的なYKUZAファッション、イェ〜……

 昔、何かの本で読んだことがある……この手の職業の方は仕事柄殉職される方が多いのでいつでも葬式に行けるよう、喪服−黒ネクタイ=こんな格好をしているとか……いやいや、決め付けるのは良くない!!もしかして、こいつは何かのパーチーにお呼ばれして、ちょっと歪んだ正装をしちゃっただけかもしれ……


「あ、そうだ管理人さん。俺、今からちょっと殺しに行ってくるから昼飯はいいよ」


 おっと、これはまさかの予想外。天ちゃんったらお葬式に行くどころかお葬式をさせに行くようです。さすがに、それは予想できなかったよ、マイ、フレン……ていうか、お前昼飯俺の家で食う気だったの……?


「よっこらっせっと」


 君が担ぎたもうその4次元ゴルフバッグにはきっとゴルフクラブなんて1本も入ってないんだろう。入ってるのはどうせ、マシンガンとかショットガンとかRPG−7、いわゆる対戦車ロケットランチャーとかなんだろうな……


「…………」

「…………?」


 早速、清掃活動たいりょうぎゃくさつに出かけるのかと思いきや、天童はゴルフバッグを担いで天を仰いだまま、微動だにしなかった。一体どうしたというのだ?と、思って俺も空を見上げた瞬間……


“バッサ、バッサ”


 巨大な翼で力強く羽ばたき、桜吹雪の中をゆっくりと漆黒の天使が舞い降りた。そいつが全身を覆い隠すほどの黒い翼を折りたたむと、やがてそれは透明になっていき、ついには消えてしまった。そして、ようやく翼に隠れてたそいつの姿が見えてきた。

 白いスーツとは対照的な黒いドレスシャツ。数珠のようなネックレスと勾玉のようなピアス。いつもの優しい雰囲気や銀縁メガネがなかったせいか、それが烏丸さんだと気づくには少しかかった。


「……!!」


だが、俺が驚いたのはいつもと違う烏丸さんの様子より、その手に抱かれていた……


「ひっぐ……えっぐ……うぇぇぇん」


 泣きじゃくる美樹ちゃんの姿だった。


「美樹ちゃん!!」


 俺は烏丸さんからひったくるように美樹ちゃんを奪い取ると、よほど恐い思いをしたのか、未だに泣きやまない小さな子供を優しく抱きしめ烏丸さんをにらみつけた。


「烏丸さん!!あんた美樹ちゃんに何したんだよ!!」

「僕は何もしていないよ」

「じゃあ、何で!!」

「…………オッシー君がさらわれた」

「…………え?」


 目の前を鬱陶うっとうしいぐらいに桜の花が舞っていた。あまりに衝撃的な言葉に思考が真っ白に吹っ飛び、俺は呆然と立ち尽くし、狼狽しながらそれを目で追うことしか出来なかった。そんな俺の代わりに天童が烏丸さんの胸倉を締め上げて問い詰めた。


「おい、おっさん。そりゃどういうこった?」

「修司君……聞いての通りだ。オッシー君が……」

「なんであいつがさらわれたんだって聞いてんだよ!!」

「それは…………分からない」

「分からないじゃねえよ!!それを調べるのが……!!」


 烏丸さんに怒鳴り散らす天童の服を先輩の小さな手がつまんでいた。


「なんだよ?今大事な話してんだ。おめえはあっち行って……」

「恐い……」

「あ?」

「恐いよ……天童君」

「…………悪ぃ」


 先輩の事情を知っているのか天童は大きな声を出すのをやめた。天童が黙りこむとその場の空気が重し苦しくなって誰も何も言えなくなった。その沈黙を破ったのは意外にも……


「オッシーは……」


 美樹ちゃんだった。


「オッシーはみんなをたちゅけなきゃって……みんなに……あたちにも内緒で……それで昨日もみんなの所に……でも、でも、今日は行こうとちたら……鬼のお面を被った女の人が……ひっぐ」


