第7話 ボクっ娘はステータスだ!希少価値だ!
誤字報告ありがとうございます!
いつも助かってます。
抱きかかえてみてわかったけど、ツノの折れた魔人族は女の子だった。体はやせ細ってるし、打撲や怪我の跡があちこちあって、これまでの境遇が劣悪だったと良くわかる。例え血の繋がりでこの子の命を維持してるからって、こんな扱いはひどすぎだよ……
「イチカは拭くものと着替えを持ってきなさい、ニナは温かい食事の用意よ、ミツバは大至急お風呂の準備」
玄関ホールで出迎えてくれた使い魔の三人に、アイリスがテキパキと指示を飛ばしてくれる。なんか指揮官とか隊長みたいで、ちょっとかっこいい。僕だとどうしてもお願いになるから、威厳がないんだよね。
「ダイチ、その子が握ってるものを見せてくれないか?」
「これってツノのかけらだよね。灰色になってるけど大丈夫のなの?」
魔人族のツノには色々な形があるけど、この子は頭の両サイドから羊のような角が生えていた。表面は少しデコボコしていて、顔の方へ向かって伸びている。先へ行くに従って細くなって、クルッと巻いてるのが可愛いな。
「これは白化といって、魔人族の生命力が失われている証なんだ」
「それって大変だよ、なんとかしてあげないと」
「失い続ける生命力を補うために〝血の繋がり〟という儀式をするのは、以前も話したな?」
「探索ギルドで教えてくれたことなら、ちゃんと覚えてるよ」
繋がった相手の所有物になってしまうことや、繋がりを与えた側は精霊と再契約できなくなるデメリットがあることなんか、シアから教えてもらった。
「血の繋がりには折れたツノが必要だから、この子が持っていて助かった。これが見つからずに手遅れになったという事例も、あるみたいだしな」
「今は誰とも繋がってないから、白化してるってこと?」
「繋がった状態で相手が命を落とすと、精霊の再契約ができないままなんだ。それを防ぐために、繋がりを絶ったんだろう」
つまり自分たちが逃げる時間を稼ぐため、この子は捨てられたってことか。そんな考えの持ち主だから、平気でひどい扱いをしてきたんだ。そもそもツノが折れたら体の成長が止まるんだから、過酷な迷宮探索に付き合わせるなんておかしすぎる。
「同族を大切にしないなんて、下劣極まりないわ」
「魔人族にとってツノが無いというのは、同族とみなされないも同然だからな。種族全体にそういう価値観が刷り込まれているので、ある意味しかたがない。呪われてダークエルフになった私とて、普通のエルフ族からは忌み嫌われる。この子と似たようなものさ」
そう言ったシアの顔は寂しそうだ。この子を助けようと言ったとき、本当に行くのかシアに確認されたけど、実際は見捨てる気なんて無かったんじゃないかな。それにアイリスだって僕のワガママに付き合うって言ってたけど、きっと同じ種族から捨てられたこの子に同情してたと思う。こんなに素敵な仲間と巡り会えて、僕は幸せだよ。
「僕たちにそんな偏見はないし、まずはここで元気になってもらおう。いいよね、アイリス」
「差し伸べた手を途中で振りほどくような、みっともない真似はゴメンよ。好きになさい」
「ありがとう、アイリス」
なにせこの家の持ち主だし、アイリスに歓迎されないと可哀想だ。こうやって突き放すような言い方をしてるけど、本当は優しい人なんだと僕にもわかる。
「シアは儀式のやり方を知ってるんだよね?」
