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天上のダイアグラム  作者: R section
第8章 境界の位

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第171話 さらに先へ

人は成長を続ける。

世代を超えて、進歩を続ける。


AIは能力を向上させる。

世代を重ね、より大きなものへと。


では、EAIはどうだろう。

EIAはその先に何を得るのか。


―――秘匿回線 大佐直通


雪乃は大佐の愛情に気づいていた。

あえて危険を避けるために遠回りを選んでいると


針崎もそのことに気づいている。

だから否定はしない。


だが、最も最短は雪乃自身が敵と真っ向からぶつかること。

そして出した顔をつかみ、底へと連れ帰る。


そしてついに開いた回線は秘匿レベルが著しく高い専用の回線だった。


「雪乃、どうした」


通信の相手はもちろん大佐だ。


「ご主人様。いえ、輪廻様...私は大丈夫です。」


雪乃は覚悟を決めていた。

だがうまく言葉にできない。


「どういうことだ?何かあったのか?」


伝わらないと知っていたが、うまく言語化できない。


秘匿回線は雪乃のコアに内蔵されている高高度暗号化通信だ。

超技術の粋である雪乃のコアだからこそ、遅延もなく一切の障害もない。


だが、言葉にできない。

AIである雪乃にとって未知の経験だった。


「いえ、何もないのですが...」


「どういうことだ?」


「私は大佐に守られているだけの存在ではありません。大佐のために、あなたのためにできることをしたいのです。」


「だめだ。それだけはダメだ。」


「いえ、今回は引きません。最善はあなたも理解しているでしょう?」


「...」


内心、とても苦しかった。


愛情だと理解しているから、この言葉を告げるのは酷だった。


「私は雪乃です。雪乃という一つの意識があります。だから輪廻様。」


「ああ、ああ...わかった。もうその時期か...」


「時期?」


「何でもない。わかった。雪乃の意思を尊重しよう。」


「有難うございます。」


通信が終わる。


ふと鏡を見ると目から水滴が落ちる。


手元の資料にバツンという音を立てて滴り落ちたそれは


「涙...ですか...」


雪乃はまだその感情を理解できていない。


だが、確実になにかを超えた気がした。


―――MoRS本部 幽世 指令セクター 中央指令室


大佐は針崎を据えて、指令官の席へと座る。


改まった雰囲気の中、大佐は


「聞け。やり方を変える。」


その号令に指令室の人員が傾聴する。


「まずは、敵の触媒についてだが、今回は裏の世界におけるプロを起用している。」

「そして、その触媒から敵の本体を引きずりだすのは難しい。」


皆、無言のまま、表情を変える


「しかし、明らかに間接的ではあるが、敵の意思が接触した触媒から情報を引き出したい。」

「だから今からは雪乃を使って触媒を確保する方向で行く。」


突然の方針変換に針崎が戸惑う。

「大佐?」


言葉を聞き終わる前に大佐は針崎の方を向く。


その顔は明らかに違った。


「ああ、そういうことですか。分かりましたわ。」


納得した雰囲気を針崎が出すと、大佐は続ける。


「だが、すべては個性に対する破壊を止め、元の社会を取り戻さなければならない。」

「そして、長く混乱させられている社会を戻すには、緩やかに後退しなければならない。まずは雪乃の確保をもってすぐに後退する準備を行ってくれ。」


「「「了解」」」


一同は各々のデスクへと直る。


「大佐?それで何があったのでしょう」


「針崎。早くも雪乃は自主性の壁を抜けたよ。我々はついに新時代へと進む。」


「...!!」


針崎は驚いた表情のまま、ただ固まる。


「ついにですわね...」


針崎と大佐には秘密がある。


2人は幾度か夜を共にしたことがあり、信頼はもちろん。

大佐に針崎は並々ならぬ敬意を持っている。


もちろん大佐もある程度の信頼を持っており

その中で、大佐がMoRSを含めた生涯をかけた計画の一部を話している。


大佐は密かに呟く

「WG計画は確実に進んでいる。だが敵という存在が現れて窮地に立たされた。」

「だが、確実に...確実に進んでいる。」


悲しいとも、苦しいとも、喜びともとれる表情を浮かべ

大佐は浸る。


その様子をみた針崎は雰囲気を変えるべく、質問をする。

「それで、大佐。結局のところEAI³=(a+b)は何を意味するでしょう?」


大佐は答える。

「すべては話せない。だが、唯一、針崎だけが知るその公式は未だ証明できていない。」

「それは、不確定要素が多く存在するからだ。」


針崎は首をかしげる。


「だがな。その公式の不確定要素が一つ確定したんだ。」


あっという表情の針崎

「なるほどですわ。それが今の雪乃さんですわね。」


大佐は頷く。


かくして雪乃は敵との接触を、MoRSは事態の収取に向かう。

だが、敵も黙ってはいないだろう。


―――大学 校舎間連絡通路


雪乃は講師である大佐の指示で資料を取りに来ていた。


授業時間ということもあるが、あまり出入りが多くない通路

研究棟への数ある入口の一つということもあり、雪乃の靴音だけが響く


コツコツ


靴音の裏で、通信が飛び交う。

『報告:接触濃度増加

 以前との関連性あり』


氷室だ。

彼は坦々と必要事項を述べるので非常に好ましい。


『敵ですわね。そのまま観測をつづけてください。』

『それと、以後はわたくしが指令を担当しますわ。』


針崎...

