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第36話 妖狐族のプライド

 美少女妖怪二人のとんでも大喧嘩は玉希ちゃんの敗北宣言により、見事先輩に軍配が上がった。勝ったというかお情けで勝たせてもらったのがそんなに嬉しいのか満面の笑みで俺に抱きついてきた。


「管理人さーん!」

「ちょ、先輩?」

「ミイナが勝ったよ。褒めて!ねえ、褒めて!」

「はいはい……」


 俺は抱きしめ返し先輩の頭を撫でてあげた。


「んふふ♪」


 嬉しそうな顔をする先輩。俺もこの子が喜んでくれるんならちょっと嬉しい。そしてこの状態はかなり嬉しい……反面、かなり恥ずかしい。天童君の「そいつ頭ん中2歳児なのにねぇ……それでいいんだ……ふーん……究極のロリコンだな」っていうしらけた視線が痛々しい!でも、奥ゆかしい玉希ちゃんは嫉妬に狂って怒り狂うことはなく、母親のように暖かい微笑みを浮かべながら俺に口パクでメッセージを送る。


ア・ト・デ・オ・シ・オ・キ・ネ♪


 やったぁ!全然嬉しくないぞ!ていうか冗談じゃないぞ!あの女何するか読めないだけにかなり恐いぞ!いそいで先輩と離れなきゃ!!


「先輩、先輩?ちょっと離れてくれます?」

「えー!なんで?」

「ごめんなさい。俺はこれから玉希ちゃんを新しい部屋に案内しなきゃいけないから。お仕事だから」

「むー……ミイナもお話したいことがあったのになぁ……でも、分かった。じゃあ、また後でね」


 そう言って先輩は俺の部屋に入っていった。やっぱかわいいな……ていうかお話しってなんだろうな……ちょっと気になるな……なんてことをポーっと考えてると玉希ちゃんに思い切りほっぺたをつねられた。


「いだだだ!!ちょ、何すんの!?」

「何ニヤニヤしてるんだよ、このスケベ」

「スケベ!?言っとくけど君が考えてるようないやらしいことはこれっぽちっも考えてないぞ!!」

「どうだか……どうせ、あの露出した肌がいいんだろ?」


 そんなんじゃねえよ。まあ、それもあるけど……ていうか自分だって今は大差ないじゃん!

なんてことを考えてると物凄い目つきで睨まれた。なんだろ?この子は僕の心が読めるのかな?そして着替えりゃいいんだろ?と言わんばかりの顔で指をパチンと鳴らすと彼女の姿がまたも一変した。


 皮の草履と足袋はそのままだが、薄紫色の鮮やかな着物と黄緑色の帯。そしてお団子にしていた髪は下ろされ波打つ黄金の大海原のようにふんわりとしたパーマがかかっている。その能力は朝の身支度に大変役立ちそうな便利なものだが、残念なことに露出度が下がってしまった。ていうか、君は何でそんなに大人っぽいの?本当に俺と同じ歳?そんなのお構いなしに玉希ちゃんはクロちゃんを叱り付ける。


「おい、クロ!!いつまでやってるんだ!もう、お芝居はいいよ!」

「あ、そう。やれやれ世話の焼けるお嬢ちゃんだったな」

「まったくね。まさか、泣き出すなんて思わなかったよ」


 何だって?じゃあ、やっぱりさっきのはわざと先輩に勝たせたのか?て、どう考えてもそりゃそうだよな。だって、先輩何にもしてないもん。でも、何でそんな真似を?


「玉希ちゃん、どうして?」

「決まってるだろ。あんな格好恥ずかしいからさ」

「服装じゃねえよ!!勝負のことだよ!!」

「ああ、それか……僕たち妖狐族はプライドが高いんだ」

「だったらなおさら勝ちにこだわるんじゃ?」

「そうだよ。だから、自分より遥かに格下の者を傷つけてまで手に入れた勝利なんてものは欲しくない。そんなものは僕のプライドと名誉に泥を塗るだけだ」


 早い話が弱いものいじめみたいな格好の悪いことをしたくはないってことか。そんなことはみんな誰でも思ってる。思ってはいるけど、実際そんなことを口に出したり体現したりしてる奴なんてそうはいない。さすが妖狐族のトップになる女……といいたいところだが玉希ちゃんの場合なんか違う気がする。ていうか……


