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復活のティセ

「なるほど……つまりセンパイは前にもここにきたことがあると」

「ああ、そういうことだな」


 どこか責めるような口調。

 ジト目でこちらを見てくる鵜坂に、可能な限り無感情に答えを返す。


 ティセを交えて行った情報交換。

 一通りの状況確認を終え、今後の方針を話し合う中での一幕だ。


「そういう大事なこと、なんで事前に教えてくれないんですか!」

「その、なんて言うか……」


 別に悪気があったわけではない。

 こうして直接目にすれば信じられだろう。

 だが普通にティセの話をしたとしても、理解してもらえないと思ったのだ。


 それに彼女は、海斗が普段どのような働き方をしているのか知っている。

 繰り返される無茶振りに、日々のストレス。

 恐らく精神的に追い詰められていると判断され、病院を勧められていた可能性が高い。


 とはいえ今、そのような考えを伝えても仕方がない。

 どうしたものかと頭を悩ませていると――


「センパイは、私のこと……信じてなかったんですね……うっうっ」

「えっ、あの……」


 鵜坂は目元を押さえながら、声を漏らす。

 突然の事態に海斗は上手く対処できず、思わず救いを求めるようにティセを見つめる。


 仕方ないなぁマスターは。

 視線で語りながら、頼りになるパートナーはゆっくりと鵜坂に近づいていく。

 そしてティセは彼女の顔を覗き込み――ぎょっとした表情を浮かべる。


「……ちょ、マスター騙されないで! この娘泣いてない! 全然泣いてないよ!」

「なっ!?」


 鵜坂を指差しながらティセは非難の声を上げる。

 彼女の言葉に海斗はまさか、と驚きを覚えるが――

 すぐにあの後輩ならあり得ると思い直す。


「う~さ~か~!!」


 地の底から響くような怨嗟の声。

 眉間に皺を寄せながら、海斗は後輩に詰め寄る。


「てへへ、ごめんなさい。でも寂しいなって思ったのは本当なんですよ!」


 すると彼女は小さく笑いながら言葉を発した。

 そんな風に言われてしまっては、あまり強く出ることはできない。


「うっ、それは……すまん」


 海斗なりの考えがあったとは言え、彼女に伝えなかったのは事実。

 ポリポリと頭を掻きながら、悪かったと鵜坂に頭を下げた。


「だからセンパイは盛大に反省して下さい!!」


 余計な一言ですべて台なしだ。

 だがそんなところが鵜坂らしいのかもしれない。


 なんとも言えない気分になってしまった。

 しかしいつまでも、それを引きずっているわけにもいかない。


 ここは空気を変えるためにも、行動するべきだろう。

 海斗は、先程倒したオークのいた場所へと移動する。


 そこに残されていたのは金属製のバトルアックス。

 大剣を地面に突き立て、戦斧に手を伸ばす。

 脳内に浮かびあったのは『魔鉄の戦斧』。


 今までのパターンとは違った名前に少し面を喰らう。

 しかしすぐに『魔鉄』と言う言葉に興味を惹かれる。


 どこか厨二心を刺激するワード。

 海斗は拾い上げた戦斧を片手でブンブンと振ってみる。

 しかしすぐに首を傾げ、少しガッカリした表情を浮かべていた。


 漆黒の大剣に比べて、手に馴染む感じがない。

 有り体に言ってしまえば、どうも肌に合わないといった感じだ。


「センパイ……それって?」


 気を取り直した鵜坂は、興味深そうに尋ねてくる。

 その視線は『魔鉄の戦斧』に釘付けだ。


「ああ、ドロップアイテムって奴だな……よかったら鵜坂が使うか?」


 そう言って彼女に戦斧を差し出す。

 ドロップアイテム、と不思議そうに呟きながら鵜坂は武器を両手で受け取り――


「……うえっ!?」


 そのままの姿勢でスライドするように地面に吸い込まれていく。


 けたたましい音と共に、地にめり込む戦斧。

 咄嗟に手を離したことで鵜坂は無事だった。

 だが舞い上がる砂埃からも、その重量感が伝わってくる。


「ちょっ! センパイ、コレなんなんですか! 有り得ないくらい重たいんですけど!?」

「えっ、そうかな?」


 海斗は戦斧を大して重たいものだと思っていなかった。

 しかし特殊な金属でできた『魔鉄の戦斧』は、そのサイズ感からは考えられないほどに重い。


 重量にして二〇キロオーバー。

 片手でブンブン振り回すようなものではない。


 海斗が軽く扱っていたため、鵜坂は普通に受け取ってしまった。

 いくらゴブリンを倒せる力があったとしても、彼女は若い女性。

 その細腕では、予想外の重量には敵うはずもなかった。


「こんなの当たり前に振り回すとか、センパイの腕力ってどうなってるんですか!?」


 鵜坂の言葉を聞きながら考える。

 そう言えば自分の力は一般的な人類の枠を超えていたのだと。


 問題が起こらないように、普段は自らの能力に制限をかけている。

 しかしこの場所――ダンジョンに侵入したことで、リミットが外れてきていた。


 だがそれも仕方ないことだろう。

 そんな制限は、戦闘において完全に邪魔にしかならないのだから。


「う~む……」


 しかしどうしたものか。

 海斗は再び拾い上げた戦斧に視線を向けながら考える。


 自分には漆黒の大剣という相棒がいる以上、他の武器は不要だ。

 サブウエポンとして使おうにも、サイズ的に持ち運びが厳しい。


 少し勿体ない気もするが、使う者がいないなら仕方ない。

 この戦斧はここに捨てていくしかないだろう。


 戦斧を手放そうとした瞬間――


「マスター、それ邪魔なんだったらアタシが持ってこうか?」


 ティセがこちらに声をかけてきた。


 戦斧と彼女を交互に見る。

 鵜坂が重くて持てないといった『魔鉄の戦斧』。

 それをどうやって彼女が持つというのだろう?


「持つ……ってコレをか?」


 不思議に思いながらも、とりあえず戦斧を彼女に差し出してみる。

 普通に考えれば意味のない行為。

 だが彼女がどうするのか少し気になる。


「ほいほいっと!」


 ティセの伸ばした両手が『魔鉄の戦斧』触れると、戦斧は光を放ち――

 彼女の身体に吸い込まれるように消えていった。

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