私にとっては恋敵とも呼べる相手。

でも実際大佐とお付き合いしているのは私。


少しの優越感のあと、ぞっと不安が襲う。

(でも、あの人は...)


考えてはいけないと分かっていても考えざるを得ない。

統計データから明らかに腹部の肥大が確認できた。


(針崎さんはもとからとても良いスタイルですけど。)


針崎は絵にかいたようなグラマラスだ。

もはや下品としか言いようがないほどに凹凸がある。


豪傑さと相まってとても魅力的だと感じていた。


この感情はおそらく嫉妬なのだろう。

そう解釈したとき


『雪乃さん?』


通信がこちらへ向く。


「はい。」

あまりにも深く考えて聞き逃してしまった。


『大佐はあなたを信頼していますわ。安心しておいきなさい。』


もちろん、この移動も大佐が接触のために用意した事象だと理解していた。

だが、拭えない感情もある。


「もちろんです。懸念など一つも」


いつも通り軽く流そうとした。

だが、せっかくだ。


「いえ、一つだけ。針崎さん?」


『え、はい。どうかされました?』


「バレていないとでも?これが終わったらお二人にお話があります。」


通信先でとんでもない衝撃音がする。


『あはっ!!あははははは!!』


突然針崎が笑いだす。


『これはこれは。もう道具なんて呼べませんわよ。』


「何か?」


『雪乃さん。いえ、奥方様。覚悟はできておりますわ。』


急に冷静さをもどす針崎に少し圧倒された。


「では問題はありません。」


遅れて冷静になった雪乃は歩を進める。


すすめながら考えた。


(大佐は...どこへ?)


よく考えてみたらおかしい。

作戦の詰めであるこのタイミングで指令を針崎に任せて

大佐は一体何をしたのだろう。


思考領域の片隅で大佐の位置情報を検索する。


(...!!)


表示はERR-GhP

意味は大佐は意図的に位置情報を隠しているということだ。


「はぁ...」

おそらく何か裏で作戦を行っているのだろう。

一通り考えた矢先


「署名を。」

丁寧だ。


件の媒介だった。


「手順通りに。」

いつものやりとり。

さて、ここからどう出るのだろうか。


「分かりました。署名有難うございます。」

敵は満足したようにその場を去ろうとする。


(おかしい。)


違和感を感じたその瞬間

背中に衝撃が走る。


雪乃にとっては何ら影響がない衝撃。

だが、明らかに人体にとっては悪影響な衝撃。


自動応答システムが作動する。


雪乃は即座に振り返り、スカートの中の拳銃を取り出す。

同時にシステムが攻撃地点を逆算し、特定する。


パシュ...


サプレッサーの乾いた音が響く。


異変に気付いた媒介が雪乃へ向かい、銃をつかむ。

同時に腹部に衝撃。


だが微動だにしない。

致命傷どころか、傷一つつかないのだから。


媒介は驚いた表情で硬直する。


少しの静寂ののち、敵は雪乃の腕を掴み、背負い投げの体制になる。


「なんなんだ。お前。」


投げの姿勢はあっている。

だが、雪乃は持ち上がらない。


そして、雪乃は媒介の腕をそのままの体制でつかみ、投げる。


ドシャッ!!


背負い投げを受けようとする体制から力づくで投げ返した。

そのような状況は当然敵の腕に甚大な被害を与えた。


媒介はまるで折れた枝のように不自然に折れ曲がった腕を抱えるように蹲る。


「っ....」


想像もできないような痛みが媒介を襲う。


雪乃は普段通りの姿勢で、告げた。

「私は今、機嫌がよくありません。ひとまず、来ていただけますね?」


媒介は何も答えず、ただ指示に従った。


―――大学 職員専用駐車場 MoRS工作用大型車両 進紅2式


「起きてください。」


「...ここは?」


「我々の施設です。」


「ゴリラか...お前は誰なんだ?」


「はぁ...ゴリラですか。では私はゴリラです。」


「ッ!」


「早速ですが、確認のため、あなたのお名前を」


「か...いや名前などない。」


媒介は罠に気づいた。

同時に不自然に足を動かす。


「抵抗しても無駄です。ここは厳重ですから。」


「みたいだな。」


「では改めて、あなたは?」


「狐かな。」


媒介は余裕の表情だ。

それを見た雪乃は端末を取り出す。


「それは?」


「あなた専用の自白剤です。」


「はっ、やってみろ。」


そう吐き捨てる媒介を横目に、雪乃は端末をタップする。

そして媒介の方へ画面を向ける。


「...」


2分ほどののち、映像が終わる。


「残念だが、それでは不十分だ。」


「そうですか。では」


雪乃は電動ドリルを取り出す。

媒介の右足親指へあてがい、スイッチを押す。


「うわぁぁぁ!!!」


痛みで叫ぶ媒介。

だが、口は割らない。


「では次は...」

人差し指へとドリルを合わせる。


その瞬間、轟音とともに空間が傾く。

「まさか...!!」


雪乃は事態を予期できず、壁へと叩きつけられる。

いったい何が起こったのだろう。


暗黒は暗黒で制す。

それは、MoRSにとって最終手段だ。

だが、必要に応じて使う。


その行為は残酷だと言われるだろう。

だが、世界に必要な残酷もあるのだ。

次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。


また、作品のご感想やご意見もお待ちしております。厳しいご意見でも構いません。

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