 そこまで言うと美樹ちゃんは過呼吸の発作を起こしたように苦しみだした。なぜかは分からないが美樹ちゃんにとって喋ると言う行為はとてつもない苦痛を伴うようだ。それでいつもは筆談を……くそ……


「分かった、美樹ちゃん。もう十分だ。良く頑張ったね。よしよし……」


 そう言って美樹ちゃんの頭を撫でてやることしか出来ない自分の無力さが悔しい……頭の中で誰かが、大丈夫だ、と言ってくれた気がしたが、そんな幻聴は励ましにもならない……


「烏丸さん……みんなってのは」

「ああ、修司君が考えている通りさらわれた子供たちとみて間違いないだろう。押入れ童子は押入れに閉じ込められた子供が寂しがらないように遊び相手になってあげる妖怪だ。似たような境遇の子供たちの所に行ってもおかしくはない」

「けど、なんで俺に教えてくれなかったんだ……」

「それは僕にも分からない」


 天童と烏丸さんの話がなんの事だかさっぱり分からない……何もできない……悔しい……くそ……さっきから聞こえてくる、落ち着け、とか、そんなことでどうする?、とか言っている声が鬱陶しい……


「ねえ、修司君。もしかして……」

「なんだクロ?お前なにか分かったのか?」

「いや、分かったと言うよりあくまでもオイラの推測なんだけど……」

「かまわねえ。言ってみろ」

「ああ。君に頼まれて調べたんだけど、ここ一連の幼児誘拐の犯人は片車輪のお菊って奴の仕業とみて間違いない。こいつは誘拐のプロで親が目を離したすきに子供をさらうっていう妖怪だ。けど、子供にひどい事はしないしそれどころかわが子のようにかわいがる奴で、親が悲しんだり心配したりしたら子供を返すいい所もあるんだ」

「何が言いたいんだ?」

「うん、だからオッシーが心配するような奴じゃないはずだ。考えられるとするなら……他にヤバイ奴が、それこそ君でも敵わないような凶悪な妖怪が……」

「案内しろ。3秒でミンチにしてやる」

「いや……オイラの話聞いてた?ていうか居場所なんて分かってたらとっくに教えてるよ」

「くそ!!」


 いい妖怪と……ヤバイ妖怪?あれ?なんだこの感覚?何かを思い出しそうで思いだせないような、歯の奥にものが詰まったようなくすぐったい感覚は……?何かが分かりそうな気がするんだけど……


〈答えは目の前だ。心を鎮め、時を見よ〉


(え……?これは……まさか……幻聴じゃ……)


〈いいや、私の声は幻聴でも幻覚でもない〉


(誰だ?今の男の声は?烏丸さんとも天童ともクロちゃんとも違う声は……?誰なんだ!!俺の頭にテレパシーみたいに直接語りかけてくるお前は!!)


〈そんな事よりお前はあの童子を助けたいのだろう?〉


(当たり前だ!!)


〈なら急いだ方がいい。手遅れになる前にな〉


(な……!!それはどういう意味だ!?いや………………俺はどうすればいいんだ?)


〈ふむ正体不明の男の正体より、あの子達を救うすべが知りたいか……ふ、思ったより利口だな。なら教えてやろう〉


(もったいぶってないで早くしてくれ!!)


〈何、造作も無いことだ。五つの魂を二つに分かち、八方の心をさらに八つに開け。さすれば森羅万象全てのことわりは導き出さ……〉


(ちょっと待て!!)


〈何だ?〉


(日本語でお願いします)


〈………………簡単に言うとパズルのピースを組み合わせて絵を完成させなさい、という事〉


(何……?それは一体どういう意味なん……ぐ!!)


 その瞬間。


(ぐああああぁぁぁぁ!!)


 俺は頭の中で何かが爆発したような感覚を覚え、気を失いそうになった。だが、同時に眠っていた何かが目覚めた気がした。


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