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黒歴史

「……やっぱりセンパイも変だって思いますよね?」


 鵜坂は指先でソレを指し示しながら、こちらへと振り返り声をかけてくる。

 目の前には重厚感のある巨大な両開きの扉。

 しかし彼女が言っているのは、この場所に不釣り合いな扉に関してではない。


「あー……」


 海斗は思わず唸り声を上げる。

 彼女の指が指し示す先、そこには――穿たれた穴。


 それはあの日、海斗が破壊したまま――

 なに一つ変わることなく、その跡を残している。


「えっと……どうしたんですかセンパイ、なにか気になることでも?」


 海斗の表情に違和感を覚えたのだろう。

 不思議そうな顔で鵜坂が問いかけてくる。


 彼女は海斗がすでに一度、このダンジョンを攻略していることを知らない。

 短い付き合いとは言え、鵜坂は信じてもいい相手だと感じている。


 とは言え、扉のことを説明するのは難しい。

 それは今にして思えば、他に手段があったのではないかと思えてしまうからだ。


 どこか調子にのっていたからこその結果。

 あえて言葉にするのであれば、黒歴史。

 海斗にとって、目の前の穴はそう言った類のものだった。


「い、いや。なんでもない。そんなことより……」


 誤魔化すように視線で、先に進もうと促す。


 海斗がダンジョンに踏み込むことを許可する交換条件。

 それはこの先にいるモンスターを討伐すること。


 つまり海斗の行動は、ここまでやって来た理由にも合致している。

 彼女は頷き、同意を示してくれた。


「センパイ……準備は大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」


 鵜坂の言葉に、気負うことなく答えを返す。

 何気ない対応。それは彼女を心配させないためのもの。

 顔に出さないよう注意しているが、海斗は一つの不安を感じていた。


 ゆっくりと自身の両手の平に視線を向ける。

 幻視されるのは大剣の姿。

 だが現実では、そこにはなにも存在しない。


 素手でどこまでやれるだろうか?

 武器を持たず未知の相手と戦うのだ。

 不安を感じてしまうのも仕方のないことだろう。


「それじゃあ役割の確認ですけど……」

「鵜坂が取り巻きの相手、俺がボスってことで良いんだよな?」


 時間は止まることなく流れ続けている。

 それにそもそも戦う以外の選択肢など存在しない。

 ならばいつまでも不安を感じている訳にもいかないだろう。


「はい。本当なら私がヤツと戦うべきなんですけど、どうにもならなくて……」


 申し訳なさそうに口にした言葉。

 海斗はその瞬間、表情に浮かんだ僅かな悔しさを見て取り――


「気にするな。俺の方が向いてるってだけさ」


 無意識の内に彼女の頭を撫でながら言葉を発していた。


「うう、子供扱いしないでくださいよぉ……」


 口では文句を言いながらも、彼女はどこか嬉しそうに見える。


 僅かに感じ取れる甘い香り。

 どこか癖になる柔らかい髪質。


 海斗は自身の行動に驚きを覚えながらも――

 本気で嫌がっている訳ではないと分かり、ついつい撫でる手を止められない。


 黙ってされるがままになっている鵜坂。

 しかしいつまでも、このままというわけにもいかない。


「すまんすまん。鵜坂も大丈夫なら……行くか」

「……はい!」


 彼女はどこか残念そうな雰囲気を発している。

 しかし軽く首を振り、ヘルメットを被ることで気持ちを切り替えたようだ。


 海斗は鵜坂に合図を送りながら、扉に手をかけゆっくりと力を込めていく。



 開け放たれた扉。

 遮るもののなくなった視線の先には、懐かしい光景――闘技場が広がっていた。


 海斗の脳裏に浮かぶのは、漆黒の騎士との死闘。

 あの日の高揚が、まるでつい先程の出来事であるかのように蘇ってくる。


「…………」


 海斗は目を閉じ頭を振る。

 感傷に別れを告げ、静かに正面を見据える。

 視線の先には、知ってはいるが実際には初めて見るモンスター。


 三メートルに届こうかという巨体。

 その身体は見ただけで判るような筋肉には覆われていない。


 一見するとでっぷりと脂肪を蓄えているように見える。

 しかしヤツの手にした武器が、その考えは誤っていると警告していた。


 海斗の身の丈ほどはあろうかと言う無骨なバトルアックス。

 両刃それは刺先から石突にいたるまで金属で作れてており、重量感を感じさせる。

 目の前の敵はそれを、当たり前のように両手で保持していた。


 例えるなら相撲取りのようなものだろう。

 その身の奥には、確かな強靱さが見て取れた。


 ピンク色の皮膚を持つ巨漢。

 それはゴブリンと同じく、ファンタジーの世界ではありふれた存在。

 女性の天敵として描かれる――オークの姿だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 以前使用していた大剣が使用可能になるかどうかわからないのに、どうして何の武器も持たずにやって来たの?
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