「書物で得た知識だが、一通りのことはわかる。こんな短時間で白化が進んでいるところを見ると、以前の相手は適当に儀式を執り行ったんだろう。本格的にやるには時間が必要だから、まずは準備を整えるほうがいい」
イチカから受け取ったタオルで拭いただけだし、傷の治療や着替えもしないとだめだ。完全に白くなるにはまだ余裕があるみたいだから、お風呂に入ったり食事をすませたりしよう。
それにこの子が起きてきたら、ちゃんと意思も聞いてあげないと。勝手に繋がりましたなんてのは身勝手すぎる。
◇◆◇
リョクにお願いしてできるだけ怪我を治し、イチカたちがお風呂場で体を拭いてくれた。僕もお風呂に入って夕食をとり、しばらく経った頃に女の子が目を覚ます。かなり衰弱している上に、白化も徐々に進行中だから、スープを飲む気力もないみたい。早くなんとかしてあげないと……
「助けてくれて、ありがとう、ございます」
「この家は誰も近づけない場所にあるから、安心なさい」
「あの二人には絶対見つからないし、あそこにいるダイチは決して君を傷つけたりはしない。ゆっくり体を休めてくれ」
「本当に……うっ……ううぅ………ひっく……」
男に恐怖心があったらマズイなと思って、ベッドの近くはシアやアイリスたちにいてもらったけど、それで安心できたのか泣き出してしまった。どれだけ酷い目にあってきたのかって思うと、胸が締め付けられる。スズランがそっと頭をなでてくれてるけど、やっぱり母親みたいな風格があるよな。
とりあえず名前だけの自己紹介をして、僕も近くに行かせてもらう。この子の名前はカメリアといって、年齢は十八歳らしい。見た目は中学生くらいだったので、すごく驚いた。
なんでも魔人族には成長期というものがあって、十五歳を過ぎた辺りで一気に大きくなるそうだ。カメリアはその前にツノを折られてしまったので、今の姿で成長が止まっちゃったんだって。そのおかげで他の人に売られず済んだ、なんて自嘲気味に話してくれたけど、悲しくなるからそんなこと言わないでほしい。
だってボクっ娘だよ、ボクっ娘。それだけで何ものにも代えがたい価値がある。僕の中でカメリアはとても輝いてるよ。
「ボクにはどうしても、成し遂げたいことがあるんです。下働きでも荷物持ちでも何でもします、どうか繋がりをお恵みください」
「無茶なことをやらせるつもりはないし、そんな卑屈になる必要もないよ。ただ、ここにいる人の中だと、僕しか血の繋がりができないんだけど、それでもいい?」
「えっと、どういうことですか?」
シアは魂に呪いが刻まれてるので、血の繋がりを持つと相手にどんな影響を及ぼすかわからない。アイリスは吸血族なので、血の繋がりで眷属にしてしまう恐れがある。スズランは僕の契約精霊だから、そもそもそんな事はできない。もちろん三人の使い魔も同様だ。そうなると消去法で僕だけになってしまう。
「構いません。こんな体で良ければ好きにしてくれていいですから、ボクと繋がってください」
「みっ、みだらな行為は禁止だ!!」
「しない、そんなことしないよ! 儀式のやり方はシアが知ってるんだから、変なことじゃないってわかるでしょ!?」
カメリアも、もうちょっと言い方を考えてほしい。彼女の見た目は中学生くらいなんだし、いくらなんでもエッチなことはできないよ。僕の見た目も高校生くらいだけど、もう二十歳なんだ。そんなことしたら犯罪臭が半端ないからね!
