第3話 正々堂々勝負しろ
受付嬢の説明によると、迷宮の浅い場所に新種のモンスターが住み着いたらしい。黒い鳥型のモンスターで、女性探索者ばかり襲うという、変わった習性をしている。しかも狙われるのは、胸の大きな人ばかりなんだとか。揉まれたりクチバシで突かれたりするみたいなんだけど、それ以外の被害は出てないとのこと。とんだエロモンスターだな!
動きが素早い上に体の大きさを自由に変えられるため、捕まえようとしても逃げられてしまう。ターゲットにされるとしつこく付きまとい、何度も胸を触られる。そして男だけのパーティーで倒そうとしても、絶対に姿を表さない。
幾度となく討伐に失敗し、協力してくれる女性探索者もいなくなった。そこに現れたのが僕たちだ。救世主なんて言われた意味が、少しだけ分かったよ。
初心者でも入りやすい入り口の一つだから、なんとかしてモンスターを排除したいんだって。
「ねえシア、体の大きさを変えられたりするモンスターっているの?」
「ゼーロンやオッゴの迷宮にしか出現しないが、霧のように自在に形を変えられるものや、見た目を変化させる霊的なモンスターは存在するな」
「大勇者が斬りたがってたのはそれね。まったく、私じゃなくてそっちで試せばいいのに、迷惑な話だわ」
「とにかくそいつは女の敵だ。体型でより好みするなど、実にけしからん。私が成敗してやる」
「ボクも頑張って囮になってみるよ」
「スズランも狙われると思うけど平気?」
「逃げるのは得意ですから、ご心配には及びません。必ずマスターのお役に立ってみせます」
シアがやたらとやる気を出してるけど、言葉のニュアンス的には殺る気かな。受付嬢に言われた一言が、シアの魂に火をつけたんだろう。色々漲りすぎてて怖いから、そっとしておこうっと。
「シアがあの調子だし、その依頼は受けてあげるわ。ありがたく思いなさい」
「ありがとうございます、ありがとうございます。もうあなた方以外に頼る人がいないんです。討伐が確認された暁には、特別報奨も出ますので!」
カメリアやスズランがセクハラされるのは嫌だけど、出来るだけの事はやってみよう。こうやって実績を積んでいくのが、中級探索者に上がる近道みたいだしね。早くシアと同じ場所に立って、他の探索者にも実力を認めてもらわないと。
◇◆◇
新種のモンスターが居るという場所は、大きな平原エリアになっていた。木もまばらに生えてて、岩でできた台地もある。そして天井が光ってるから、結構明るい。
「氷原迷宮って言うから、どこも雪と氷に覆われてるんだと思ったけど、こんな場所もあるんだね」
「アーワイチの迷宮とぜんぜん違うから、ボク驚いたよ」
「周りに部屋や通路がないのって、なんだか落ち着かないわね」
「この入口からだと、氷原エリアは少し遠い場所になるな。洞窟のようになった場所もあるし、場所によっては川が流れていたりする」
さすがイノーニで活動してたシアだ、この迷宮のことをよく知ってるな。そんな風に色々なことを教えてくれるシアの表情や声から、憂いや苦悶といった感情は全く見受けられない。
こうして昔のことを割り切ってしまえたのは、背中の傷が消えちゃったから。あの日の朝は八つに増えたスキルのことで一杯だったけど、その実感は後からジワジワやってきてた。
もう列車の中で甘えてくるシアの、可愛いこと可愛いこと。そのまま押し倒したくなるのを何度も我慢したから、自制心がだいぶ鍛えられたよ! 肌の感じも以前とは全く違ってるし、その影響で傷が消えたんじゃないかなって僕は思ってる。スズラン経由でなく僕と直接繋がりを持って、精霊たちの力をより一層受容できるようになったおかげだろう。
「ねぇ、みんな。向こうからなんか飛んでくるよ!」
「来たな、女の敵め」
カメリアは視力がいいよな。僕も目を凝らしてみたけど、遠くの方になにか黒いものが飛んでる。すごいスピードで近づいてくるけど、大きさといい形といいカラスに似てるかも。
――クアァァァァァ
鳴き声も何となくカラスっぽいけど、狙ってるのはスズランかな? あんな遠い場所から大きさを見極められるなんて、どんだけ胸が好きなんだよ。
「スズラン危ない!」
メロンに【神速】と【専念】を発動してもらってたから、触られる前になんとか抱きかかえられた。だけど、僕が割り込んだのを見るや、黒い鳥はほぼ直角に進路を変更。これって鳥の出来る動きじゃないぞ。飛んでるのは羽ばたきじゃなくてスキルの力かも。
