第35話 女のバトル・ラウンド3
女達の戦いはかわいらしい口げんかにとどまるわけがなく、射撃戦、格闘戦ときてとうとう妖怪らしく妖術戦へと持ち込まれた。だが、今回の戦いはまだ安心できる。なにせこの妖術戦は術の華麗さを競うものであってバトルではない。けが人や死人が出ることはまず無いだろう。
「それじゃ先行は玉希ちゃんだ。準備はいいね?」
「もちろんだ」
さて、玉希ちゃんはどんな妖術とやらを見せてくれるんだろう。
「ナウマク、サマンダ、ボダナン、キリカ、ソワカ、……」
玉希ちゃんがまた例の呪文を口にすると、彼女の手のひらに小さな火の玉が現れた。いわゆる狐火というやつだろうか?
「ナウマク、サマンダ、ボダナン、キリカ、ソワカ、ナウマク、サマンダ、ボダナン、キリカ、ソワカ、ナウマク、サマンダ、ボダナン、キリカ、ソワカ、ナウマク、サマンダ、ボダナン、キリカ、ソワカ、ナウマク、サマンダ、ボダナン、キリカ、ソワカ、ナウマク、サマンダ、ボダナン、キリカ、ソワカ、……」
呪文を唱えるたびに火の玉はどんどん大きくなり、もはや体育会で使う大玉ころがしの大玉ほどになった。ていうかさ、玉希ちゃん?それもう絶対狐火とかそんなかわいらしいもんじゃないよね?もう明らかに小隕石だよね?メテオストライクだよね?これ止めた方がいいよね!?
「玉希ちゃん!?それどうする気!?そんなもん使っちゃ絶対誰か死ぬよ!!死体が出るよ!!」
「大丈夫、塵も残さず消し去ってやるよ」
何言ってんの、この子!?もう妖術云々よりこいつの思考回路のほうがよっぽどやべえよ!!俺の隣で観戦してる天童君も真っ青だよ!!
「まずいぞ、管理人さん!あんな馬鹿でかい火の玉を打たれたら俺の部屋にあるプラスチック爆弾に引火しちまう!!そうなりゃ、アパートどころかこの町が消し飛ぶぞ!!」
「おめえの発言と所有物の方がよっぽどやべえよ!!なんでそんなもんをそんな大量に持ってんだよ!!」
言ってる場合じゃねえ!!でも俺にはどうすることも出来ない!!だからお前が何とかしろ審判!!
「おーい玉希ちゃん?おいらの話聞いてなかったのかな?ていうかそれ何?おいらでも見たこと無いんだけど?」
「火炎系の最強呪文、メラゾー……」
「それ以上喋ったら失格にするよ!?今さらだけどもう色んな意味で危ないからね!?」
「ちっ!じゃあこれでいいだろ」
そう言って玉希ちゃんはメテオを解除すると、サクラの木に向かって手をかざし、あの呪文をぼそりとつぶやいた。
「ナウマク、サマンダ、ボダナン、キリカ、ソワカ……」
するとへし折れた枝がくっついただけじゃなく、見事に満開の花を咲かせたのだ。何かやっと妖怪らしいことしてくれたって感じだ。これは普通に凄いぞ。ていうか、何でこんなこと出来るんだ?
「なるほど。おいらたち妖狐族は古くから農耕神である稲荷大明神や荼枳尼天に仕えてたからね。植物の成長を早めたりするのは朝飯前」
そうなんだ……へえ、こいつらって何気に凄い妖怪だな。
「うーん……サクラの美しさ、折れた枝までくっつけるってのはなかなか良かったが、狐がこれをやるのは少し面白みに欠けるな。玉希ちゃんの点数は100点満点で60点ってとこだな」
クロちゃんの採点って結構厳しいね。俺的には100点あげてもいいと思うんだけどな……
「さ、次はミイナちゃんの番だよ。準備はいいかい?」
「もちろんよ!」
何か面白くなってきたな。先輩はどんなことしてくれるんだろう?
先輩は自信満々の笑みで天童に手をかざし叫んだ。
「天童君!金属バットを貸して!」
「言っとくけどThe・悪利苦は必殺奥義であって妖術じゃねえぞ」
「じゃあ、デザートイーグル!」
「Me・羅は攻撃魔法であって妖術じゃねえぞ」
「じゃあ、どうしろってのよ!」
その前にどうする気だったんだよ!!あんたもクロちゃんの説明を聞いてなかったの!?危ないことはめですよ!!ていうか、天童!!お前のは必殺奥義でも攻撃魔法でもないから!!単なる撲殺と発砲だから!!
