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特級精霊の主、異世界を征く ~次々生まれる特殊な精霊のおかげで、世界最強になってました~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第2章 スキルがいい仕事をしてくれました

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第10話 僕はヤッてません!

 遠くで甲高い音の鐘が二度鳴ってる、この世界の人が起き出す合図の時報だ。体感的には朝六時って感じかな。太陽が登ってくる直前だから、多分そんなものだろう。今日は寝坊せずにすんだみたい。


 次に鳴るのは大きな鐘が三回で、その時間くらいから店が開店しだす。分とか秒みたいな細かい区切りがないので、ここで暮らす人は時間に関してかなり適当だ。お店なんか日によって結構ばらつきがある。


 昨日は仲介ギルドの依頼で街はずれに行ったら、吸血族の女の子に会った。歴史書にその名残がある程度の、希少種族なんだとか。スペシャル()スーパー()レア()とかウルトラ()スーパー()レア()って感じじゃないかな。カードの背景が虹色のホログラムなやつ。


 そんな子にいきなり下僕(げぼく)になれって言われたのは驚いたけど、住む場所を提供してくれるってことになった。僕の血を定期的に吸わせてあげるのが条件だけど、宿代に比べたら全然安いよね。なんたってお風呂もあるし!


 今日も連結されたベッドで、僕の隣にスズランが寝て、その向こうにシアがいる。昨日までは、僕とスズランの間で寝てたのはピンクの精霊だけだったのに、今朝からなんか一人増えてるんですけど……


 これってどう考えても、スズランが生んだ新しい精霊だよね。それにタイミング的にアイリスと繋がりができたから、二人の子供ってこと?


 見て目が小学生の女の子との間に出来た子供って、色んな意味でマズイ気がするんだけど。いや、アイリスが生んだわけじゃないんだけどさ。



「名前、考えてあげないとな……」


「おはようございます、マスター」


「おはようスズラン」


「二人目の子供が生まれましたね。この子もやっぱり可愛いです」


「こっ、子供だと!? 私が隣で寝てるのに、二人でいったい何をしたんだ!」



 あっ、シアも起きてきたみたい。起き抜けに興奮すると体に悪いよ。スズランとは何もなかったし、僕だっていま知ったところだから落ち着いて。ほら、賢者タイム、賢者タイム。……なんか違うな。


 【新生】の星が増えたことなんて、スズランは一言もいってなかった。もしかして寝てる間じゃないと増えないのかもしれない。あとで聞いてみよう。



◇◆◇



 朝からご機嫌斜めのシアの手で、事情聴取が行われることになった。僕はヤッてません! 吸われただけです、血を! カツ丼食べさせてください。



「まったく、まだ子供だと思って油断した……」



 いや油断って。もしかしたらこの世界でも、手をつないだりキスすると子供ができるって、信じられてたりする? そもそもアイリスは下手するとシアの十倍くらい生きてそうだし、立派なロリババアだよ。これで語尾に〝のじゃ〟ってついてれば、属性モリモリだったのに。


 ……って、ベッドの上で正座させられてるから、余計なことばかり考えてるな、僕は。


 ともかく依頼の達成を人質にとった脅迫みたいなものだったけど、今回はこれで良かったと思ってる。いわば献血してる感覚に近いかも。何度もやってるうちに、味や粘度で健康診断とか出来たりして。


 塗り薬のパッケージに印刷されてるような服を着たアイリスが、「今日の血は少し苦味があるわ、ストレスが溜まってるようだから気をつけなさい」なんて言ってくれるとか……



「とりあえず、まずは名前だよね」


「そうですね。サクラちゃんやリョクちゃんみたいに、可愛いのをお願いします」



 スズランとサクラは花の名前だけど、水色は液体のイメージが強い。そうなるとやっぱりアレしか無いかな。



「それならラムネでどう?」



 僕が名前を呼ぶと、水色の精霊が頬に顔を擦り付けてくる。やっぱりこの子も甘えん坊だ。



「それはどういう意味があるのだ?」


「僕たちの世界にあった、甘くて美味しい飲み物の名前だよ。水色って液体のイメージがあるから、ぴったりだと思ったんだ」


「よかったですね、ラムネちゃん」



 スズランの胸に飛び込んでいったラムネが、そっと抱きしめられてる。なんだか赤ちゃんに、おっぱいをあげてるみたい。そういえばサクラもよく同じ場所にいるけど、もしかしてスズランの【分配】スキルって、あの場所で効果を発揮するの?



「やはり精霊もそこが落ち着くのか。母性とは大きさに比例して……クッ」


「よろしければ、シア様も抱きしめましょうか?」


「今日は朝から興奮してしまったし、心を鎮めるためにも……って、ダイチが見てるのに、そんな真似はできん!」


「マスターはそんなことを気にされないと思いますし、遠慮なさらずとも良いのですが」



 あー、うん。二人がゆりゆりしてるところって、どっちかって言うとご褒美かな。ほら「仲良きことは美しき哉」って、よく見かける名言みたいなものだし。お皿や湯呑に書いて売ってたくらいだから、遠慮しなくてもいいよ?



「とりあえず、ラムネのスキルを教えてもらっていいかな」



 こちらに飛んできたラムネが、空中にスキル一覧を表示してくれる。見た目は上級精霊だけど星の数は五個で、まだ一か所も埋まっていない。ということはスズランの【分配】って、違う方法で使うのか……

  解析:☆☆☆☆☆

  転移:☆☆☆☆☆

  保存:☆☆☆☆☆

  自然:☆☆☆☆☆

 [並列]

 やっぱりラムネの持っているスキルも、特殊なものばかりだ。ドワーフ族には【鑑定】というスキルがあるけど、その上位が【解析】というスキルらしい。スキルの星を埋めていけば、鉱物やアイテムだけでなく、モンスターの情報もわかるんだとか。危険な変異種が出るような場所へ行く頃までには、上げておきたい。


 そして【転移】は文字通り空間転移、そして【保存】は時間停止付きの収納だって。食べ物が傷んだりしないって凄いぞ、まさに異世界チートの定番って感じ。


 【自然】のスキルは気流操作や照明、それに加熱や冷却ができる。ラムネには【並列】って特殊スキルがあるから、二つ使うと温風や冷風を生み出せそう。エアコンみたいな効果も可能ってことだね! 照明はリョクたち緑の精霊が持つ【生活】スキルでも無理だから、輝力の節約になってすごく良いかも。



「相変わらずスズランの生み出す精霊は無茶苦茶だな、世界の常識が変わってしまうよ」


「この子はなんて精霊になるの?」


「ラムネちゃんは支護(しご)精霊ですね。皆さまの生活や探索を支援するために、生まれてきました」



 確かにラムネがいてくれると、暮らしがすごく便利になる。サクラもまだまだ成長できるし、どのスキルを上げていくかは、みんなで相談して決めよう。こんな精霊が来てくれるなんて、やっぱりアイリスと出会えてよかった。



「シアがあの依頼を受けようって、言ってくれたおかげだよ。やっぱり【占術】のスキルって凄いね、ありがとう」


「私もこんな結果になるとは思わなかったが、そう言ってもらえると嬉しいよ」



 精霊たちの頭をなでながら、僕たちはこの出会いに感謝する。アイリスと再会する十日後が楽しみだな。


閑話をもう1話投稿して、この章は終わりになります。

アイリスの体調不良はなぜおこったのか、その原因が明らかに!

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