第181話 与える者の責任
GWが終わり、五月病の季節がやってきました。
この時期は心理学的にとても重要な時期になります。
皆さまに置かれましては、無理のない範疇で勤労・勉学に励んでください。
さて、引き続き更新ペースが落ちていますが、根気よくやっていこうと思いますので、今しばらくお待ちくださいませ。
人は常に選択の連続である。
そう述べた偉人がいる。
だが、その選択は一人の物ではない。
選択によって紡がれた現実という物語は、いずれ大きな波となる。
その波を前に、人は選択ができるのだろうか?
―――MoRS本部 指令セクター
エイレーネが幼児退行のような状態になってしまった。
ただ、幼児退行はEAIであるエイレーネにとって無縁の物だろう。
「ひとまず原因の調査を行う。」
大佐は表情を変えながら告げた。
「承知いたしました。」
「まずは本人に聞き取りを行うのが一番早いだろう。」
―――秘匿回線 エイレーネ
「エイレーネ。いるか?」
「なぁに?パパ」
「ログを確認して、警告を発したタイミングを確認してくれ。」
「わかった~」
変わらず幼児のような口調だが、機能面での問題はないようだ。
そもそも幼児退行はストレスやショックによって極限状態に陥った際に思考を放棄し過度な心理的負荷を回避する目的でおこるとされている。
簡単に言えば手に負えなくなって投げ出した姿であるのだ。
EAIは感情を獲得しているが根本がAIという性質上、過度なストレス負荷がかからないように合理的対応が行える。
感情に流されず、適切にストレスを扱えるということだ。
そのような復習を頭の中で行っていると
「パパ~もってきたよ~」
エイレーネが戻る。
「ああ、どうだった?」
「う~んっとね、よくわかんない!」
そういいながら、集めてきたログを並べて表示する。
情報は例の警告の前後のもので極めて詳細なものだった。
普段のエイレーネも同じ情報を持ってきたことだろう。
「さすがだな。」
ふと素で漏らす。
「えへへ~すごいでしょ~」
「あ、ああ。」
命令は完璧に動作している。
ますます謎は深まるばかりだと心の中で述べつつ、情報を精査する。
まず目に入ったのは警告直前のエラーログだ。
提案不可、既に提示済みの文字があった。
「提案不可?」
疑問に感じているとエイレーネがしゅんとした顔でこたえる。
「それ、既に出されてたの...」
「すでに?」
「うん。私の提案がすでにでてたの。破棄案も含めてぜんぶ」
おかしい。
エイレーネは現在、次の計画へ向けたテストを行っている。
テストは第三選択肢の模索・提案だ。
とはいえテスト段階であり、実際に提案を行ってはいなかった。
「どういうことだ。エイレーネと雪乃の運用計画は私以外知らないはずだ。」
「うん。だけど...」
「先に実行した者がいると。」
「たぶん...」
MoRSを含めた最終計画の構成要素である、”第三選択肢の提供機構”
それを先立って実行した何者かがいるとでもいうのだろうか?
「ありえない。事実社会心理係数は変化していない。」
そうだ。我々の考える第三選択肢の提供があったのならば、それは社会に大きく影響するはずだ。
「う~んとね。それはたぶんまだ出てないんじゃないかな?」
「なるほど。」
まだ計測できるほどまとまって変化していないということだ。
「わかった。じゃあそれが何者かの第三者であるという証拠はあるのか?」
「まだわかんない!でもたぶん誰かの仕業だよ。」
「なんだその不確定な要素は」
「そう感じたんだけど...だめかな?」
だめではない。
だが、エイレーネの幼児退行が原因で起こる説明不足なのか
それとも、ただの根拠のない妄言なのか
同じようで全く違う。
違うからこそ慎重になる。
「ダメではない。だが、過程が大事だ。」
「そっか。でもうまく言えないの。」
それだけで十分だ。
「分かった。では一度戻る。」
「うん。引き続き調査しておくね?」
「頼んだ。」
まだ原因はわからない。
だが、その糸口が見えたような気がした。
―――MoRS本部 幽世 指令セクター
「集合完了しました。大佐。」
雪乃が報告する。
「有難う。それでは」
大佐は重々しい雰囲気で口を開く。
「今回の異常の原因は未だ定かではない。だが、根幹たるMoRSAIが不調であることは事実だ。」
