第6話 これは異常事態だぞ
誤字報告ありがとうございました!
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一つ前の「閑話05 カメリア」ですが、昨日(2021/02/27)の午前9時位に最後の部分を書き換えました。カメリアの覚悟と性格が、より反映される表現になったはずです。
(前話のあとがきに履歴を追記してます)
通路を曲がってさらに奥へ行くと、以前見た覚えのある小さな子供が倒れていた。その周りを鳥みたいなものが飛んでいるけど、あれは一体なんだ?
「こんな浅層にロック・バードが、しかも複数だと!?」
「彷徨う者なんだよね?」
「あれは迷宮の奥に生息しているから、間違いなくそうだ。物理攻撃がほとんど効かないモンスターで、中級探索者だと手こずることも多い」
「つまりシアの魔法が頼みということかしら」
「確かに魔法なら倒せるが、いかんせん数が多すぎる。普通、彷徨う者というのは一体で活動するか、多くても二体なんだ。そもそもロック・バードは群れたりしない。あれはかなり異常事態だぞ」
攻撃方法が飛びながらの体当たりなので、群れで行動すると同士討ちの危険がある。だからあんなに集まることはないらしい。動きが速すぎて各個撃破は難しいし、範囲攻撃はあの子を巻き込むからダメ。アイリスの影は屋敷を収納中だから、いまは別のものを取り込めない。
シアによると倒れている子には、モンスターを引き寄せる薬品がかかっている。さっきすれ違った男たちから、その臭いがしたそうだ。攻撃を受け続けるあの子は完全に意識がないし、かなり危険な状態だと思う。
考えろ考えるんだ、僕だって図書館で本を色々読んだ、その中にはモンスターのことも書かれていたはず……
「土系のモンスターって、大量の水をかけると動きが鈍くなるよね。殺傷力の低い魔法で、あの一帯を洗い流すようなものってない?」
「基本的に魔法は攻撃手段だ、何かを破壊したり切り裂くようなものしか存在しないよ」
ゲームなら属性魔法にも補助や防御系があるけど、この世界には存在しないのか。モンスターを引き寄せる薬品も洗い流せて一石二鳥だと思ったんだけど、なかなか思い通りにはいかない。
……いや、待てよ。
以前シアに魔法を教えてもらったとき、英語で唱えた呪文がこの世界の魔言だと言っていた。それに基本の構文は属性と形状の組み合わせだとも。つまりルールさえ守っておけば、新しい魔法を作れるんじゃないか?
ゲームで使う呪文は色々覚えてるし、英語も割と得意だった。霧や雨だと弱らせるには足りないかもしれないから、やっぱり波で押し流すのが一番確実だろう。
「シアにお願いがあるんだ、これから教える魔言を発動してくれないかな」
「いったい何をするつもりだ?」
「今は時間がないから僕を信じて。失敗しても時間を稼ぐから、その間にロック・バードを倒してほしい」
「わかった。ダイチの言うことだ、私に否やはない」
「スズラン。サクラのスキルはどれだけ上げられる?」
「今なら星を二つ上げられますね」
「なら【強堅】と【魔滅】を一つづつ上げておいて」
「かしこまりました、マイ・マスター」
これでロック・バードの攻撃にある程度耐えられるだろうし、万が一魔法の殺傷力が高すぎても大きくレジストできるはず。
スズランの方を見るとサクラを呼び寄せ、両手でそっと包み込んでいる。あれが成長させる方法だったのか。おっぱいは関係ないんだな、やっぱり。
「大量の水を発生させる魔法は〝水の大波〟。魔言は〝ウォーター・ビロウ〟だよ」
「わかった、任せてくれ」
「僕があの子に取り付いて盾になるから、その瞬間に魔法を発動してほしい」
シアが頷いてくれたのを確認し、僕は女の子のもとへ走る。あともう少しという所まで来たのに、掲げていたバックラーへ強い衝撃を受け、壁まで吹き飛ばされてしまった。
「くっ……目がチカチカする」
正面から受けると、さすがに威力がすごい。背中から壁に激突して、目の前を星が飛んでる。探索者ギルドで絡まれた男の攻撃が、漫才の裏拳ツッコミに思える衝撃だ。テレビで見たことあるだけで、実際に受けたこと無いけどね。
あの子は地面に倒れてるから、うまく受け流すような感じになってるのか。そうでなかったら、かなりの致命傷になっていただろう。
「姿勢を低くしながら突っ込みなさい、ダイチ」
アイリスが影を切り離し、倒れている子の上空を覆ってくれた。臭いだけでは目標の位置が正確につかめないようで、ロック・バードたちは離れた場所で旋回してる。今がチャンスだ。
「ありがとう、アイリス!」
しゃがんだ姿勢のまま一気に近づき、女の子を守るように覆いかぶさった。首筋に熱い息がかかってるから、この子はまだ無事な証拠。間に合ってよかった。
「今だよ、シア!!」
〈水の大波〉
プリンターで印刷されるように、帯状の模様がシアを取り囲んでいく。それが一周すると、迷宮の通路に大きな波が発生した。やっぱり英語で魔言を唱えると、この世界の魔法は発動するんだ。
サーフィンの動画で見るような波が通路を埋め尽くし、こちらにどんどん迫ってくる。このままだと自分たちも押し流されてしまうので、波頭が崩れる前に突っ込んだほうがいい。倒れている子を抱きかかえ、今にも崩れようとする波へ走っていく。
かなりの水圧はかかるけど、胸の中に抱いた子を守るように耐えた。たぶんサクラの【魔滅】スキルが働いてるんだろう、現実の波だったら流されてたかもしれない。
水が通り過ぎたあとの通路には、濡れて地面をバタつくロック・バードが転がっている。さすがにあれだけ大量の水を一気に浴びたら、迷宮の奥に生息するモンスターといえどもダメージを受けるのか。
「凄いぞダイチ! 本当に大きな波が発生するなんて、驚いたよ」
「さすが私の下僕ね、新しい魔言を生み出すなんて褒めてあげるわ」
「成功してよかったけど、マナの使いすぎで調子が悪くなったりしてない?」
「それなら問題ない。こんな姿になったとはいえ、私もエルフの端くれだからな」
魔法があの規模になったのは、きっとシアの力がすごいからだろう。赤い精霊だと発動できなかったり、あそこまで大きな波にはならなかったはず。なにせエルフ族は、精霊を超える魔法を使えるんだから。
「あとはモンスターが復活する前に倒すだけだね」
「マスターもそちらの方もずぶ濡れですから、早く戻ったほうがいいと思います」
「私も少し疲れてしまったから、ここから直に影で戻りましょう」
「そうだな、さっさとロック・バードを倒して家へ帰ろう」
飛べなくなったモンスターを一体づつ倒し、アイリスの影転移で家へ帰ることにした。僕も腕の中の子も全身びしょ濡れだから、着替えてお風呂に入らないと風邪をひいてしまう。せっかく助かったのに、熱を出して寝込んだとか勿体ないもんね。
実はシアの放ったこの魔法、とあるイベントを発生させています。
章の最後に閑話が入りますが、詳細はそこで明らかに!