「あっ、こら。くすぐったいからやめてよ、それにあんまりつつかないで……」
しまった! まさかあの態勢から、さらにコースを変えてくるとは。この機動力って、ロボットの周りを飛び回るオールレンジ兵器みたいだ。
「私やアイリスを無視するとはいい度胸だ。そこへなおれ、魔法の餌食にしてくれる」
〈雷の――〉
「落ち着きなさいシア。ここで魔法なんか使ったら、カメリアを巻き込んでしまうわよ」
「あぅー、下着がちょっとずれちゃったよ……」
「卑怯だぞ、降りてこい! 正々堂々私と勝負するんだ!!」
危険を察知したのか、カメリアから離れていった黒い鳥は、上空をぐるぐる旋回してる。一度狙ったらしつこく追いかけると言ってただけあって、まだまだ諦めないみたい。
この迷宮は天井の高さがあるから、あの辺りは魔法の射程外になるのか。普通のモンスターと違って、かなり知能がありそう。そもそも触るだけで怪我を負わせたりしないって時点で、普通とはぜんぜん違うんだけどね。
ともかく、下着がずれるほど触るなんて、ちょっと見過ごせない。なにか作戦を立てないと、あの動きを捉えるのはかなり難しいだろう。
◇◆◇
岩でできた台地の近くまで移動し、崖を背にしてスズランに立ってもらっている。僕たちは少し離れた岩陰に待機中だ。黒い鳥は上空を旋回しながらついてきてるので、まだまだ触る気満々らしい。
スズランが一人だけになったのを見て、黒い鳥が急降下してきた。これが罠なのに気づかないのか、それとも天下無双のおっぱいに目がくらんでるのか。たぶん後者かな……
――クアァァァァァ
「この体はマスターのものです、あなたには触らせませんよ」
そう言ったスズランが、ぶつかる直前ですっと消える。急に目標を見失った鳥は、回避運動もできず崖に突っ込んでいく。
――ガンッ!!
ちょっと硬質で、いい音がしたなぁ。クッションもないしさぞや痛いことだろう。今まで消えることのできる人間になんて会ったことないだろうし、まんまと引っかかってくれた。
「なんかフラフラしてるよ、あの鳥」
「いまだよ、シア!」
「任せてくれ、ダイチ。このチャンス絶対に逃さん」
〈雷の雨〉
えっ!? なにこれ。
シアが魔言を唱え終わった直後、彼女の目の前に一冊の本が浮かび上がった。ハードカバーでちょっとクラシカルな装丁のそれが開き、ページが恐ろしい勢いでパラパラめくれていく。最後までめくられたのかパタンと閉じ、そのあといつもどおりに帯状の魔紋が構築される。本が現れたのは一瞬だったけど、一体なにがおきたんだろう。
「いっ、今のは一体なんだ?」
「本がパッと出てきたけど、なんかカッコよかったね!」
「シアの新しいスキルに関係してるなら、今の本は〝魔導書〟じゃないかな」
「知ってるのか? ダイチ」
「僕たちの世界にあった創作物の知識で思いついただけなんだけど、魔法に関する書物はそう呼ばれてた」
シアにスキルが発動した日、そのまま列車に乗り込んじゃったから、魔法を使うのは初めてだ。だから、まさかこんな変化があるなんて思わなかった。だけど新しく発現したスキルに【魔導】ってあったから、何となく当たってる気がする。
「それも含めて大賢者に聞きましょう。それより今はあそこにいるモンスターの処理を優先なさい」
「そうだったな、まずはそっちを先に済ませよう」
「スズランもありがとう、助かったよ」
「皆さまのお役に立てて光栄です」
僕の横に再び姿を表したスズランの頭を、そっと撫でる。とにかくまずは、範囲攻撃を受けて地面に落ちてきたモンスターを、なんとかしないと。でもシアの魔法を受けて消えないなんて、かなり耐久力があるな。
もしかしてスズランの胸を触れなかった未練で、生き残ってるとか? だとしたらすごい執念だ。男としてちょっとだけ共感できるけど、絶対に見習いたくないぞ。
そんな事を考えながら、地面でピクピクしてる黒い鳥へ近づいていった。
あっ、シアは後から撫でてあげるからね。今夜は自宅に帰れるし、いっぱいイチャイチャしよう。だから羨ましそうな目で見ないで、もう少しだけ我慢して。
黒い鳥の正体とは?
次回「往生せいやー!」をお楽しみに。
火曜日か水曜日更新予定です。