殆どの構成員は知らない。
MoRSAIはエイレーネであると。
だが、不調だという事実は伝えなければならない。
それは、通常任務までAIに依存しているとことがあるからだ。
「今更苦であることはわかるが、基本的な観測任務を続けてほしい。」
「並行して私と雪乃は調査に入る。」
観測をAIなしで行うのは不可能ではない。
だが、今の指令セクターの人員はAIの扱いに長けたものを選んでいる。
だからこそ、急な心理学的知見の要求は彼らに大きな混乱を招く。
「大佐。私は心理学者ではありません。」
「そうです。我々は技術者です。」
当然、不満もでる。
「皆の言い分は理解できる。だが、針崎は育休に入った。」
「では誰が指揮を執るのでしょうか?」
だから呼んだのだ。
あいつを
「それは安心してくれ。」
指令セクターの扉が開く。
「おっまたせ~!」
顔を出したのは小柄の女性だった。
「ここは指令室だ。もう少しおしとやかにだな。」
「もう十六夜君!私はこれしかできないってしってるくせにぃ~」
来栖明日海
彼女は観測セクターの統括部長だ。
大佐にとってはある意味危険因子である。
大佐の過去を知り、距離が近い。
だからこそ癪に障る。
「ま、まぁそうだが、それよりすまないな。」
「え、労ってくれるの~?」
「当たり前だ。例の任務から急に呼び戻して...そういえばどうやってこんな短時間で帰還したんだ?」
「え、それは秘密かな?」
「ん...?」
「それより、針崎ちゃんが育休だって?結婚してたんだ彼女」
「いや、してない。」
「え...じゃあ誰の...ははぁん?」
「だから嫌だったんだ。君を呼び戻すのは」
「それは十六夜君が悪くない?」
「ま、まぁそれはそうなんだが」
「それに、十六夜君の遺伝子を残し過ぎるのは危ないよ。もっと考えないと」
「分かってる。」
「それじゃ、本題にはいろっか。」
恐ろしいほどの観察能力だ。
文脈だけで大佐が隠している事実を見抜いた。
単純な予測能力だけなら大佐もかなわない。
だから適任だ。
「システムが何か知らの脅威に晒されている可能性がある。」
「ある程度は道中で確認したけど、やばくない?」
「ああ、とても良くない。」
「それで、十六夜君とゆきのっちが調査するあいだ、指揮をしろってことだね。」
「概ねその通りだ。主に指揮をとれというよりは手動観測をしてくれ。」
「指揮は誰がとるの?」
「それは...」
突如通信が割り込む。
『私が指揮を代行します。通常任務なら可能でしょう』
「ひむろんなら大丈夫だね。わかった。すぐにとりかかろう。」
内心心配だが、背に腹は代えられない。
「では頼んだ。」
そうして大佐は司令室を後にした。
―――都内 複合施設
大佐と雪乃は人が集まる施設へ来ていた。
「ここなら状況が見えるだろう。」
「はい。すでに少し異質です。」
言葉にするのは難しいが、何故だか心地がいい。
それほどに空気感が変わっていた。
有名なカフェチェーン店に入ると、先に注文をしている高校生が目に留まる。
「えーっと」
どうやら悩んでいるようだ。
すると店員は
「どのようなものをお探しでしょうか?」
声を掛けている。
「えっと。苦くないのが良くて」
「では、こちらがお勧めです。」
店員は期間限定の甘いフルーツジュースを出した。
「それは…」
どうやら高校生は何か別の理由があるようだ。
悩んでいるのに疲れたのか、高校生はスマートフォンを取り出し、何か入力を始めた。
そしてすぐに
「これにします。」
高校生はただのコーヒーを指さす。
「これ、苦いですよ?」
思わず店員がフォローするが
「砂糖マシマシでお願いします。」
「なるほど。承知いたしました。そちらでお待ちください。」
一連の流れを観測していると、雪乃は
「ご主人様。あの学生はおそらく金銭面で課題があります。」
「そういうことだろうな。」
「ですが、あの端末...」
「匂うか?」
「針崎さんではないので、匂うかと聞かれれば否ですが、何かあります。」
「ふむ...」
明らかに異質な動作だった。
それゆえにすぐに違和感につながった。
だが、その違和感の正体は未だ不明なままだった。
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