第16話 またやらかしてくれたわね
幸い起動シークエンスは緊急停止していたので、あられもない姿をカメリアに目撃されず済んだ。大きなシーツで助かったよ、本当に。そのおかげでシアも背中とお尻しか晒してない。小ぶりですごく可愛かったです。
そんなこんなで服を着て全員がリビングに集まる。
緊急会議の始まりだ。
「またやらかしてくれたわね」
「やっぱり僕のせい?」
「なにを言ってるのかしらこの下僕は、そんなの当たり前じゃない」
そうだよね、ちゃんとわかってるよ。だけどシアの古傷が治ったり、四個のスキルが新たに発現するなんて、想定外すぎて誰も予想できないって。もし僕にそんな力があるなら、生まれる世界を間違ってたと思う。いくらなんでもエリクサーとか出るわけないから!
「まずはこの子に名前をお願いします、マスター」
「あ、うん。いつまでもほったらかしは可愛そうだよね」
何となくそんな気はしてたけど、やっぱり生まれてたよ、新しい子供。もちろんこの世界にはいない、オレンジ色の精霊だ。もうこの色を見た瞬間に決めてたから、それを伝えてあげよう。
「この子の名前はミカンにするよ」
シアに頭を撫でられていたミカンが飛んできて、僕の頬に顔を擦り付けてくれる。これって僕とシアの子供ってことになるんだよね。こうして甘えてくれるのは、やっぱり可愛いなぁ。
「それもダイチのいた世界で使ってる言葉なんだよね?」
「そうだよ。カメリアの膝に座ってる、メロンと同じ果物の名前」
「響きも可愛いし、良かったなミカン」
ラムネはアイリスとよく一緒にいるし、メロンはカメリアと仲がいい。だから二人の絆で生まれたミカンも、シアにすごく懐いてる。契約精霊のリョクが嫉妬したりしないか心配だったけど、二人並んで肩を寄せ合ったりして、とっても仲良しさんだ。
そしてミカンは魔法に特化した戦護精霊。スズランとの間には、僕たちを守ってくれる守護精霊のサクラ。アイリスとの間には、暮らしや活動を支えてくれる支護精霊のラムネ。カメリアとの間には、身体能力を上げてくれる加護精霊のメロン。四人ともみんなの特徴をちゃんと受け継いでる。もしかしたら遺伝みたいな概念があったりして。
戦護精霊であるミカンのスキルはこれだ。
爆炎:☆☆☆☆☆
凍氷:☆☆☆☆☆
豪雷:☆☆☆☆☆
石巌:☆☆☆☆☆
[突破]
それぞれ火・水・風・土の特級スキルで、上位属性になる炎・氷・雷・石を最初から使える。普通なら上級精霊の星を四個埋めるか、エルフ族にしか上位属性は使えない。つまりそれだけでも規格外ってこと。
だけどエクストラスキルの【突破】は、スズランにも詳細がわからないそうだ。全てのスキルを育てきると、何かしら変化があるはずと言ってたので、楽しみにしておこう。
「問題が私に発現したスキルだな」
「【付与】と【結界】はわかりやすいわね」
「付与ってモンスターが落とす装備品に付いてる効果と、同じ感じなのかな」
探索者がつけてるリストバンドにも、サイズの自動調節や壊れにくくなる効果が付与されている。だけどカメリアが言ったような効果を、人工的に付与することはできない。それに効果付きの装備品を作るには、特殊な魔道具と大量の輝力が必要なはず。
「人工的に付与する時と同じで、大量のマナが必要かもしれないね」
「ダイチの予想は恐らく当たっている。エルフ族のマナ量がなければ、扱えないスキルだと思うよ」
「どんな事ができるのかな? ボク、炎の剣とか振ってみたい!」
「楽しみにしているところ申し訳ないが、私には【付与】も【結界】も使い方がさっぱりわからない。もし魔言が必要ならお手上げだ」
【付与】の魔言は〝エンチャント〟でいけそうだし、【結界】はやっぱり〝バリア〟かな。光のバリアとか張れたら、耐えきれずにパリーンと割れる光景とか見られたりして。
魔言が成立するにはイメージが必要っぽいから、シアにうまく伝えられれば発動するかも。この世界でアニメとか特撮映画が見られたら、すんなり理解できそうな気もするんだけど。
「エルフ族の資料に残されてなかったのかしら?」
「ダークエルフに関する書物は禁書扱いになっていて、国では閲覧できなかったんだよ。もし過去に厄災を振りまいたダークエルフが実在したのなら、そうした事実を隠蔽しようとしていたのかもしれん」
「過去をなかったことにしようなんて、浅はかすぎるわね。たった一人の吸血族を恐れたせいで、種族ごと滅ぼそうとした愚か者たちと同じだわ」
エルフ族が絶滅しなかったのは、国を持ってたからだろう。アイリスたちは少数種族だったので、世界中から迫害されたに違いない。昔話をしてくれたことなんて殆どないけど、アイリスもすごく悲しい過去を背負ってる。吸血族が安心して暮らせる場所、頑張って作ってあげないと!