「じゃあ、何のために先輩に会いたいなんて言ったの?」

「言ったはずだよ。挨拶をしたいって」

「……本当にそれだけ?」

「そうだよ」

「俺はてっきり先輩のことを殺しにきたのかと……」

「良平君……」


 うかつな発言だったのかも知れない。玉希ちゃんは見るからに不機嫌な顔をで俺の胸倉をつかみ物凄い剣幕で睨みつけてきた。


「僕が君の浮気相手に嫉妬して殺すような器の小さい女だとでも思ったの?」

「いや、ていうか浮気相手とかじゃないし……俺まだ君と結婚したわけじゃないし……」

「たとえ夫が浮気しようとも、その浮気相手とさえ仲良くなる……」


 ああ、俺の話は無視か……ていうか、お前!!浮気相手と仲良くするって器が大きすぎるだろ!?それは何か違うだろ!?お前本当に俺のこと好きなの?


「そして共謀して夫がそれ以上浮気しないように調教する。それが僕という女だ」


 絶対好きでも何でなーい!!調教って何だよ!?お前夫のことを何だと思ってるの!?ペットじゃないよ!!ていうか、この女が何だよ!!さっぱり分かんねえ!!なんでこんな性格してんだよ!!分かる奴がいたら教えてくれ!!

 何てことを考えていたら、全身血まみれで泥まみれの男が俺の肩を叩いた。



「この子は昔からそうなんだよ。管理人さん」

「あなたは……腐った死体!!」

「腐ってもないし、死体でもないよ!!よく見て!!みんなの妖怪警察、烏丸さんだよ!!」

「いやあ、ごめんごめん。3%ぐらいは俺のせいかもしれないけど今のあなたはマジでリアルに腐った死体だわ。ていうか、自力で出てきたの……?」

「ふ、あの程度のことは6歳の頃から母さんに何度もされてきたからね。問題ないよ」


 いや、あるよ!!お宅の教育方針が絶対大問題だよ!!デザートイーグルぶっ放して、金属バットでぶったたいて、庭に埋めるって、それどんな母親だよ!!いや、まあうちのも似たようなもんだし、それはいいか……それよりも烏丸さんは玉希ちゃんのことを知ってる風だったけど……


「二人は知り合いなんですか?」

「昨日、話さなかったかな?ユリちゃんだよ」

「ユリちゃん?あ……」


 どっかで聞いた事があるような名前に俺は絶句した。そう、確かに俺は昨日烏丸さんから玉希ちゃんのことを聞いていた。しかし、アレはあまりにどうでもいい話だったため、俺はすっかり忘れていた。それがどんな話かは説明したくないが……つまりは、


「CAT&DOGにはいるんだよ。まずは妖狐のユリちゃん。この子はちょっとS入ってるんだけどね……いいんだよ、それが。それに、一人称単数が「僕」っていうのもなんかかわいいしね」


 ということだ。烏丸さんちょっとか?こいつのSはちょっとってレベルか?しかもそれがいいのか?あんた一体どういう神経してんだ?そのまことことわり是非ともお聞かせねがいたくそうろう……ていうか、待て!じゃ何か?玉希ちゃんは若干15歳でキャバクラづとめしてんのか!?いくら妖怪だからってそれはダメだろ!!


「玉希ちゃん、君はキャバクラで働いてんの!?」

「安心して、それは5年も前の話だよ」

「余計にダメだろ!!10歳児働かせるってそれどんなキャバクラ!?」

「大丈夫。仕事の時はちゃんと大人の姿をしてたから」


 ああ……そういえば玉希ちゃんにはクリスさん(仮名)というもう一つの姿があったんだよな。たしかにあの姿ならキャバクラにいても何の問題もないな。いや待てよ……たとえ姿が大人でも中身が子供なら、それは結局子供に水商売をさせていたということじゃないのか?そんなのダメだろ!ていうか、烏丸さん!!なんで知ってて止めないんだよ!!客として通ってんだよ!!それも大人としてダメだろ!!


「烏丸さん、あんたは玉希ちゃんの正体が分かっていて放っておいたの?」

「どういうこと?」

「子供にそんな仕事さていたのかってことだよ!!」

「仕方ないよ。玉希ちゃんには玉希ちゃんの事情があったんだから」


 いや、どんな事情があるのかは分からんが、あんまりよろしくないことだと思うぞ。だが、一応話は聞いておこう。しかし、長くなりそうな気もするので今回はここまで。次回、ゆっくりと聞かせてもらおうじゃないか。


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