「こんな勝負ずるい!!あたし妖術なんて知らないもん!!勝てるわけ無いじゃん!!」
先輩……だったら何で受けてたったんですか?
でも、これはちょっと可哀想だな。だって先輩は昨日まで「ありがとう」という言葉すら知らなかった子猫ちゃんだもん。いきなり、妖術使えって言ってもそれは無理があるよ。
「うわああぁぁん!!」
負けたのがそんなに悔しいのか先輩はその場にしゃがみこみ大声で泣き始めた。そして何を思ったか玉希ちゃんはそんな彼女を見て肩にそっと手をおいた。
「僕の負けだよ」
「えっ!?」
その言葉はあまりに優しくその顔はまるで女神のように穏やかだった。
でも、さっきまであんなにムキになってなのに、どうしてそんなにあっさり勝ちを譲るんだ?子供のように泣く先輩に同情したからか?それは俺より先輩の方が気になったようだ。
「どうしてそんな事言うの?ミイナが泣いたから?」
「違うよ。君は知らないかもしれないけど、動物から妖怪化した者が人間に化けるというのはとても難しいことなんだ。僕たちのような妖狐族や狸の妖怪である妖狸族といった、化け学のスペシャリストでさえ君のように完璧な人間の姿を出来る者はめったにいない」
「そうなの?ミイナってそんなにすごいの?」
「ああ、すごいよ」
そう言って玉希ちゃんは、滝のように油汗を流すクロちゃんの方を向いた。
「そうだろ?クロちゃん?」
「あ、ああ……そうだね……その子がもし妖狐族に生まれてたら結構いい線いってたかもね」
「………………いや、そんなレベルじゃないと思う。少なくとも君より遥かに上だよ」
「そこまではっきり言わないでよ!!20世紀も年下の子供に一気に追い抜かれるのって結構凹むんだよ!!」
なんかよく分からんが妖狐族の階級で言うと先輩は結構凄いポジションになるらしい。そんな先輩は玉希ちゃんを見上げながら涙に声を震わせた。
「あの……さっきは、ごめんね……ひどいこと言っちゃって……」
「よしよし、気にしなくてもいいよ」
先輩を優しく抱きしめ頭を撫でてあげる玉希ちゃんの姿は、まるで天使を優しく抱きかかえる聖母のように美しく神々しいものだった。妖狐族の男たちが彼女にアタックできない訳が少し分かった気がする。
「これからは仲良くしようね」
「うん!ミイナは玉希ちゃんのこと大好き!仲良くするよ!」
玉希ちゃんはもう美しいとか、かわいらしいとか、そういうんじゃなく、老若男女全てのものに愛される本当に神様のようだ。これじゃ気がひけるのも仕方ない。でも、何でだろうな?俺にはこの子をそんな神様のようには思えない。何か普通の優しい女の子……いや、ちょっと大人な感じの女の子と言う気がする。天童はどう思うだろう?
「なあ、天童。お前は玉希ちゃんのことどう思う?」
「かわいいとは思うけど妖怪には興味ない」
「あー……いや、そうじゃなくてだな。どんな妖怪だと思う?ていう意味で聞いたんだよ。悪い奴なのかとかいい奴なのか、そういうの?」
「ああ、そういう意味か。だったら真面目な話、あいつと俺は似たもの同士だな。切れすぎる刃だが収める鞘がある」
「……もっと分かりやすく言ってくれない?」
すると天童はガックリとうなだれるクロちゃんを指差して少し笑った。
「俺もあいつもとんでもなくやばい力を持っている。自分でもコントロールできるかどうか分からないほど大きな力を。だけど、俺には管理人さんいう共犯者がいるように、あいつにもクロとか言う頼りになる眷属がいる、ってことさ」
俺やクロちゃんがお前らのストッパーだとでも言いたいのかな?俺もクロちゃんもそんなにたいした奴には見えないんだがな……あと、天童君。俺のことを共犯者って言うのはやめてね。嫌過ぎるからね。
何はともあれ二人の凄まじすぎる戦いは玉希ちゃんのポツダム宣言によりあっさりと幕引きとなった。まあ、俺としては死人が出なくて何よりだったんだけど……玉希ちゃん、君はそれでいいの?