「【魔導】はエルフの持つ【魔術】スキルに近いものだと思うし、【重畳】はラムネの持つ【並列】と同様かもしれないな」
「いくつも重なり合ってるのを重畳って言うし、たしかに魔法の重ねがけみたいかな」
「うわーん、ボクには難しすぎてわからないよ!」
「いろいろ試してみる必要はあるが、どんな効果が出るかわからない以上、慎重にいかねばなるまい。なにせ全てが手探り状態なんだ」
変に大規模魔法が発動したり、消えない効果を付与しちゃったりすると大変だもんね。迷宮は自己修復機能を持ってるし、崩壊するような危険もなかったはず。試すとしたらそこしかないかな。
「ふぅ……仕方ないわね。できれば頼りたくないのだけど、知ってる人に聞きくのが手っ取り早いわ」
「アイリスに心当たりがあるのか?」
「シアたちエルフ族ならよく知ってる人よ」
「まっ、まさか大賢者様の居場所を知っているのか!?」
中央大迷宮のあるゼーロンで、百年以上前に〝大氾濫〟というものが発生した。迷宮から溢れ出した大量のモンスターを討伐するのに、人族の大英雄とエルフ族の大賢者が活躍したんだったな。まさかそんな有名人と知り合いだったなんて、どうして今まで教えてくれなかったんだろう。
「そんな目で見ないでちょうだい。たまたまよ、たまたま知ってただけ。ちょっとした腐れ縁があるのよ」
大賢者に憧れて国を飛び出したシアが、キラキラした目でアイリスを見てる。ちょっと子供っぽくて可愛い。いや、シアはどんな表情でも可愛いんだけどね! なにをしてても魅力的に見えてしまうのは、惚れた弱みってやつなのかな。
「行こう、今すぐ行こう。早速案内してくれ」
「ちょっと落ち着きなさい、シア。大賢者がいるのはイノーニの国よ、まずは列車で移動しないといけないわ」
「むむむ……そうなのか。ウーサンへいく予定だったが、構わないか?」
「ボクはみんなと旅ができるなら、どこだっていいよ」
「ミカンのおかげで僕も魔法を使えるようになったし、大賢者に会えるなら嬉しいかな」
「私はマスターに、どこまでもついていきます」
そんなこんなで僕たちは予定を変更し、イノーニへ向かうことになった。シアの憧れる大賢者がいったいどんな人物なのか、会うのがとても楽しみだ。
次の閑話で第4章終了です。
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内部設定ですが、精霊の使う魔法スキルには以下の名前がついてたりします。
(低級→下級→中級→上級→特級)
粉→火→猛火→紅炎→爆炎
霧→水→激水→氷結→凍氷
流→風→狂風→雷光→豪雷
塵→土→塊土→岩石→石巌