まるで日曜朝の……
「……は?」
全力で現地へと駆けつけた海斗は、唖然とした表情で声を漏らす。
目の前には複数のゴブリンと戦う人影。
驚きの原因は緑の異形に対抗できる人間がいたことにではない。
その理由はゴブリンと対峙している人物によって発生したものだった。
真っ黒な出で立ち。
全身タイツに、フルフェイスのヘルメットのような物で頭部を覆い隠している。
シルエット的に小柄な女性だと分かるが、その姿はまるで戦隊モノのヒーロー――
「……仮○ラ○ダー?」
いや昭和世代なバッタの改造人間と言った感じだった。
どこか厨二心をくすぐるデザイン。
思わず二度見してしまうが、目の前の光景に変化はない。
見る限りこのヒーロー? に戦う力があるのは間違いないだろう。
ゴブリンの数は――五匹。
格好はふざけているが、複数の敵を相手取っても意外と善戦していた。
しかし多勢に無勢。
少しずつ被弾が増え、追い詰められていく。
「……って、のんびり見てる場合じゃなかった!!」
海斗はハッとした表情を浮かべると、戦闘に参加――すべきか考える。
黒ずくめの女性は、まだこちらに気付いていない。
状況的に助けた方がいいのは間違いないだろう。
しかし、余りにも相手が不審すぎる。
こんな怪しい相手に顔を晒しても良いのだろうか?
常識的な社会人としての考え、そして意外と戦えている女性の姿。
それらが合わさり、海斗は行動しかねていた。
怪しさは天元突破しているが、見捨てるのは心苦しい。
それに相手の格好は相当アレだが、ゴブリンと戦っている。
つまり少なくとも現時点では、敵と言う訳ではなさそうだ。
きっとあの格好も何か理由あってのことだろう。
もし趣味であれば、本気で関わりたくないが――
周囲は薄暗い。
仮に後で何かあっても、知らないと言い逃れも出来るはず。
考えをまとめた海斗は、怪しい女性を助けるために動き出す。
女性のを中心とし、前後に二対三の布陣。
先程の戦いを見るに、半数を引き受ければ恐らく問題ないだろう。
「……せいっ!!」
軽く助走を行い――跳躍。
女性の後方から襲い掛かろうとしていたゴブリンを蹴り飛ばす。
その一撃はまさにラ○ダーキック。
別に目の前の相手に触発されたせ訳ではない。
海斗が昭和最後のラ○ダーが好きだったとしても、それはただの偶然のはずだ。
跳び蹴りを受けたゴブリンは、きりもみしながら飛んで行く。
直撃を受けた首はあらぬ方向に曲がっており、一目で戦闘不能だと判断できた。
「……えっ!?」
「……ギャッ!?」
綺麗にハモる声。
残された四匹のゴブリン、そして黒い女性。
五対の瞳、その全てが驚きの色と共に海斗へと集中する。
戸惑い騒然とする緑の異形。
そして謎のヒーローも――
「…………イ?」
小さく何か呟き、石像のように固まっていた。
動かぬ謎のヒーローと背中合わせになるように移動。
目の前に存在する二匹のゴブリンへと向かって構えを取る。
「セ…………ンンッ!」
咳払いをしながら、周囲を見回すヒーロー。
どうやらまだ状況が飲み込めていないようだ。
しかしそれも仕方ないのかもしれない。
突然謎の男がラ○ダーキックで乱入してきたのだ。
状況が理解できなかったとしても不思議ではないだろう。
「こっちは俺が……残りは任せた!」
「あ……はい。よろしくお願いします」
こちらの言葉にハッとした様子で動き出す。
格好は奇抜だが、意外と素直な反応。
ヘルメット越しの声はくぐもっているが、恐らく女性のもので間違いなさそうだ。
なぜゴブリンと戦っているのか。
どうしてこんな特殊な格好をしているのか。
疑問は尽きないが、まずは目の前の状況をなんとかしてからだろう。
海斗は合わせた指先をポキポキと鳴らしながら、ゴブリンに向かって歩き始めた。
一瞬で二匹の異形を殲滅。
この一週間でゴブリン駆除マイスターと化していた海斗にとっては、特別語るところのない単純作業。
空気に溶けていくゴブリンの姿を横目に、『気配察知』を発動する。
念のため、伏兵が潜んでいないかを確認するためだ。
他に脅威となる存在はいないと判断し、背中を任せたヒーローへ視線を向ける。
加勢すべきか? そう考えていたが、どうやら余計な心配だったようだ。
彼女の側で光となってきていくゴブリンの姿。
既に一匹の討伐を終え、一対一の状況に持ち込んでいた。
恐らくそんなことはないと分かっている。
だが万が一があった時のため、すぐ動けるように警戒は解かない。
戦況から見れば、どう考えても心配しすぎだ。
しかし性分である以上、こればかりはどうにもならない。
戦いの推移を見守っていると、ヒーローがゴブリンに蹴りを入れ距離を空け――
即座に右拳を引き、正拳突きのような構えをとった。
何をするのだろう。
少しワクワクした気持ちで彼女のことを眺める。
するとヒーローの右拳に光が集まり――
「シャイーン……ナッコー!!」
一瞬でゼロになる距離。
光を纏った拳がゴブリンの胸元に突き刺さる。
なぜ技名を叫ぶのはよく分からない。
ついでにキックじゃないんだ、と言う気持ちもある。
だがそれは――正しく必殺技と呼べるものだった。
仰向けに倒れるゴブリン。
その旨には拳の跡が残されている。
少し驚きながら、視線を向けていると――
彼女はビクリと身体を震わせ、こちらに向かって振り返る。
「……えっと……あの……」
何か伝えたいことでもあるのだろうか?
どこかモジモジとした雰囲気を漂わせている。
真っ黒な仮○ラ○ダーもどきが、恥ずかしそうにしている姿。
それは中々に恐ろしいものだった。
こちらも彼女に確認したいことがある。
若干引き気味になりつつも、口を開こうとし――
「助かりました! 私はこれで!!」
大きな声で遮られる。
ヒーローは声を発すると同時に、ビシッと敬礼。
そのまま止める間もなく駆け去って行く。
「……えっ?」
一人取り残される海斗。
何だったんだろうと唖然としながら、暫くそのまま立ち尽くしていた。




