第15話 僕には前科がありました
(あれ? ここはどこなんだろう……)
ベッドで寝てたはずなのに、いつの間にか外にいた。目の前に広がる地面は青々とした草の絨毯に覆われ、とても気持ちのいい風が吹いている。僕が背もたれにしてるのは樹齢何千年あるんだろうってくらい、太くて立派な木だ。
もしかしてまた世界を超えちゃった?
せっかくシアと恋人同士になれたのに、こんなのタイミング悪すぎるよ!
そんな事を考えてたら、緑色の髪をした小さな女の子が目の前に飛んできた。恥ずかしそうにこっちを見てるけど、くりっとした目ですごく可愛い。空中にふわふわ浮かんでるし、もしかして妖精とか? でも背中に羽は生えてないな。
それに周りをよく見ると米粒や丸い形、それにクリオネみたいなのとか小さな人型もいる。色も赤や青に緑、そして白だ。
「……これって精霊?」
『うん……そう……だよ』
目の前に浮かんでる緑髪の精霊(?)が、そう答えてくれた。この子だけどうして他の精霊たちと違うんだろう。体の大きさは十センチくらいだから、近くを飛んでる上級精霊と同じ身長だ。でもサイズ以外は人と変わらない姿だし、髪とおそろいの色をしたワンピースを着てる。
「ここって精霊の国とかなのかな……」
『あの……残念。ハズレ……です』
周りに精霊しかいないから、そんな場所かと思ったけど違うのか。
「大切な人が出来たばかりだし、できれば元の世界に帰りたいんだけど」
『目が覚めたら……戻れます。心配……しないで』
「あっ、夢の世界なんだ、ここ」
元の場所に戻れるなら安心できる。でも、カラーの夢なんて初めて見た。風や匂いまで感じられるし、凄くリアルだな。
『夢とは……少し違うん……です』
「あれ? そうなんだ」
『あなたにお礼……したくて」
「お礼って、僕なにかした?」
「私のご主人さま……救ってくれて……ありがとう』
「もしかして、君ってリョクなの?」
『……………』
言いたいことを伝えられて満足したのか、赤く染まった顔を隠すようにしながら離れていく。後を追いかけようとしたけど、体がいうことをきかない。もしかしてこれが金縛りってやつ?
なんとか動こうとしてみたけどダメだ。女の子はどんどん遠ざかっていくし、もう諦めるしかないのかな。
「ねー! また会えるー?」
僕の声が聞こえたのか、女の子は小さく手を振ってくれた。また会えるかもしれないし、名前はその時に聞こう。
―――――・―――――・―――――
ゆっくり意識が覚醒してきた。白くてきれいな髪が朝日を浴びてキラキラ輝いている。もしかしてシアを腕枕してたから、さっきは動けなかったのかな。夢とは違うって言ってたけど、一体なんだったんだろう……
そんな事を考えながら視線をずらしてみると、僕たちをそっと見守るようにリョクが浮いていた。
「おはよう、リョク」
スッと近づいて来たリョクが、僕の頬になんども顔をくっつけてくる。もしかしてキスしてくれてるとか? そういえば、僕とシアのことずっと見てたもんな。その行為を真似してるのかもしれない。
「ちょっリョク、くすぐったいって。シアを起こしちゃうから、そろそろやめてよ」
「……ダイチは私の精霊にまで手を出すつもりか?」
耐えきれずに体を動かしたから、シアが起きてしまった。しかもこっちをすごいジト目で睨んでる! いくらなんでも精霊にまで手は出さないって。
――あっ!? スズランっていう前科があった。
これはあれだ、甘いセリフとキスでごまかそう。
ダメな男の典型みたいだけど、それしかない!
「おはようシア。朝から怒ってると、可愛い顔が台無しだよ」
「そんな言葉で有耶無耶になどできんぞ」
この程度じゃダメか。歯の浮き上がりそうなセリフを、頑張って言ってみたのに!
さすがリアルはハードモードだ。
「リョクが僕たちの真似をしてたみたいなんだ。シアにも同じことをしてあげるから、それで機嫌を直して」
「うっ……朝からそのような行為は。……しかし、ダイチとはもっと仲良くなりたい。だが、このままズルズルと流されていいのだろうか。いや、私はもうダイチにすべてを捧げた身、今さらキスの一つや二つ……」
なんかシアの中で天使と悪魔が戦ってそう。あとひと押しってところかな。
「今なら誰も見てないし、僕がとってもしたいんだけど、だめ?」
「しっ、仕方ないな。そこまで言うのなら、私も吝かではない」
よし! なんとかなった。
実のところ、シアとキスしたいってのは本音なんだけどね。だってもう、今朝のシアってすごく可愛いんだ。朝日を浴びて輝く髪や、僕を見つめる熱っぽい瞳。それに肌なんかもツヤツヤで……って、あれ? 光の加減かな、昨日とは色が違うような。とりあえずシアが目をつぶって待ってるし、今はおいておこう。
ゆっくりとお互いの息がかかる距離まで近づく、僕も目を閉じて唇同士を――
――バァーン!!
「おはよーダイチ! 起きてる?」
「ノックを忘れていますよ、カメリア様」
「あっ、ごめん、急いでたから忘れちゃった。それよりどうしてダイチとシアは、そんなに離れて座ってるの?」
急に入ってこられたからだよ! あとちょっとだったのに、どうしてくれるのさ。お互い背中を向けながらベッドの両端に座ってるなんて、ラブコメのワンシーンみたいじゃないか。
「お、おはようカメリア。ちょっとビックリしただけだから大丈夫だよ。それより、そんなに慌ててどうしたの?」
「うん、ちょっと急用があったから二人に伝えようと思って来たんだけど……。今はシアのほうが、大変なことになってるよ!?」
「わっ、私は至っていつもどおりだぞ。歩くのは少々苦労しそうだが……って、なんでもない! 忘れてくれ!!」
「シア様の肌、だいぶ元の色に近づいていますよ。それに背中の傷が消えています」
驚いて後ろを振り返ると、シーツで胸を隠すシアの後ろ姿が目に入る。前かがみになってるせいで、長い髪が乱れて背中を露出させていた。
そこは昨日まであった斜めの傷が消え、シミひとつないスベスベの肌に。そして肌も透明感のある日焼けって言えばいいのかな、光の加減で白く輝いてる。やっぱり気のせいじゃなかったんだ。
「それからさっきチラッと見えたんだけど、ボクの勘違いじゃなければシアのスキルは八個になってるよ」
「えっ!?」
驚いたシアが自分の左手を見て、唖然とした表情で僕たちの方に差し出す。そこには八枚の花びら模様が浮き出ていた。元々持っていた【魔術】【薬術】【知術】【占術】に加え、新たに【魔導】【重畳】【付与】【結界】が追加されてる。
確かエルフ族が発現するのは【書術】のはずだから、新しく増えた四つはダークエルフのスキルってことになるのかな。どっちにしても、種族の限界値である五を超えるなんてすごい。
「まずはシア様もマスターも服を着てください。話はそれからゆっくりしましょう」
朝からバタバタしてたからすっかり忘れたたよ。どうりで肌寒いはずだ!
夢(?)については当面保留です。
オルテンシアが種を超越してしまったので(笑)
次の第16話「またやらかしてくれたわね」を投稿し、オレカスたち三人のエピローグを挟んだら、第4章が終了になります。