「話が進まなくなるから、それくらいになさい。とりあえず折れたツノに、ゆっくりと血を馴染ませていけばいいのよね?」
「あっ……ああ、そうだ。血を馴染ませながら、今夜はカメリアのそばにいてやると、完全な血の繋がりが出来る。さすがに成長までは無理だが、今までより状態は良くなるはずだ」
「あの……。血の繋がりを持ったら、精霊と再契約できなくなるけど、いいですか?」
「それは問題ないよ。僕はもうスズランと別れることはないからね」
「はい、私とマスターの絆は永遠です」
嬉しそうに寄り添ってきたスズランの頭を撫でる。血の繋がりによる制約は、僕にとってデメリットにならない。
「しばらく血が止まらないようにしてあげるから、指を出しなさい」
アイリスが僕の手を取って、人差し指に牙を立てる。表情が少しとろけてるし、指先をペロペロなめてるから、力も補充してるみたい。今日も色々お世話になってるし、遠慮せず味わっといて。
満足したのか僕から離れ、シアを連れて部屋から出ていった。部屋の中は僕とカメリア、それからスズランだけになる。
「折れたツノを貸してもらってもいい?」
「はい、お願いします」
カメリアから渡されたツノに血を垂らすと、まるで砂のように吸い込まれていく。一滴でも一応の繋がりを持てるみたいで、恐らく以前はその状態だったとのこと。でもそれだと、ただでさえ弱ってる体に、追い打ちをかけることになる。
カメリアが今まで生きてこられたのは、元々強靭な肉体を持った魔人族だからだ。これまでずっと耐えてきた彼女を、できるだけ元の状態に戻してあげたい。
「今夜はずっとここにいるから、先に寝ちゃってもいいよ」
「あっ、あの。変なお願いしてもいいですか?」
「僕に出来そうなことなら、遠慮せず言ってね」
「えっと……、ボクを膝に乗せて抱っこしてほしい」
「わかった、それくらいなら任せて」
どんな抱っこがいいのかリクエストを聞き、僕もベッドに上がらせてもらう。衰弱して起き上がる力のない彼女を持ち上げ、ヘッドボードに背中を預ける。横抱きにしたカメリアを膝の上に乗せて、上半身をそっと抱きしめた。
「こんな感じでいいかな?」
「うん、これよくお父さんにやってもらってたの。すごく落ち着く」
完全に体を預けてきたし、頭をなでてあげよう。妹がいるのって、こんな感じなのかな。なんだかお兄ちゃんになったみたいで嬉しい。
スズランに年齢の概念はないと思うし、使い魔の三人も一緒だ。シアとアイリスはどちらも年上だから、カメリアは初めてできた年下の知り合いってことになる。やっぱり誰かに甘えてもらうっていいな。
「……お父さん。……お母さん」
そんなことを考えながら頭をなでていたら、カメリアが寝息を立てはじめた。今日はこのまま寝かせてあげよう。明日になれば、もっと元気になってるはず。
「布団をおかけします、マスター」
「うん、ありがとう、スズラン」
「なんだかそうしていると、兄妹みたいですね」
「僕も妹ができたら、こんな感じなのかなって思ってたよ」
撫でていた手を止め、血を馴染ませているツノのかけらを、布団から出してみる。本当ならカメリアのツノは、こんな感じなんだよな。折れていた部分を元の場所に当ててみたけど、欠けてしまった部分があるらしく、少し隙間ができてしまう。
「マスターは何をされているのですか?」
「こうして二つをくっつけた状態で、接合部分に血を馴染ませていったら、一体化しないかななんてね」
僕の血は接着剤じゃないんだから無理だと思うけど、何となくやってみたくなってしまった。そういえば元の世界でも、折れた歯を瞬間接着剤でくっつけた、なんてソーシャルネットにアップしてる人とかいたな。あれは絶対やっちゃダメらしいけど……
「そんなことを思いつくなんて、さすがマスターです」
「自分でも変なこと考えてるってわかってるから、笑わないでよ?」
「笑ったりしませんよ。それがマスターの優しさだって、わかってますから」
優しさとはちょっと違う気もする。単に暇を持て余して変なこと考えてるだけかも。とにかくスズランがそう思ってくれるなら、今夜はこのままくっつけておこう。
「カメリア様の邪魔になりますから、今日はシア様のところに行ってますね」
「あっ、カメリアを横に抱いてるからか。ごめんね、スズラン」
僕が使ってる部屋のベッドなら余裕だけど、この部屋のサイズはセミダブルくらいだ。挨拶をして出ていったスズランを見送りながら、離れて寝るのは初めてだな、なんて思った。とにかく今夜は、固定したツノがずれないようにして僕も休もう。
―――――・―――――・―――――
そして次の日の朝、カメリアの体にとんでもない異変が起こっていた――
カメリアに起こった異変とは?(自明
待て、次回!




