エピローグ
目を開けると真っ白だった。部屋の壁紙が白いのだ。机もお風呂も、きれいに真っ白。ついでに僕の頭の中も。
受験前で落ち着かない。
きれいな真っ白い部屋で落ち着かない。
慣れない大都市新宿で落ち着かない。
そんな落ち着かない界の三冠王の僕が、どういうわけか寝てしまった。勉強しているときに、参考書の上で。落ち着かないのかリラックスしているのかわからない。それにしても、参考書は最高の枕だ。
……勉強しなければ。
僕は英単語張を開いた。英単語の一つ一つが頭に入っているかどうか確認をする。単語が読めないんじゃ英語はできない。もちろん文法とかも大事だけど、単語がわからないと英文が読めない。それでは話にならない。
「うっ」
思わず唸ってしまった。この単語帳には一ページ当たり五個ほどの単語が載っているのだけど、五個中一つしか覚えていないページがあったのだ。僕という建物の柱に亀裂が走ったような気がした。みしっと。倒壊するのだけは勘弁だ。
ああ、不安だ。
九十九回目。
あと一回言ってしまったら寝よう。さっき寝てたけど。いや、さっきのは休憩だ。
僕は英単語張を閉じた。英単語ではなく古文単語にしよう。そう思い、鞄の中から古文の単語帳を出そうする時、鞄のショルダーベルトの根元の金具部分にくくりつけてあるお守りを見た。
「あの娘、なんて名前なんだろう」
僕が新宿のウィークリーマンションに上京する前日、学校から家に帰る時、丁度家に着いたと思ったその時に、女の子に声をかけられた。
僕と同じ高校の制服を着ていた。でも、僕は知らない娘だった。不思議と、前にもこういうことがあったような気がした。
その娘はかなり緊張していたようで、声が震えていた。しばらく逡巡したあと、意を決した様子で何かを差し出してきた。
「あの……これ!」
お守りだった。
「え? 僕にくれるの? あ、ありがとう」
僕がお守りを受け取ると、女の子はにっこりと微笑んだ。
なんでだろう。
この顔が見たかったんだ、と僕は思った。まるで以前からこの娘のことを知っているかのように。
すると、女の子はいきなり走り去ってしまった。走って僕から相当離れたところから、
「受験、頑張ってください!」
と大きな声をあげて手を振っていた。
その時貰ったのがこのお守りだ。合格祈願の、赤い布に包まれた小さくて可愛いお守りだ。
僕がいて、このお守りがあれば。
……?
意味がわからない。どうしてそんなよく知りも竹刀女の子からもらったお守りを信じるのか。
でも、なんとなく安心する。焦ってもしょうがないもんな。よし。
「不安だ」を百回言っていないけれど、僕はベッドに潜り込んだ。
枕元にお守りを置いて。
最後までお読みいただきありがとうございます。
作者のカカオと申します。
この小説は今(2012年4月)から五年ほど前に書いた小説です。読み返して多少手は入れましたが、ほとんど当時のままです。
今と比べると作風が大分変わったなぁというのが正直な感想です。良い意味かどうかは不明だけれど(オイ
これを書いた後もいくつも小説を書き、色々な本を読んで影響を受けたり方針を変えたりして現在に至ります。
そういった中で、一つの作品としてこの物語が残っているのは、自分を振り返る意味でもよかったなーと思います。
やはり作品は最後まで書いて完結させることが大事。本日はこれを強く感じた一日でした。
また次の作品でお会いしましょう!
ありがとうございました!




